第6話 魔法
今日で連続更新は一旦終了。次の更新は早くて14日位になると思う。
『未開の森』――此処の木はどんなに焼き払おうが凍らせようが一ヶ月もすれば元の姿に戻り、その所為で一度入れば目印をつけない限り迷ってしまい肉食動物の餌食となってしまうこの森で突如爆発が起こった。爆心地では一人の少年が佇んでいた。
「――これが魔法……。」
少年――倞は自分がやった事だと信じられないようだったが、背後から近づいてくる気配を感じ振り向くと目の前に靴の裏側が――
「グハッ!?」
「誰が此処までやれって言ったボケ!」
「痛い!リリス、その足で背中グリグリするの痛いからぁぁぁ!?」
「加減も分からん奴が悪いだろうが!」
それから暫くリリスは倞の背中をゲシゲシと蹴った後、改めて爆心地を見る。
「……それにしても出鱈目ぞこれは。」
「いやぁ、魔法の存在を知ってから2週間もの間、魔力を感じる修行しかしていなかったからついついやっちゃったよ。まぁこれでも大した事無いけど。」
「いや、普通に『バーニングボール』でここまで出来る奴は『宮廷魔導師』でも居るかどうかだぞ。」
呆れ半分、驚愕半分の表情でリリスは言う。
魔法は魔方陣に送り込む魔力の多さにより威力が変わる。例えば『ファイヤーボール』だが、必要最低限の魔力で撃つと直径15cm程の大きさになるのだが、『宮廷魔導師』が持てる魔力を全て注ぎ込めば直径100m程にする事が出来る。実際はそんな事するよりも他の魔法でやった方が魔力の節約になるのでやらないのだが。
そして『バーニングボール』の発生の仕方は「火」「球」「爆発」の三つを魔方陣に書き込む事により発生させる事が出来るが、「爆発」を書き込む事は実は『ファイヤーボール』を習得してから約六ヶ月程かけて覚えるものである。では何故つい二週間前まで魔法など存在しない世界に居た倞が何故こんな短期間で使えるようになったかのか。それは彼の体質にある。
倞は普通は見る事が出来ない魔方陣の文字を見る事が出来る。しかも書かれている文字が何故か漢字であった。この二つの要因が倞が二週間で「爆発」を習得できた理由だ。
因みに『ファイヤーボール』はまだ撃ってすらいないのだからつくづく常識が通じない事を改めて理解したリリスは何度目か分からない溜息をついた。
「それじゃ、粗方基本的な魔法と魔力操作が出来るようになったら『未開の森』を抜けるぞ。」
――と言っても魔力操作ですら三日程で出来てしまうだろうがな。
教えた事を文字通りスポンジの如く吸収していく|教え子(倞)に軽い恐怖すら覚えるが、面白いと言う感情すら芽生えてくる。
(此奴と出会ってから今までの自分が保てんな。)
そんな事を考えながら目の前で他の魔法を撃っている倞の事を眺めていた。
*
リリスの予想通り三日めに魔力操作もかなりの所まで行った為『未開の森』を出る事になった。
荷物は倞がこの世界に持って来たカバンとリリスが持っていた袋に『聖果』と魚を入れ三週間過ごした拠点を後にする。その際、倞はこの世界に来てからずっと寝泊まりしていた拠点を見て涙を流すと言う事が起こったがリリスはそれを見なかった事にし出発した。
目指すはラツア王国にあるエードと呼ばれる都市だ。ラツア王国とは475年前から存在する最古の国であり、国土は現在存在する大国の内、最大の領土を保有している国である。
エードはそんなラツア王国の内『未開の森』から一番近い位置にそれなりの規模であり、尚且つラツア王国の首都アウルから離れており何かと都合がよかった。
*
歩き始めて早二日。一向に変わらない景色に倞は「本当にこっちで合ってるんだろうか。」と不安になり始めていた。
リリスに聞いても「さぁな。」とあしらわれてしまい、ますます不安になる。そしてその日の午後から辺りに獣臭が漂って来る事に気が付いた。
「なぁリリス。何か獣臭くね?」
「あぁ、『未開の森』は内側はまだハッキリと分かっていないのだが、外側――一般的には『黄泉の入り口』と呼ばれている――には辺りでは先ずお目にかかれないような高レベルのモンスターや魔獣が存在しているんだ。恐らくそれの臭いだろ。」
因みにリリスが追放された時は索敵魔法を使用しなるべくモンスター達と遭遇しないように細心の注意を払いながら行ったため行きは無事だった。(正し、帰り際に複数のモンスター達に囲まれ二度と故郷へは戻れなかったが。)
「えっ?それじゃエードだっけ?そこは危なくないのかよ」
「普通は冒険者が駐在している。しかもエードは『未開の森』から一番近い場所に存在する。その為にエードには選りすぐりの強者が多数存在している。」
わかったか?と目で尋ねるリリスに倞は、
「そもそも冒険者って?」
「お前は馬鹿なのか?馬鹿なんだな?そうだよな。そうに違いない。」
「めっちゃ人を馬鹿にするのはやめてくれませんかねぇ!?」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんだ?普通常識だろ。」
その言葉にうぐっ、と声を詰まらせる。暫く視線を上に下にと忙しなく動かすが決心がついたのか、リリスに向かい合うような感じで話し始める。リリスも倞の雰囲気から悟ったのか決してふざける様な事はせず、真摯に話を聞く。
「俺、実は他の世界から来たんだ――」
そこから倞は地球の事を、今までの事を全て包み隠さずリリスに話した。
普通ならこんな事はしないだろう。だけど場の雰囲気の所為か、または他の要因か――兎も角、倞はリリスに全て打ち明ける。リリスの方も最初は驚いていたものの、次第に真剣な顔つきになり、倞がすべて話しおえた後、「だからあそこまで不自然だったのか。」と納得し、
「この話は他言無用だ。何があろうと人前で話すな。良いな?」
と何時に無く真剣な表情で言う。
その態度に、
「な、なぁ、自分で言っててなんだがアホらしいとは思わ無いのか?」
「何だ?お前は私に嘘でも付くのか?」
「――えっ?」
「全く……。この二週間お前は私に隠し事はしても嘘は付いていないだろ?」
「いや、もしかしたらこれから付くかもしれないとか思わないの?」
「その時はその時だ。私の見る目が無かったのだろう。」
いやいや、男らしすぎるだろ。倞は思わず呟く。
リリスはその言葉に、
「女に向かって失礼な奴だな。」
「聞こえてたのかよ。」
「ハーフエルフの耳嘗めるな。」
若干声が不機嫌になったのを見て倞は慌てて話を戻す。
「でもよく俺を信用する事に躊躇が無いよな。」
地球で友人から勇者より魔王と言われていただけあって、全く善人では無い事は重々承知なのだが逆に此処まで信用されると裏に何かあるのではと勘潜ってしまう。
「『どちらかが歩み寄らねば何もできない。』――これは私のお祖父さんからよく聞かされていた話だ。それと同時に『勇気と無謀は紙一重。お前は他人をよく見て自分が良いと思うようにやりなさい。』とも言われた。」
だから――
「――だから私はお前を信じる。」
その言葉に倞は俯く。その言葉を言った時のリリスがあまりに輝いている様に見え、自分が少々情けなく見えてしまったからだ。
「……ありがとう。」
ボソッと呟く様にお礼を言う。
「どういたしまして。」
リリスは少し微笑みながら答える。
だが直ぐに表情を戻す。
「――少々話しすぎたかな。囲まれかけている。」
その言葉に、倞も周囲に意識を張り巡らせる。
「数は10~13程、少しずつだけどこっちに詰めて来てる。……どうする?」
「無論唯やられるだけなら詰まらん。今の内に少し術を教えてやる。それを使ってこの状況を切り抜けろ。」
「リリスはどうするの?」
「……後方で見物でもしているよ。危なくなれば手は貸してやる。だが気をつけろよ。この辺に居る奴は普通なら逃げないと不味いレベルの奴らばかりだ。」
その言葉に倞はニタリと笑う。
「大丈夫だ。リリスが信じる俺なら。」
「……そうか。」
リリスは一瞬呆けるがクスリと微笑みながら倞の言葉に反応する。
「――さぁ、やるぞ野郎共。精々俺を楽しませろよ?」
最近書く事より設定作って頭の中で妄想してにやける方が楽しくなってきました。はい。傍から見ると変態ですね。