「私は男と同じです」と言って王子と公爵令息に近づいた令嬢の末路。
「お前、フェレク公爵家を怒らせたな」
ミリア・バレ男爵令嬢は久しぶりに家に帰った。
そしていきなり父バレ男爵に言われたのだ。
「怒らせたって、私、レイド様が相談に乗って欲しいっていうから、その夜、身体の関係もあったから私、結婚して下さいってお願いしただけよ」
「だが、お前は騎士団では、他の団員から注意されても、私は男性と一緒です。ですから、男性と距離が近いと言われても困ります。と、言って親しくフェレク公爵令息と付き合っていたのだろう?お前が誘惑したとフェレク公爵家では言っているが」
父に言われてミリアはどきりとした。
確かに普段から距離は近かった。
レイドやバレン第二王子と親しく付き合っていたのだ。
バレン第二王子や、レイド・フェレク公爵令息が身体を鍛える為ということで、騎士団に所属していた。
二人とも金髪碧眼の凄い美男だ。
ミリアは胸がときめいた。
だから、この二人に近づいたのだ。
彼らには当然、婚約者がいる。
バレン第二王子はガード公爵令嬢と婚約していて、婿入りする事が決定していた。
レイド・フェレク公爵令息はバレン第二王子の妹である王女と婚約していて、王女を娶る事が決められていた。
だがミリアは夢を見た。
彼らと親しくなれば、もしかして、自分を選んでくれるかもしれないと。
ミリアは自分の容姿に自信があった。
艶やかな茶の髪に青い瞳。
胸もそれなりにあり、可愛らしい容姿だ。
ミリアは下心満載で彼らに近づいたのだ。
「私はミリアと申します。男性と同じと思って、接して下さって結構です」
バレン第二王子も、レイドも頷いて、
「それは頼もしい」
「女性ながらその心意気、気に入った」
他の女性騎士団員達は、ミリアのように、男性に親しく話しかけたりはしない。
二人は特に王族に高位貴族だ。
それなのに、ミリアはどんどんと二人と距離を近づけていった。
時には親し気に肩に手を置いたり、上目づかいに見上げたり。
スキンシップもさりげなく増やしてみた。
昼食も共に食堂で取り、楽しく剣技の話をした。
バレン第二王子は、
「ミリアと話をしていると楽しい。色々と勉強になる」
「有難うございます。光栄です」
ミリアの隣に座っているレイドも優雅にステーキ肉を食べながら、
「私のおごりだ。特別定食を頼んでおいた。楽しむがいい」
「嬉しいです。なかなか食べられないので」
最高級の昼食にもありつけた。
ミリアは二人に気に入られている。
男と同じに扱って欲しいと言ったが、もしかしたら自分に恋心を持ってくれるかもしれない。
ミリアは期待した。
そんなとある日、レイドに、
「相談事に乗って欲しい。夜、私の部屋に尋ねて来てくれないか?」
と言われたので、
「はい。私でよければ」
夜、こっそりとレイドのいる宿舎へ訪ねて行った。
部屋に入った途端、レイドにベッドに押し倒された。
「相談事というのは、このような事だ」
乱暴にベッドでレイドに抱かれた。
男性は初めてではなかったが、あまりの乱暴さに、ミリアは涙が出た。
レイドは終わった後、平然と服を着て、
「相談事は終わった。早く部屋に帰るがいい。誰かに見られたら困る」
そう冷たく言われたのだ。
自分の部屋に戻ったら、涙が零れる。
でも、身体の関係を持ったのだ。
もしかしたら、王女様との婚約を解消して、自分と婚約してくれるかもしれない。
ミリアはそう期待した。
でも、まったくレイドの態度は今までと変わらなくて。
バレン第二王子を交えて、男友達として、接するだけの日々。
あまりにも酷いので、とある日、ミリアはレイドに向かって言ってしまった。
「私と身体の関係があったのだから、私と結婚して下さい。レイド様っ」
バレン第二王子も共にいたものだから、驚いたようにレイドの方を見て、
「そうなのか?レイド」
レイドは平然と、
「気まぐれに手をつけたまでです。君は男と同様なのだろう?あの夜の事は忘れて欲しい。私の気まぐれなのだから」
あまりにも悲しかったので、
「私、レイド様の子がお腹にいます」
嘘を言ってしまった。
レイドに睨まれた。
「子を諦めろ。私は王女殿下と婚約中だ」
「でも、私はレイド様の子がっ」
「相手は王族だぞ。何故、王族の妻を諦めて、男爵令嬢ごときの女を妻に娶らねばならん。冗談じゃない」
「そんな……」
バレン第二王子が、
「君は男と同じなのだろう?だから私は友として君と付き合った。それなのに、レイドと身体の関係を?これからの付き合いを考え直さねばならないな」
と言われた。
騎士団長に呼ばれて、
「騎士団内での恋愛は禁止されている。男性の宿舎に忍んでいって、誘惑したそうだな。レイド・フェレク公爵令息を。騎士団員としてあるまじき行為だ。従ってお前を騎士団から解雇する」
「私はレイド様に呼ばれて行ったのです」
「そもそも、男と同様だからと、第二王子殿下とフェレク公爵令息に近づいたと聞いている。何が男と同様だ。フェレク公爵令息に結婚を迫ったそうだな。ガード公爵令嬢は私の姪だ。しっかりとバレ男爵家に苦情を入れさせて貰う。良いな」
こうして、ミリアは騎士団を退団する羽目になった。
ただ、夢を見ていただけじゃない。
バレン第二王子かレイド様と結婚して、玉の輿に乗る夢を。
私の何がいけなかったというの?
ガード公爵家から、フェレク公爵令息を誘惑したとして、厳重注意をバレ男爵家は受けた。
ガード公爵家の寄り子であるバレ男爵家。
ガード公爵家の怒りを恐れて、ミリアは家を叩き出された。
レイドに会いに、騎士団へ行った。
部外者扱いされて中に入れて貰えなかった。
「レイド様に手紙をっ。私、行くところがないのです」
門番は渋々受け取ってくれた。
ただ、渡して貰えるかどうか解らない。
結局、レイドからは連絡もなく、ミリアは苦労して職を探すしかなかった。
ミリアは現在、
酒場で酒や料理を運ぶ仕事をして、生きている。
新しい男も出来た。
ただ、そいつは顔だけは美しいが酒ばかり飲んで、ミリアに金をたかる最低の男だ。
風の噂で、バレン第二王子とレイドがそれぞれの婚約者と結婚したと聞いた。
どうしてこうなった?
私はただ、玉の輿に乗りたかっただけなのに。
せっかく稼いだ金も男に吸い上げられて、いつも生活が苦しくて仕方が無い。
今日もミリアは酒場で疲れ果てながら働くのであった。
レディリシア王女は、調査書を見て眉を顰めた。
男と同様に扱って下さいと言いながら自分の婚約者レイドと、兄バレン第二王子に近づく女がいる。
それも騎士団に。
ミリア・バレ男爵令嬢。
そう言いながらも、やたらとレイドと兄に対してスキンシップが多いと調査書に書かれていた。
レディリシアは扇を叩きつけた。
その女、愛人狙いかしら。
結婚前から愛人を許す程、レディリシアは、寛容ではない。
レイドはとても美しい。
一目見て気に入った。レイドの家、フェレク公爵家も名門だ。
嫁入りすることを楽しみにしていた。
それなのに?
更に調査書にはとんでもない事が書いてあった。
レイドがその女を部屋に呼びよせて一晩、身体の関係を持ったというのだ。
わたくしというものがありながら?身体の関係を?
許せなかった。
兄バレン第二王子の婚約者であるガード公爵令嬢ヴァランシアを呼んで相談した。
ヴァランシアは、
「わたくしの叔父が騎士団長をしております。叔父からその令嬢を退団させるように、わたくしから頼みますわ」
「そうね。このままその女を騎士団へ置いてはおけないわ」
浮気をしたレイドの事を罰しないのかって?レイドは一人息子なのよ。
そのレイドの家に嫁ぐことこそ、わたくしの生きる道。
レイドを罰してどうするの?たった一回の過ちごときで、わたくしはレイドを罰することはない。
だが、繰り返すようなら、考えなくてはならないわ。
レイドを呼びつけた。
そして、レイドに向かって、浮気の事を問い詰めた。
レイドは慌てたように、
「たった一回、魔が差しただけです。本当に愛しているのはレディリシア王女殿下だけです。二度と浮気は致しません。どうかお許しください。あの女が距離を詰めてくるのがいけないのです」
「そうね。今回は大目に見ましょう」
許す事にした。
ただ、あの女は許せない。そう思った。
騎士団を退団になり、家を追い出されたあの女。
酒場で働き出したようだ。
だから、あの女の傍に屑男が近づくように仕向けた。
あの女は顔が良い男が好み。
案の定、顔だけは良い屑男に引っかかったようだ。
働かないで酒ばかり飲んで、ベッドの中だけは上手い屑男。
あの女は一生、離れる事が出来ないだろう。
泣きながら苦労して頂戴。
貴方はわたくしの婚約者に近づいて、わたくしの婚約者と過ちを犯したわ。
二度と、幸せになることは許さない。
それが貴方に課される当然の罰。




