見捨てられた魔法少女
海源凛空が目を覚ますと、最初の反応は悪態をつくことだった。くそ、また生き残っちまった。
彼女は脇にある焼け焦げた枯れ木に手をついてよろよろと立ち上がり、目を上げると、そこは見慣れた地獄だった。
焼け焦げた荒野には切り落とされた手足が敷き詰められ、魔物の牙と砕けた魔法少女の杖が絡み合って小山を作り上げ、ハゲワシとハエのバイキングになっていた。
こんな光景を何度目に見たのか、もうわからなかった。
海源凛空は無感動に、血と泥まみれでボロボロになった白黒のワンピースを叩いた。スカートのレースはとっくに引き裂かれ、細い黒ストッキングの脚が覗いていた。
全滅した部隊からたった一人で生き残ったのが何度目か、もう思い出せなかった。
いつものように、彼女は死体の山から半身になった通信員を探し出した。
昨日まで半分のチョコレートをくれたあの子は、目を見開いたままだった。
海源凛空は血にまみれた指を伸ばし、自分の胸にゆがんだハートを描いた。
「モリーナ様、どうか彼女の魂が無事に聖界へ行けるよう、お守りください」
彼女は慣れた手つきで通信員の手首についていた予備端末を外したが、アンテナの筐体には三本の深い爪痕が残っていて、中のチップはなんと無傷だった。
だが電源ボタンを何度押しても、画面は真っ暗なままだった。
海源凛空は力が抜けて泥の中にどっかり座り込み、曇り空をぼんやりと見つめた。
不運な一生が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
幼い頃に母を亡くし、父は1億円の高利貸しを抱えて夜逃げした。やっとできた彼女は、自分をATM代わりに最後の一銭まで搾り取った。行き詰まって月給50万の求人を見つけたら、身長150センチの白いツインテール魔法少女に改造されてしまった——あるべきものもないべきものも、全部つけられた。特に胸のでかい余計な肉は、3ヶ月経った今でもまだ慣れない。
もっと最悪なのは、彼女には呪いがかかっているらしいことだった。
彼女と一緒に任務に出た部隊は、全部全滅してしまう。
彼女だけが、毎回無傷で目を覚ます。
「モリーナ様よ、本当にいらっしゃるなら、早く楽に死なせてください」
「このクソみたいな人生、もううんざりだ」
すぐ近くの鋭い岩をぼんやり見つめ、本気で頭をぶつけようかと考えていた時、猛烈な空腹が胃の中で炸裂し、一瞬にして彼女の死にたい気持ちを吹き飛ばした。
海源凛空の迷茫とした目が、ぱっと澄んだ。
「こうなったら、まず飯を食おう」
彼女は懐から非常食を取り出し、包装を破いた。
中には、白くて冷たい泡の塊が入っていた。
手にしたものを見て彼女の瞳孔が収縮し、瞬く間に理解した。指揮官が開けるなと言った理由が。会社は最初から、私たちを生きて帰すつもりなんてなかったんだ。
海源凛空は怒りを込めて泡を地面に投げつけ、「くそっ」と罵ろうとしたが、もう空腹で罵る力さえ残っていなかった。
海源凛空は腹を空かせて戦場をさまよい、一人一人の死体をめくったが、誰の非常食も泡だった。指揮官のものさえも。
「このクソ会社、本当に平等だな」と苦笑いしながら歩き続けていた時、突然何かに足を取られた。
振り返ると魔物の死体だった。そのまま歩き続けようとしたが、どうしても足が動かなかった。そして先ほどの魔物の死体の肉が、まるでピンクのハムのように見えた。
海源凛空は拳を握りしめて最後の抵抗をした。だってこれは生肉だし、見知らぬ世界の奇妙な生物だ。
だが彼女の胃は、この奇妙な生物の肉を拒絶していないようだった。それどころか、脳がどんどん食べたくなっていた。
ついに海源凛空の人間としての防衛線は崩れ、獣のように魔物の体をむさぼり食い始めた。
しばらくして、海源凛空は気持ちよく口元を拭いた。突然「ピン」という音がして彼女はびっくりした。本部から連絡が来たのかと急いで端末を取り出したが、やはり何の返信もなかった。
がっかりして端末を閉じようとした瞬間、特性の欄に赤い点が一つ増えているのに気づいた。タップすると、画面にこう書かれていた。
【新特性:鉤爪】
「鉤爪?」海源凛空は疑問に思いながら自分の手を見たが、何の変化もなかった。手は元の手のまま、爪も元の爪のまま。だが手の中に、目に見えない力が流れているのを感じた。
彼女は息を呑んで力を手に集中させ、勢いよく伸ばすと、白い鉤爪が目の前に現れた。
彼女は信じられないように、目の前の氷のように透明な鉤爪を見つめた。
脇の枯れ木で試してみると、白い光が一瞬走り、枯れ木は真っ二つに折れた。
新しい能力に、海源凛空は興奮すると同時に悲しくなった。ため息をつきながら思った。もっと早くこの能力に気づいていたら、仲間たちは全滅しなかったんじゃないか。
だが、こんな騒ぎのせいで海源凛空はまた腹が減っていた。彼女は再び魔物の死体のそばに歩み寄ると、今度はそれほどの心理的抵抗もなく、魔物の鉤爪を手に取るとがぶりとかじりついた。
数口かじったところで違和感を覚えた。獣の低いうなり声が聞こえてくる。見上げれば、狼の姿をした魔物が恨めしげにこちらを睨んでいた。
どうやらこの死体を狙っているらしい。凛空はゆっくりと死体の肉片を置いた。さっきの死闘で疲れているし、余計なトラブルは避けたいところだった。
だが魔物にとって、同類の死体など目の前の柔らかく瑞々しい少女の香りには足元にも及ばない。よだれをたらして牙を剥き、猛然と襲いかかってきた。
凛空は魔物が飛びかかった瞬間に攻撃を繰り出し、魔物の顔面に深い爪痕を五つ刻みつけた。青い血が伝って流れ落ちる。
凛空から鉤爪が生えているのを見て魔物は驚き、素早く横に跳び退いて攻撃態勢を立て直した。片方の爪で地面を引っ掻き、大きく口を開く。
百戦錬磨の凛空には、これが魔物・炎狼の火を吹く前の前兆だと一目でわかった。
彼女は口角を上げた。
「小者め、攻撃パターンは相変わらずだな」
炎狼が火を噴こうとした瞬間、凛空は地面に落ちていた肉片をその口にねじ込んだ。
攻撃不能になった隙に、凛空は自らの鉤爪でその体を一突きに貫いた。万事休すと悟った魔物は最後の力を振り絞り、空に向かって壮絶な遠吠えを上げると息絶えた。
凛空は魔物から手を離し、周囲に警戒を張り巡らせた。これが何を意味するか、彼女は痛いほどわかっていた。自分の部隊が尽きることのない魔物の群れに囲まれ、疲弊しきって全滅したのと、まったく同じ状況なのだ。
彼女は急いで炎狼の死体を食べて火炎吐息の特性を得ると、一目散に逃げ出した。だが魔物の大群の迫りは、それ以上に速かった。
凛空は仕方なく、手に入れたばかりの特性を発動させる。
「うわあっ!」
凛空の口から炎の一筋が噴き出し、後ろから迫る魔物を阻んだ。それを見た他の魔物たちは、両脇から回り込んで凛空を包囲しようとする。
凛空は逃げながら周囲に火を吹きつけて進行を妨げつつ、飛びかかってくる魔物を随時爪で片付けていた。
だが特性の消耗は激しく、ほんの数回使っただけで腹はペコペコになり、体もくたくたになっていた。一歩踏み出すたび、両足に鉄の塊を縛りつけられたかのような重さがのしかかる。
どれほど時間が経っただろう。もう火は噴けなくなり、鉤爪も維持できなくなっていた。全身の感覚が麻痺したまま焼け焦げた魔物の山の上に横たわり、空を見上げれば、数匹の魔物が牙を剥きながら這い上がってくる。
「やっと、死ねるのか……」
一匹の魔物が彼女に近づこうとしたその瞬間、青白い光球が超速で魔物の体を貫き、白い剣の閃光が下にいた魔物をなぎ倒した。
硝煙が晴れると、身長一三〇センチほどの白いスーツにミニスカート姿の少女が、凛空の目の前に現れた。幼くも自信に満ちた声で、彼女は高らかに告げる。
「宇宙一の超天才ロリ美少女科学者――筑紫優真、登場!」
優真よりも、そして凛空よりも背が高い、コートにビキニ、ロングブーツ姿の女性が歩み寄ってくる。彼女は剣についた血を拭うと、微笑みながら手を叩いた。
「やるじゃないか、お嬢ちゃん。魔物の大群に囲まれてあんなに持ちこたえるなんて。こんなに実力があるのにこんな場所に捨てられるなんて、キュウベー会社にとっても大損失だよ」
キュウベー会社?その名前を凛空は一生忘れられない。自分を魔法少女に変えた、あの会社の名前だ。
しばらくして息を整えた凛空は鉤爪をむき出しにし、問い詰めた。
「あなたたちは何者? どうしてキュウベー会社のことを知ってるの?」
長身の女性は怒る様子もなく、微笑みながら答えた。
「怖がらなくていいよ。私たちも魔法少女だ。あなたと同じ、この世界に捨てられた身よ。それと――私は渡辺結月っていうの」




