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8話 素直になりなよ

 その後、結局風松は始業時間ギリギリまで校門の前で立っていた。

 途中、安藤と鉢合わせて若干気まずげにすることはあったものの、来る人にちゃんと挨拶してた感じだ。


 何がしたいのか、俺には全く分からない。


「寝たら色々気持ちも切り替わるかと思ったんだけどな……」


 用を済ませた俺は手を洗いながら呟いた。

 この時期の冷水はツラいので気持ち急ぎ目だ。温水も出るようにしてほしいというのは流石に贅沢だろうか。


 それにしても、誰を待ってたんだろうか。

 安藤じゃないのは分かったが、他に思い当たるような人を俺は知らない。


「まさか俺……なわけない、よな?」


 脳裏を掠めた予感を洗い流して水気を拭く。

 昨日のことは夢か何かだと思っておこう。意味が分からなかったし。


 どう考えても、安藤と話したくない風松が適当を言ったとしか思えない。

 そしてそれもきっと、時間を置けば我に返る程度のもののはず……そうに違いない。


「あっ、いたぁ! 花野君っ!」


「……人違いです」


 トイレから出たらばったり出くわした。

 銀髪の髪と染み一つない真っ白な肌。

 昨日と違って目元は腫れていないし鼻水も出ていない。普段の風松だ。サファイヤ色の瞳が確かに俺に向く。


「待ってたのに来ないから今日休みかと思ったじゃん。風邪とか引いてない?」


「え? あぁ、いや、大丈夫。そっちこそ、結構長い間外だったけど平気だったか?」


「うん、私も大丈夫」


「そうか、それは良かった。じゃ俺次の授業あるから、そういうことで」


 そそくさ。

 全くおかしくない普通の流れで俺は風松の横を通り過ぎようとする。

 彼女も流されてくれたみたいで、「あぁ、うん」と声を上げて俺を見送った。


「……って、いやいや! 話終わってないよ!」


 駄目か。


「話なら終わっただろ」


「終わってないよ、全然終わってないよ!」


「だとしても俺から話すことないから、じゃあな」


「っ! ちょっとこっちっ!」


「え、うぉ!?」


 突然風松に肩を引っ掴まれた俺はそのまま連れていかれる。

 女の子らしい細い腕のどこにそんな力があるのか皆目見当もつかない。確か風松は運動部じゃなかったはずだが。


「制服伸びるから放してほしいんだが」


「今それどころじゃなぁい!」


 どれどころなんだ、一体。

 俺のブレザーもうボロボロだよ。


 そうして連れてこられたのは、屋上前の階段だった。

 人気はない。屋上に続く扉のすりガラスから陽の光が差している。


「で、なんで学校いるの?」


「えぇ……どういう問い詰め方だよ」


 そりゃいるだろ、この高校の生徒なんだから。


 腕を組んだ風松は朝の校門前の時みたいに仁王立ちだ。

 俺より二つ上の段に上がっているお陰で、身長は俺より低いのに俺を見下ろしている。


「私、校門前で待ってたんだけど?」


「それが何だ?」


「花野君も陽佐さんも見てないんだけど?」


「……それ、そんなに気になることか?」


 目の前の彼女が何を考えて行動してるのか分からなくて不気味である。

 何? 監視でも始めるのか? だとしたら尚のこと何も言いたくないんだが。


「関係大アリだよっ! 私、二人のことくっつけるって決めたんだもんっ!」


「寝ても覚めなかったか」


「何? 起きてるけど?」


 そういう意味ではない。

 それと校門前で見張っていたことと俺とナツキをくっ付けることは繋がらない。


「……あのな、くっ付けるだの付き合わせるだの好き勝手言ってるけど、俺の気持ちはどうなるんだよ」


「素直になりなよ花野君。私は分かってるんだよ?」


 可愛く首を傾げる見下ろし銀髪少女。この奇行に目を瞑れば顔はとんでもなく良い。

 ただし的外れである。


「素直なんだよ。分かってないのはそっちなんだよ……」


 頭が痛くなるのを感じながら、俺は目を細めた。

 やっぱり彼女は話が通じないタイプみたいだ。


「いいや、そんなことないね! 幼馴染の力は、私が一番分かってるっ!」


「…………」


 昨日その幼馴染に、客観的に見てフラれたことは都合よく忘れたのだろうかこいつは。

 だとしたらブドウジュースはいいからコンポタの代金は返してもらいたい。昨日結局そういう話はせずに帰ったからな。せめてもの情けは不要だったらしい。


「ちなみに聞くけど。俺とナツキをくっ付けるって、どうやってやるつもりなんだ?」


「え? あ、あー……それはね」


 おい待て。

 明らかに目が泳いでるぞ、もしかしてこいつ考えてないのか? 考えてないのに行き当たりばったりで校門前で待ってたのか? それで当てが外れて登校してくる生徒たちに挨拶したのか?


 ……考えなし過ぎないか、それは。


「俺のスタンスは昨日伝えたはずだし、変わらないぞ」


「で、でも陽佐さんがどう思ってるのかは分かんないじゃん!」


 おいおい、俺の意志は無視かよ。


「ナツキが風松の感じてるようなことを俺に本当に思ってたとして……あー、なんだ」


 言い淀む。

 だってこれを言ったら風松の昨日できたばかりの傷を抉りそうだ。


「なんだよー」


 気遣ってたら頬膨らませてジト目で見られた。

 もういっそ言ってやろうか、『それって風松と安藤の二の舞になりかねないぞ』って。


 ……やめとこう。昨日風松があそこまで長時間放置されてたのは多分、奇跡みたいなものだ。

 神様、どうしてよりにもよって俺だったんですか。


「……何でもない。とにかく、変な事考えるのやめろ。それだけ」


「変なことじゃないよっ! これはれっきとした私なりの立ち直り方で……」


 それに俺たちを巻き込むなって話なんだが。


 と、思っていると風松が言葉をぴたりと止めた。


「アキ、こんなところに、いた」


 ねっとりとした声。

 あんまり聞いたことがないナツキの声だ。


 思わず振り向くと、そこには不自然な首の傾げ方をしたナツキが階段を上がってきていた。


「……ナツキ、どうかしたか?」


「全然戻ってこないから、心配した。お腹、痛かったの?」


「見ての通りだ」


 そう言って風松を指差す。

 するとナツキは突然階段の手すりに掴まり、ひょいと段数も踊り場もすっ飛ばして俺の前に立った。


 風松、ナツキ、俺の順番で一段ずつ下へ下がっていく形。

 けど、ビックリして俺は二段くらい降りた。


「おまっ、急に危ないだろ!」


「運動神経良っ! あとやっぱり背高ぁい。話すのは初めて、かな? 風松 深冬ですっ! よろしくね!」


「……陽佐 夏妃。よろしく……アキに、何か用?」


 俺をガン無視して二人は話し始めた。

 気のせいだろうか、ナツキの背中から怖いオーラが出ている気がするのは。


「花野君だけじゃないよ? 陽佐さんにもお話あったんだっ!」


「……話」


「そう。でねでねっ、もっと仲良くなりたいから連絡先交換しないっ?」


「……いいよ」


 ナツキにしては珍しく、とんとん拍子で話が進んでいくのは風松生来の明るさだろうか。お淑やかは完全に俺の勘違いだったらしい。

 それはそれとして、俺と話していた時の、駄目な方向にハンドルを切ったトンチキはどこへやら。


「あと、花野君ともっ」


 身体を傾けてナツキの身体からはみ出るように風松が俺に話しかける。

 正直遠慮したい。


 そんな時に、予鈴が鳴った。


「予鈴鳴ったから、また今度」


「あっ、そだね。行かないと遅れちゃうね」


「アキ、行こ」


「な、ナツキ? ちょっ、引っ張るなって」


 またも引っ張られるブレザー。

 風松よりも力の強いナツキに引っ張られると階段を降りるのが一苦労だ。


「じゃあ昼休みに教室行くねっ、また後で!」


 来なくていいよ、とも言えず。

 駆け足で去っていく風松を、俺とナツキは教室に戻りながら無言で見送るのだった。

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