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6話 幼馴染が負けるわけないのっ!

 そんなに予想外だったのか、目からハイライトすらなくして固まる風松。

 何がそんなに疑問なんだ。


「え、いやでもだって、一緒に登校してるでしょ?」


「そうだな」


「手とか繋いじゃって、陽佐さん抱き着いてる時もあるよね?」


「そうだな」


 正直に言うと歩きにくいから一人で歩いてほしい。

 しかしそうなるとナツキの極度の方向音痴が直らないといけない。

 ……無理なんだよな、これが。


「毎朝起こしてるって聞いたことあるよ?」


「まぁ、間違ってないけど誰から聞いたんだ?」


「お、お弁当の中身同じって聞いたことあるよ?」


「そりゃ俺の母親が一緒に作ってるからな」


「帰る時も一緒だよね?」


「だからこうして待ってるんだよ」


 本当はすぐにでも帰りたい。

 が、中学の時に一回それをしたら面倒なことになったので我慢している。

 それに勉強の時間だと思えば、まぁ。


「……付き合ってないの?」


「付き合ってない」


「隠さないといけない秘密とかある?」


「そんなのあるわけないだろ」


「盛大なドッキリしてたり?」


「……あのな、俺に何のメリットがあるんだよ」


 グルグル目になって困惑しまくる風松。

 何がそんなに不思議なんだか。

 入学当初ならまだしも、俺が否定に否定を重ねてもう秋だぞ。


 そろそろ根も葉もない噂はなくなったと思ってたんだが、ちょっと楽観的過ぎたか。


「改めて断言しておくが、俺はナツキとは付き合ってない。幼馴染ってだけだ」


 そう、幼馴染ってだけでここまで面倒を見させられているだけなのだ。


「何が不満なの?」


 風松が聞いてくる。

 目は真剣そのもの。さっきまでの独白とも違う異様な感じだ。


 ……何がそんなに不思議なんだか。


「私、陽佐さんと話したことないけど、絶対花野君のこと気になってるよ! そうじゃないとあんなに距離近くないって!」


「気になってる、ねぇ……召し使いか何かだと思ってるだけだろ」


「もっかい聞くけど、何が不満なの!? 陽佐さんすごく綺麗じゃん! 勉強も運動もできるじゃん! 欠点ないじゃん!」


 まぁ、傍から見てたらそうかもしれない。

 そもそもナツキと風松の絡みがないみたいだし。

 又聞きなら、そういう完璧超人みたいなイメージが出来上がっても不思議じゃないだろう。


 そのくらい、陽佐 夏妃という少女は実績だけ見れば完全無欠の存在だ。

 それは誰より、俺が知ってる。


「じゃあ風松に聞くが。風松は安藤との十年かそこらで、良いところしか見つけられなかったのか?」


「え? いや、そんなことはない、けど……」


 急な切り口に風松が動揺する。

 だが俺は気にせず矢継ぎ早に続けた。


「そりゃ、長く一緒にいれば良いところだって見つけられるだろうが。悪いところだって同じように見つかるだろ」


 時間の積み重ねというのは、存外に残酷だ。

 育むみたいにちょっとずつ大きくなっていくものもあれば、段々と冷えていくものもある。

 そういえば胸ポケットにコーヒー缶を突っ込んだままだった。冷たい。俺は取り出して机に置いた。


「まぁ、要はそういうこと」


 なんか真面目に言うのがバカらしくなってきて、適当に締めくくる。

 幼馴染とか、距離が近いとか、噂とか、そういうものに振り回されるのは好きにしてくれていいが、事実は事実だ。


「俺はナツキとは付き合ってない。あ、一応言っとくが、付き合う気もない。俺とあいつは一緒に学校行って一緒に帰るだけの、多少距離が近いただの幼馴染」


 突き放すようにそう言って、俺はコーヒーを口に流し込んだ。

 苦い、それに冷たい。あったかいの買えばよかったか。


 風松はと言えば、コンポタ持って俯いた。

 気持ちは分からなくもない。なんでついてきて、急に身の上話始めたのかもよく分かった。

 人間、落ち込んだ時は似たような立場の人間に共感を得たいものだ。少なくとも彼女は、今そういう慰めを求めていた。


 やっぱり、俺は相談相手に相応しくなかったのだ。


「……ない」


「ん?」


「認めない……! だっておかしいもん!」


 声を荒げた風松。

 そのままの勢いでコンポタを開けて一気にあおった。


「あづいっ!?」


「そりゃそうだろ」


 甘い匂いが教室に漂う。俺の鼻にはコーヒーと混じって嫌な香りに変わった。

 冷めてなかったか。ベロを出した風松はなんだか小動物みたいだった。


「それで、何だって?」


「認めないって言ったの! おかしいじゃん、あんなにくっついててさ! 陽佐さん可愛いって思ったことないの花野君!?」


「見慣れたんだよ」


「付き合いたいなって思ったこと一回もないの!?」


「……本当にないな、思い返しても」


 俺の場合、出会ってすぐに自分より上だと悟ったし。

 敵わない存在としか思えなかった。

 今はそこに手のかかる奴というのも追加だが。


「なんでよ!? ぜ、絶対認めないからね!」


「なんでそんなに頑ななんだよ……」


「だ、だって……それが本当なら、リク……私のこと本当に何とも思ってなかったことになるじゃん……」


「いや、そうはならないだろ」


 なるほど、自分と同一視して考えてたのか。

 急な食いつきもそういうことみたいだ。


 ……そうなるとこいつ、遠回しに自分のことも可愛いって思ってるってことだよな?

 否定はできないが、何となく風松 深冬という人のことが分かってきた気がする。


 あれだな。『こう』と決めたら頑固なタイプだ。


「風松、ちょっと落ち着こう。多分、色々あって気が動転してるだけだ。コンポタ飲んで深呼吸しようぜ」


「もう全部飲んだ」


 そりゃ火傷するわ。


「……じゃあ残ってる方でも」


「ブドウジュース苦手」


 なんだこいつ。

 ……いや待て、落ち着こう。勝手に買ってきたのは俺だしな、仕方ないな、うん。


「お、思い返してもみろって。安藤は最後になんて言ってたんだ?」


「面倒臭いって……」


「……『今は』って言ってたんだろ? 完全な突っぱねじゃないじゃん、それ。何か事情があるってことじゃないのか? お互いにちゃんと話し合えよ」


 果たして俺は何様のつもりで偉そうに言っているのやら。

 まともに恋愛もしたことないというのに。


 すると、突然烈火の勢いだった風松がまたも俯く。

 いじいじ、そわそわ。空き缶になったコンポタの黄色いスチールを手で遊ばせ始めた。


「……き、気まずい」


「だろうな」


「顔合わせられる気しないの」


「……それで?」


「無理」


 そこは頑張ってくれよ。


「今どこにいるか連絡して聞いて、もう一回話せ。簡単だろ」


「そんなわけないじゃんっ! ど、どんな顔して……フラれた相手に、会えばいいのさっ!」


 俺がそんなの答えられるわけないだろ。

 いやまぁ、それだけ心にダメージが入るようなことだったんだろうけど本人的には。


 だとしたら、俺に身の上話のち相談までしてくる図太さはどうなってんだ。

 俺からしたら繊細なのか豪胆なのか分かんないんだよ。


「とりあえずどっかで話す機会は作った方がいいと思うぞ」


「……分かったよ。でもその前に、花野君と陽佐さんくっつける」


 ん? 今なんて言った?


「なんだって?」


「花野君と陽佐さんくっつけてから、リクと話す」


「ちょっと待て、なんでそんな話になった」


「だって自信持てないもんっ! 好きだった人にフラれて、絶対付き合ってると思ってた二人が付き合ってなくて、私もう頭ぐちゃぐちゃなのっ! 安心してから頑張りたいのっ! 分かる!?」


「全然分からん」


 困惑する俺。ちょっと泣きながら叫ぶ風松。


 嫌な予感がした。俺はもしかしたら、人道に反してでも彼女を放っておくべきだったのかもしれない。


「幼馴染が負けるわけないのっ! だから、花野君と陽佐さんには付き合ってもらうっ! それからリクと話すっ!」


 なんだその超理論。

 駄目だこの女、多分ショックで頭がパーになっている。


 ふんす、と鼻から息を吐いた銀髪の少女を前に、俺は頬が引き攣るのを感じた。


 声をかけたことを死ぬほど後悔したのは、もはや言うまでもない。

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