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3話 なんでこうなった

 俺とナツキの通う高校は、立間庭たてまにわ高校。

 部活に力を入れている私立高校である。

 スポーツ全般と吹奏楽が強い。多分応援とかと関係があるのだろう。


 とはいえ、文化部だって多くあるし、そもそも強制入部でもない。

 現に俺は入っていない。理由は幾つかあって、そのうちの一つが幼少期にやっていた習い事は軒並みナツキに戦意喪失させられたからだ。特にスポーツに関しては、二度とやるものかと今でも思っている。


 ちなみに偏差値もそれなりに高く、この辺りだと有名な高校だったりする。

 尚、頭の出来が大変よろしいナツキの手にかかれば、大した受験勉強をせずとも軽々と合格だ。必死に勉強したのが嫌になる。


 ……さて、そんな高校で、ナツキという面倒臭がりがどのような活動を行っているのかと言えば。


 ――キンコンカンコーン。


 六限の終わりを告げるチャイムが鳴って、やたらと気疲れする担任の現代文から解放されたついでにホームルーム(連絡事項なし)も終わったことで、小さく伸びをした。


 そんな俺とは裏腹に、教室内の過半数の生徒は早々に荷物をまとめて駄弁りながら外へと出ていった。

 残ったのは俺とナツキを除けば数名の生徒たち。今日の掃除当番だ。その中にも運動部に所属している奴はちらほら。さっさと終わらせて身体を動かしたいのか、手早く机を後ろに下げている。


 ……このクラス、やたらと運動部多いんだよな。


 お陰でホームルーム終わりにゆっくりしていられない。知り合いもいないので、ゆっくりする必要もないのだが。、

 俺もそそくさと荷物をまとめていると、不意に隣から声がかけられる。


「……アキ、待っててね」


「はいはい、分かった分かった。行ってこい」


 聞き慣れたセリフに、俺は手をひらひら振ってあしらう。

 どうせそれを言うためだけに残っていたのだろうことはすぐに分かったからだ。

 そんな報告はしなくていいから、さっさと行ってこいっての。


「……待っててね?」


「念押しいらん。ほら、待たせてるだろお前」


 チラリと見れば、教室の扉から顔を覗かせる数名の女子たち。


「じゃあ、後で」


「……はいはい」


 ナツキは身長が高い。俺より高い。

 こうして席から立てば、いっそ威圧感すら感じるほどだ。綺麗系の顔立ちもあって相乗効果だ。

 そして、ついでに頭が良くて運動神経が良い。

 一般入試でこの高校に入った彼女だが、実は中学の時に在籍していた時から将来有望な選手として認知されていた。ビジュアルもあって映えたのだろう。


 そして、面倒臭がりの出不精のクセして、やたらとバレーボールというスポーツへの意欲だけは高い。


 ナツキは、あれよあれよと言う間に女子バレー部で一年生エースになっていた。

 ただでさえ強豪だったらしい女バレは、ナツキのお陰で全国区だそうだ。インターハイがなんたらかんたら。

 そんな選手に推薦の声とかかからなかったのだろうかと思わなくもないが、ナツキのことだから面倒臭がって辞退しそうである。

 つくづく無自覚に失礼だ。


 ――で。


 繰り返しになるが、俺こと花野 秋は、陽佐 夏妃の『登下校係』である。

 通称とかではなく文字通りに。

 そういう取り決めがなされた……俺の両親とナツキの両親との間で。


 つまり俺はナツキを登校させ、下校させなければならない。

 どういうことかと言うと、俺はほぼ毎日のようにあるナツキの部活が終わるまで、時間を潰さないといけないのだ。

 もういっそ苦行である。


「……はぁ」


 本格的に掃除が始まり、それに合わせるように校内放送で音楽が響いてくる中、俺のため息なんてすぐにかき消される。

 何が楽しくて、俺はこんな色褪せた青春を送っているのだろうか。


 ……まぁ、結局断り切れずに中途半端にこんな時期まで付き合ってる俺も悪いんだろうな。


「……はーぁ」


 深くて重たいため息をもう一度漏らしてから、頭を切り替えることにした。


 俺はこの毎日二時間前後の待ち時間の潰し方自体は既に決めていた。

 勉強である。

 別に好きというわけでもないが、時間を無駄にするのは気が引けて、だからと言って時間を浪費できるような趣味もなく。いっそ部活に入れば解決するのだろうが何故だかナツキに猛反対された。意味が分からん。こっちはお前が部活してなければ普通に帰れるんだが?


 とにかく、そういうわけで残ったのが学生の本分だった。

 今日の授業で分からなかった部分でも復習していれば、自ずと時間は潰せるものだ。

 随分真面目な生徒になった俺だが、その原因がナツキの我が儘かと思うと何とも言えない気分になる。


「今日はどこでやったもんかな」


 毎回これに迷う。

 図書館だったり教室だったり、天気さえ良ければ外で教科書と睨めっこしている時もあるのだが……今日は曇りだ。


 流石に室内かなぁ、とか思いながら人気がなくなるまで適当にぶらぶらすることに。

 カバンからガッショガッショ鳴る空のステンレス製弁当箱二つが恥ずかしい。


「……ん?」


 ふと窓の外に視線が向いた。

 中庭だ。

 校舎に囲まれたそこは、中央に一本大きな木が植えられていて、ベンチが幾つか点在している。

 周囲のことを気にせずイチャつけるカップルだけが立ち入ることを許された聖域、だとか何とか。


 実際、校舎から丸見えなので度胸は必要だろう。

 俺もあそこで放課後勉強してみようかと思ったことがあるが、気が散りそうなので止めておいた。


 ――そんなところに、二人の男女が今丁度歩いてきて、そしてベンチに腰掛けた。


 思わず足を止めてその行く末を見守る。

 というのもだ。


「あれって……安藤あんどう 凛空りく風松かざまつ 深冬みふゆ……だよな?」


 この学校の有名人だ。ナツキとはまた別ベクトルで。

 そして俺がこの二人を知っているのは――あの二人もまた幼馴染らしいという噂を聞いたことがあったからだ。


 何かあったんだろうか?


 二人は何やら話し始めた。

 校内放送もあって内容までは聞こえてこないが、徐々にヒートアップしている気がする。

 言い争い、口喧嘩。そんな感じだ。


「――――ッ!」


 見ているこっちがハラハラしてくる剣呑な話し合いの末、安藤が風松に何かを叫ぶように言って去ってしまった。


 風松はそれを追うことなく、呆然自失と言った様子でその場で固まり……泣き出した。

 人目を憚ることもなく、わんわんと。

 大粒の涙が遠くからでも何となく見えた。


 居た堪れなくなった俺は、そっと視線を逸らしてその場を後にすることにした。

 えらいものを見てしまった気がする。


 ……気を取り直して勉強するか。


「――……私……わたじ、どうじだらよがっだの?」


 なんでこうなった。

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