第8話:蹂躙のプレリュード
新宿の外縁部に位置する、放置された雑居ビルの地下。
そこが、今回の依頼地であるEランクダンジョンだった。
本来、新人の初陣には複数の前衛を伴うのがギルドの鉄則だが、北川は大介の単独潜入を強行させた。
「見せてください、エイミー様。あなたが私の生涯賃金をどれだけ上積みしてくれるのかを」
北川はタブレットを片手に、安全な入り口付近で見守っている。
大介は暗い地下通路を一人、悠然と歩いていた。
激しい動きで髪が乱れ、エルフの耳が露出しないよう、魔法で編んだ不可視の空気の膜で髪を固定している。これも全系統適性がなせる業だ。
「……出たな」
通路の奥から、十数匹の「スケルトン」がカタカタと骨を鳴らして現れた。Eランクとはいえ、数に押されれば新人は命を落とす。
だが、大介は不敵に笑い、指先を優雅に突き出した。
「塵にすら残らないのが、貴様たちの幸せよ」
瞬間、通路が極彩色に染まった。
大介が放ったのは、火・水・風・土の四属性を螺旋状に編み込んだ複合魔法――などという高尚な技術ではない。
単純に、全属性の弾丸を「同時」にぶっ放しただけの、魔力の暴力だった。
ドォォォォォン!!
爆風が地下通路を駆け抜け、スケルトンたちは抵抗する間もなく原子レベルで粉砕された。
それどころか、ダンジョンの壁面さえもが熱で溶け、結晶化している。
「……あ、やべ。やりすぎたか?」
一瞬、素の「戸田大介」が顔を出しかけるが、背後の北川の視線を思い出し、即座に傲慢な笑みを貼り付け直す。
「ふふ……今の掃除で、私の魔力は一ミリも減っていないわ。次はもう少し、骨のある相手を用意しなさいな」
入り口で見ていた北川は、驚愕で眼鏡を落としそうになっていた。
「……掃討完了まで、わずか三秒。消費魔力の痕跡も極小。これは『全系統』どころか、魔力出力がおかしい強さですね……」
北川の瞳が、これまでにないほど眩しい「金の光」を放った。
一方、大介は全系統魔法の万能感に酔いしれていた。かつて会社をクビになり、ゴブリンに腕を切り裂かれた無力な自分はもういない。
「(これだよ……これがやりたかったんだ!)」
圧倒的な力で、すべてを跪かせる快感。
だが、大介はまだ気づいていなかった。この凄まじい魔力を扱いきれていないことに。




