第7話:天才魔女、降臨
翌朝、妹は友達と用事があると早朝に出かけて行った。全く忙しないやつである。
パジャマ姿の大介(エイミー体)は妹が不在なことを良いことに胸を揉みつつ、鏡の前で不敵に口角を上げた。
しかし、こいつ本当に美少女だよな。
昨夜、初めての冒険者という有名な攻略サイトを見て、大介は一つの真理に辿り着いていた。
「……おどおどしてたら、一生舐められたままだ。特にこの殺伐とした冒険者の世界、しおらしい美少女なんて演じてたら、面倒な奴らに絡まれて人生逆転どころじゃねえ」妹の目がないことを良いことに、胸を軽く揉みながらつぶやく。
大介は覚悟を決めた。中身は27歳のガサツな男だ。
しかし、そのままの口調で喋れば「男が入っている」と疑われる。
そこで導き出した答えが、徹底した「高飛車な女」のロールプレイだった。
役になりきれば、意識せずとも女言葉を維持でき、素の男らしさも「強気な魔女」という設定で上書きできる。
さらに大介は、銀色の髪を念入りに整え、耳が完全に隠れるようにセットした。
エルフ特有の尖った耳。これが露見すれば、コスプレでは説明のつかない「人外」であることがバレ、政府や研究機関に拉致されかねない。
「よし、耳よし。キャラ作りよし。……行くか」
新宿の冒険者ギルド。
そこには、昨日の「全系統適性」の噂を聞きつけた冒険者たちが、手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「おい、あの子か? 見た目はただのガキだ。ちょっと脅せば利用できるぜ」
野卑な笑い声が響く。だが、そこへ現れた大介は、冷徹なオーラを纏っていた。
髪を耳が隠れるほど深く垂らし、悠然と受付の北川さやかのもとへ歩く。
「北川。……私を待たせるとは、いい度胸ね。依頼の準備はできているかしら?」
凛とした、だがどこか見下すような物言い。
北川も眼鏡の奥の瞳をわずかに見開いた後、即座に「銭ゲバの笑み」を浮かべた。
「ええ。Eランクダンジョンの掃討依頼です。……素晴らしい仕上がりですね、エイミー様」
そこへ、一人のベテラン風の戦士がニヤつきながら道を塞いだ。
「おいおい、お嬢ちゃん。そんな態度のデカい魔法使いは長生きできねえぞ。俺たちのパーティで一から鍛え直して――」
男の手が肩に触れる直前。大介は一切の容赦なく、その喉元に指先を突きつけた。
「……触るな、下等生物。貴様のような雑魚の指が触れただけで、私の魔力が汚れるわ」
大介の周囲に、バチバチと多系統の魔力が渦巻く。火、雷、氷が混ざり合った異様な圧迫感。
「消えなさい。二度とその薄汚い顔を私に見せないことね」
男は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
その場にいた全員が、少女の姿をした「化け物」の片鱗に震え上がる。
大介は内心で「よっしゃ、完璧だ!」とガッツポーズを決めていた。
耳を隠し、キャラを演じきる。
ちょっと中二病っぽいが滑られるよりマシだ。
これなら、正体を隠したまま世界を跪かせられる。
「さあ、案内なさい。……天才の力、その目に焼き付けてあげるわ」




