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第68話:ポータルの傍らで語る「重荷」

交差ダンジョンの静寂の中、激しい肉体のぶつかり合いと魔力の火花が止んだ。  


大介とエイミーは、互いに肩で息をしながら岩場に腰を下ろした。


修行の合間の休憩。手元には、大介が地球から持ち込んだスポーツドリンクと、リディアの乾いた携帯食が並んでいる。


「……はぁ。大介さん、貴方の教え方は少し野蛮すぎます。筋肉を意識しろと言われても、私にはそれが『壁』のように感じられます」


「お前こそ、魔力の粒子がどうのって……。俺に言わせれば、お前の魔法は繊細すぎて、逆に脆そうに見えるぜ。……もっとこう、根っこに力がないっていうかさ」


 大介は苦笑いしながら、手近な石を弄んだ。ふとした沈黙の中、話題は自然とそれぞれの「帰る場所」へと向いていった。


「なあ、エイミー。お前は……何でそんなに必死に、家賃も払えないようなボロ家で一人で頑張ってたんだ? 貴族のお嬢様なんだろ?」


 大介の問いに、エイミーは少しだけ視線を伏せた。


「……私の家、レイン家は『戦士の名門』なんです。父も兄たちも優秀な武人。

でも、私には剣の才能が全くなかった。……女は黙って家にいて、どこか有力な家に嫁いで、家を支えるための道具になれと言われ続けてきました」


「……道具、か」


「父が決めた結婚相手は、女性を飾りとしか思っていない傲慢な男でした。

そこに嫁げば、私の人生は終わる。だから逃げ出したんです。……でも、現実は厳しかったです。冒険者としての収入は不安定で、実家からは『帰って結婚しろ』という無言の圧力が届く。……大介さん、貴方には分からないでしょう? この、家の中に居場所がない感覚は」


 大介はスポーツドリンクを一口飲み、遠くを見つめた。


「……いや、意外と分かるかもな。俺の家はただの一般家庭だけどさ。

親父は市役所勤めで『安定こそ正義』って男だ。会社が潰れて無職になった俺に、毎日『まともな職を探せ』ってプレッシャーをかけてくる。看護師の妹はしっかりしてて結婚も近い。……両親にしてみりゃ、俺は『早く孫の顔を見せて安心させてほしい、出来損ないの兄貴』なんだよ」


「……大介さんも、比較される苦しみを?」


「ああ。母さんは優しすぎて逆に辛いしな。

『大介が幸せならいい』って言いながら、俺がダンジョンに行くって聞くと今にも泣きそうな顔をするんだ。……普通に就職して、普通に結婚して。それができない俺は、実家じゃずっと『老後資金の不安要素』扱いさ」


 地球の「普通」という同調圧力。  

リディアの「家のため」という抑圧。  


時代も世界も違うが、二人が背負っている重荷は驚くほど似通っていた。


「……皮肉なものですわね。私たちは、家族の期待から逃れるために、もっと過酷なダンジョンに足を踏み入れているなんて」


「全くだな。でも、だからこそだ。あの玄関を塞いだアパートや、お前が買い取ったあのボロ家は、誰にも邪魔されない俺たちだけの『牙城』なんだよな」


 大介は立ち上がり、砂を払った。


「エイミー、俺は絶対にお前をあのクソ野郎に嫁がせたりさせねえ。そのためにも……次の修行、行くぞ。俺の体を使いこなせるようになれば、お前の父さんも兄貴も、手出しできねえくらい強くなれる」


 エイミーは驚いたように目を見開き、やがて不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。


「……ふふっ。言ってくれますわね。私だって、大介さんに立派な属性魔法を覚えさせて、ご両親を驚かせてあげますから。……さあ、構えなさい。次は『氷』の練り方を徹底的に叩き込みます!」


 交差ダンジョンに、再び魔力の輝きと気合の声が響き渡る。  


二人の修行は、単なる力の追求ではなく、自分たちの「自由」を守るための聖戦へと変わりつつあった。

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