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67話:再会と、見上げる壁

青白く脈動する空間の裂け目を抜け、大介は交差ダンジョンの静寂へと足を踏み入れた。


そこには、すでに元の姿に戻ったエイミーが、大きな岩に腰掛けて待っていた。


 二人は顔を合わせるなり、同時に口を開いた。


「おい、エイミー。お前、俺の体にどんな無茶をさせたんだ? 筋肉の奥が悲鳴を上げてるぞ」


「それはこちらのセリフです、大介さん! わたくしの服がところどころ裂けて……!

前に聞いた洗濯機にでも入ったんですか?」


互いの姿を見渡し、二人は同時に溜息をついた。


大介は、エイミーの銀髪に混じった微かな焦げ跡と、魔法使いのローブに刻まれた裂傷に目を細める。


一方のエイミーも、大介の逞しい首筋に残る魔力暴走の熱の痕跡を見逃さなかった。


「……新宿の16層だ。白銀トカゲってのがいてな。お前の体は魔力が凄すぎて、俺の感覚で動かそうとすると制御がまるで追いつかなかった」


「……私も、武術大会の決勝でリチャードという剣士に追い詰められました。大介さんの肉体は最高級の鋼のようでしたが、私にはそれを正しく振るうための『呼吸』が欠けていました」


 二人は、自分たちの入れ替わりが「スペックの貸し借り」だけでは限界に来ていることを悟った。


最強の肉体があっても使いこなせなければただの肉塊であり、最強の魔力があっても編み方を知らなければ自爆の種になる。


「……一朝一夕には、身につきそうにないわね」

「ああ。今のままだと、次は運が味方してくれるとは限らねえ」


 大介は、岩場にどさりと腰を下ろして提案した。


「しばらく、入れ替わりは休止だ。その代わり、昼間はこの交差ダンジョンに集まって、徹底的に修行をつける。俺はお前に格闘の基礎を、お前は俺に属性魔法の導き方を教えるんだ」


「いいでしょう。お互いの家も確保しましたし、無理に入れ替わり続ける必要もありませんものね。……夜はそれぞれの拠点へ戻り、休息と準備に充てましょう」


 大介は、新宿のアパートの玄関を塞いできたことを伝えた。

エイミーも、あのボロ家を買い取り、隠蔽魔法で塗り固めたことを報告する。  


二人の「地球」と「リディア」における牙城は完成した。あとは、その城を守るための「中身」を鍛えるだけだ。


【修行開始:噛み合わない歯車】

 さっそく始まった修行は、前途多難だった。


「違う、エイミー! 拳を突き出すんじゃない、足の指先で地面を掴んで、その反発を腰を通じて腕に流すんだ。力むな!」


「言っている意味が分かりません! 魔力を循環させれば筋肉は動きます! なぜそんな面倒な手順を踏まねばならないんですか!?」


 一方で、大介もエイミーの教えに頭を抱える。


「大介さん、魔力を『火』として捉えるのではなく、熱の粒子が螺旋を描くイメージで編み上げてくださいと言っているでしょう? 雑に放り出すのはただの焚き火です!」


「粒子だの螺旋だの……! もっとこう、『気合で燃やす』んじゃダメなのか!?」


 夕闇(のような空間の変色)が訪れる頃には、二人は修行前よりもボロボロになっていた。

しかし、その瞳には不思議な充実感が宿っていた。


「……明日もここね、大介さん」

「ああ。たっぷりしごいてやるから覚悟しろよ、お嬢様」


 二人はそれぞれの「家」へと繋がるポータルへ背を向け、歩き出した。  


言葉を交わせる安心感と、共に歩む目標。  


異世界貿易商人の日々は、泥臭くも確かな一歩を踏み出した。

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