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第66話:不退転の牙城

自分の体に戻った大介は、新宿の自宅アパートの鏡を見て苦笑した。


エイミーがこの体で暴れ回った証拠に、お気に入りのTシャツの袖がはち切れんばかりに伸び、首元もだらしなく広がっている。


「……あいつ、この体で一体何と戦ってきたんだよ」


 自分の体に刻まれた、筋肉の奥の方に残る熱い疲労感。


それは魔力で無理やり肉体を駆動させた時に生じる、独特の「軋み」だった。だが、今は感傷に浸っている暇はない。


セキュリティ皆無のこの安アパートで、億単位の利益を生む「扉」を抱えているのだ。


自分だけでなく、事情を知る唯一の身内――妹の麻衣の安全も確保しなければならない。


 大介はすぐさま麻衣をアパートへ呼び出した。

状況を察してやってきた麻衣に、大介は荷造り用のダンボールを指差しながら、真剣な面持ちで切り出した。


「麻衣、悪いが今日からしばらく、ここには絶対に来ないでくれ。それと、お前も今住んでる場所を引き払って、俺が手配したセキュリティの固いマンションに移れ。費用は全部こっちで持つ」


「……お兄ちゃん、やっぱりそれほどヤバい状況なの?

別にもうすぐ結婚して引っ越しする予定だから実家に戻るよ。たまにはお父さんとお母さんにも顔見せなよ」


 麻衣は兄の顔を見て、冗談ではないことを悟った。大介は頷き、正直に現状を打ち明ける。


「ああ。事業の規模がデカくなりすぎた。このボロアパートじゃ、いつ嗅ぎつけられてお前が人質に取られてもおかしくない。……だから、ここを『外』から隔離する」


 大介は、部屋の隅でぼんやりと光る空間の歪みを指差した。


「今までは外のドアから出入りしてたが、これからはポータル経由で『交差ダンジョン』に入り、そこからこの部屋へ転移して帰宅するようにする。……つまり、物理的に玄関を使う必要がなくなるんだ。だから、入口を完全に封鎖する。もう1基のポータルは新宿ダンジョンに固定した」


 麻衣は少し驚いた表情を見せたが、兄の「絶対に妹を巻き込まない」という強い意志を感じ取り、静かに頷いた。


「……分かった。前から言ってたもんね。お兄ちゃんも、エイミーちゃんとの仕事、気をつけてね」


 麻衣を避難させ、引っ越し先の手配を済ませると、大介は用意していた資材を手に取った。


ホームセンターで買い込んできた厚手の鋼鉄板と、重厚なボルト。


 ガガガガッ!


 電動ドライバーの音が狭い室内に響き渡る。


大介は、玄関のドアを内側から完全にバリケードで塞ぎ、隙間を埋めるように鋼鉄板を固定した。


もはや鍵どころか、バールや斧を使っても外からこじ開けることは不可能だ。


いつか買い取ると決めているとはいえ、現状回復を無視した横暴であった。


「……これでよし。表からの出入りは完全に断った」


 窓もすべて強化防犯フィルムと遮光カーテンで固め、外からは「主が夜逃げした空き部屋」に見えるように偽装を施した。



 作業を終えた大介は、静まり返った部屋の真ん中に立った。  

外界との接触はスマホ一台のみ。そして唯一の「扉」は、目の前で脈動するポータルだけだ。


(エイミーの奴、向こうでどうしてるかな……)


 大介は自分の拳を見つめ、決意を新たにする。

 

退路を断った今、二人にはもう、共に高みを目指し、お互いの弱点を埋め合う以外の選択肢はない。


「……さて。次は、あの高慢な魔女様に『正しい肉体の爆発カラテ』を叩き込んでやらねえとな。あいつが俺の体に無理をさせた分、たっぷりとお返ししてやる」


 大介はポータルに足を踏み入れ、交差ダンジョンへと向かった。  


誰にも見られることのない「牙城」の中で、二人の真の協力関係が加速していく。

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