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第65話:聖域の完全掌握


 新宿ダンジョンの最下層、そして王都の闘技場。


それぞれの戦場で死線を越えた二人の魂は、交差ダンジョンの静寂の中で入れ替わり、ようやく本来の肉体へと帰還した。


 エイミーは、自分の体に戻った瞬間、肺の奥まで染み渡るような「自身の魔力」の巡りに、深い安堵の吐息を漏らした。


だが、ふと自分の腕や肩に目をやり、彼女は小さく眉を寄せた。


(……あら。随分と、無茶をしたみたいね)


 鏡に映る自分の姿。本来なら完璧に整えられているはずの魔法使いの服が、ところどころ裂け、クリーンで消しきれなかった微かな火の粉の跡が残っている。


大介がこの体で、どれほど過酷な場所へ潜ったのかが、肌を通じて伝わってくるようだった。


「……大介さん。次は、無傷で帰ってきなさいって釘を刺しておかないと」


 愛おしむように自分の肩を撫でながら、エイミーは独りごちた。


彼が向こうでどんな化け物と戦ったのか、直接言葉を交わす術はまだない。 


だが、手元に残された普段着が、彼の奮闘を何より雄弁に語っていた。


 エイミーはすぐさま行動を開始した。  


向かったのは、現在自分が借りている、王都の隅にあるボロい小さな一軒家だ。  


そこは人目につかない寂れた場所にあるが、何より地下室に「地球へと繋がる入口」が隠されている。賃貸という不安定な立場のままでは、いつか致命的な綻びが生じかねない。


 エイミーはいつものローブではなく、ドレスを整え、家主である老人のもとを訪れた。


「おや、エイミー様。またあそこに住み続けるのですかな? もっと良い屋敷へ移られても良い頃合いでしょうに」


「いいえ。……家主様、単刀直入に申し上げますわ。あの家、丸ごとわたくしに譲っていただきたいの」


「なんですと!? あのボロ家を買い取る……? しかし、あそこは古びて価値もほとんど……」


 エイミーは微笑み、大介が彼女の体で稼ぎ出した希少素材の換金金貨を、テーブルの上に静かに並べた。それは、あの小さな一軒家を十軒買い取ってもお釣りが来るほどの輝きを放っていた。


「……家主様。わたくしはあそこを、誰にも邪魔されない私の『聖域』にしたいと考えておりますの。提示した額は、相場の数倍。……これ以上の条件を出す方は、王都中を探してもいないはずですわ」


 エイミーの瞳には、大介の体でリチャードの剣技を凌ぎきった覚悟が宿っていた。  


その無言の圧力に気圧され、家主は震える手で金貨の袋をなぞった。



 圧倒的な資金力と、エイミーの気品ある、だが断固とした交渉に、家主は抗う術を持たなかった。


「……分かりました。これほどの誠意を見せられては、断る理由もございませんな」


 その日のうちに、ボロい一軒家の所有権はエイミーへと移った。  


家主を見送った後、エイミーは独り、地下の物置部屋へと降りていく。


 そこには、ぼんやりと青白く光る「空間の歪み」が、以前よりも力強く拍動していた。


(……これでいいわ、大介さん。ここが私たちの、リディアにおける本当の『城』よ)


 エイミーは一人、ポータルに向かって静かに呟いた。  


返事はない。だが、次に大介がこちらへ足を踏み入れる時、そこは誰にも邪魔されない、二人のための牙城となっているはずだ。


 エイミーは建物全体に強力な隠蔽魔法を施しながら、誓った。


次に彼に会う時は、お互いの服を汚さずに済むよう、魔導と武術の「コツ」を徹底的に教え込もうと。

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