第6話:地獄のナイトルーティン
麻衣が仕事帰りにコンビニ袋を下げて戻ってきたのは、午後九時を回った頃だった。
「ただいまー。お兄ちゃん、生きてる?」
「……お前、本当に来るのかよ、狭いだろうが」
大介はベッドの上で、エイミーの華奢な体を丸めてふて腐れていた。
魔法使いとしてギルドでチヤホヤされ、高級ディナーでも楽しむはずだった初日の夜が、六畳一間のアパートで妹の帰りを待つ身になるとは。
「当たり前でしょ。あんた、放っておいたら何するか分かったもんじゃないし。荷物ダンジョンに置いとこうかな」
「おい、仮にもダンジョンだぞ。危険じゃないか」
「大丈夫、大丈夫」
麻衣は押し入れのようにダンジョンに荷物を置くと、買ってきたサラダとサラダチキンをテーブルに並べると、値踏みするようにエイミー(大介)の体をじろじろと眺めた。
「……それにしても、本当に綺麗な子。お兄ちゃんの中身が入ってるのが国家損失レベルね。ほら、そんなにダラダラしない。美人さんなんだから、もっと背筋伸ばしなさいよ」
「中身が俺なんだからいいだろ別に……」
夕食(といっても麻衣が買ってきたヘルシーすぎるメニューだ)を終えると、ついに最大の難関がやってきた。
「はい、お風呂。私が脱衣所で待機してるから、あんたは目隠しして入りなさい」
「はあ!? 目隠しして風呂に入れるかよ! 溺れるわ!」
「じゃあ、首から下は見ないこと。これ、エイミーさんとの約束。いいわね?」
麻衣は脱衣所のドアを少し開け、逃げ場を塞ぐように座り込んだ。
大介は泣く泣く、エイミーの服を脱ぎ始めた。鏡を見ないように、そして下を見ないように。
しかし、指先に触れる肌のあまりのきめ細やかさに、どうしても意識が向いてしまう。
「お兄ちゃん、今変なこと考えてない?」
「考えてねえよ! つーか、お前が外にいると思うと全然リラックスできねえんだよ!」
「あんたのリラックスなんてどうでもいいの。エイミーさんの『清潔』と『尊厳』を守るのが私の使命だから」
シャワーの音だけが響く浴室で、大介は必死に虚空を見つめ、念仏を唱えるように「俺は魔法使い、俺は全系統魔法使い……」と繰り返した。
風呂上がり、麻衣が用意したエイミー用の下着(昼間に麻衣が勝手に買ってきたものだ)を渡されたとき、大介はついに限界を迎えた。
「おい、これ……レースついてんだけど……」
「エイミーさんは女の子なんだから当然でしょ。ほら、早く着替える! 明日はギルドに行くって行ってたでしょ。夜更かしも禁止!」
大介は、麻衣に敷かれた布団の上で、異世界の空を仰ぎたい気分になった。




