第62話:剛腕の「ダイスケ」、予選を粉砕す
リディア王都近郊。活気に沸く地方武術大会の予選会場に、その男は現れた。
岩のように隆起した筋肉と、鋭い眼光を湛えた巨漢――**エイミー(中身は大介の体)**である。
エイミーは、大介から託された「リディア側での資金調達と名前売り」という任務を完璧に遂行するため、この大会のリングに立っていた。
(……落ち着きなさい、エイミー。この体は、大介さんが鍛え上げた最高の「武器」よ。私はただ、それを正しく導くだけ……!)
エイミーは心の中で深呼吸し、大介の野太い声を意識して周囲を睥睨した。
予選は、数十人が同時に入り乱れて戦うバトルロイヤル形式。
開始の鐘が鳴ると同時に、周囲の荒くれ者たちが、最も目立つ巨漢(大介体)へと一斉に襲いかかった。
「おい、そのデカい図体を真っ先に沈めてやるぜ!」
「死ねぇっ!」
三人の男が、斧と棍棒を振り上げ、エイミーの死角から飛びかかる。
だが、エイミーの感覚は、大介の身体能力を魔法的に「最適化」していた。
エイミーは本来、緻密な魔力操作が得意な魔導師だ。その精密な感覚で、大介の強靭な筋肉の「バネ」を一点に集中させる。
「――シッ!」
大介直伝の、一切の無駄を省いたカウンター。 エイミーが軽く右拳を突き出した瞬間、空気が**「ドンッ!」**と爆ぜた。
正面から来た男の防具が紙細工のようにひしゃげ、その衝撃の余波だけで左右の二人もまとめて吹き飛ばされる。
男たちはリングの端まで転がることすら許されず、観客席の壁にまで叩きつけられて沈黙した。
「……なっ!?」
「今、何が起きた……!? 魔法か?」
会場が静まり返る中、エイミー(大介体)は平然と立ち尽くしていた。
彼女にとって、大介の体で身体強化魔法を全開にするのは、重戦車にジェットエンジンを積むようなものだ。
もはや、このレベルの戦士たちでは「壁」にすらならない。
その後、襲いかかろうとした者たちも、エイミーが放つ「本物の強者」のオーラに気圧され、次々と後退していく。
「……戦わないのなら、降りろ。私……いや、俺の時間を奪うな」
大介の低い声で発せられた冷徹な言葉。
結局、エイミーは予選のリングで十数人を一歩も動かずに戦闘不能に追い込み、圧倒的なトップ通過を果たした。
観客席の片隅で、ガザルが震えながらその光景を記録していた。
「……ダイスケ殿。あの方は、やはり人間ではない。あの『組織』は、武力においてもリディアを飲み込もうとしているのか……!」
エイミーは悠然とリングを降り、拳に付いた埃を払った。
(……完璧だわ、大介さん。予選はただの掃除に過ぎない。本戦で、もっと高く『私たちの名前』を売りに行きましょう)
王都に「ダイスケ」という名の怪物の噂が広まり始める。
それは、リディアの利権を根底から揺るがす、新たな嵐の予兆だった。




