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第60話:勝利の凱旋と天才の壁


 新宿ダンジョン第十六層の静寂を、耳を裂くような爆鳴が切り裂いた。


「――っ、これで、最後よ……! 墜ちなさい!!」


 **大介(エイミー体)**は、右手に「火炎」、左手に「氷結」の魔力を、文字通り「強引に」練り上げた。


本来なら緻密な魔力演算でバランスを保つべき双極の属性を、大介は持ち前の根性とエイミーの膨大な魔力貯蔵量タンクで無理やり押さえつけたのだ。


 その歪な魔力の塊を、白銀トカゲの顔面へと叩き込む。  


衝突の瞬間、火と氷が互いを打ち消し合う「相克の衝撃波」が発生し、トカゲの硬質な鱗を内側から爆砕した。


「ギィ、ァ……ッ!」


断末魔とともに主が光の粒子となって霧散する。


大介(エイミー体)は荒い呼吸を整えながら、戦利品の『白銀トカゲの尾』を拾い上げた。


服はボロボロになり、肌には裂傷があったが、大介はここで一つの魔法を唱える。


「……『クリーン』。……よし、これで完璧ね」


 エイミーの膨大な魔力を注ぎ込んだ洗浄魔法は、単なる汚れ落としの域を超えていた。


返り血は消え、破れた衣服の端は整い(修復はできずとも)、肌の汚れも一瞬で拭い去られる。


傍目には、激戦を終えた直後とは思えないほど「涼しげな姿」へと変貌した。



数時間後。新宿ダンジョン管理ギルドのロビー。  自動ドアが開き、銀色の髪を一本の乱れもなく整えたエイミー(中身は大介)が現れると、ロビーの喧騒がピタリと止んだ。


 Bランクのパーティーですら命を落としかねない第十六層から帰還したというのに、その少女は、汗一つかかず、まるで散歩から戻ったような涼しげな顔で立っていたのだ。


 彼女が受付カウンターに叩きつけたのは、十六層の希少素材の山。


「北川。……約束通り、持ってきたわよ。わたくしを待たせるようなら、このギルドごと氷漬けにしてあげるから、早く計算なさい」


 銭ゲバ受付嬢、北川さやかが、眼鏡をずらして素材と少女を交互に見た。


「……嘘でしょ。第十六層をソロで、しかも……無傷なの? 仲介料を引いても、換金額は六千万円を超えるわよ」


「……当然よ。わたくしが本気を出せば、あんなトカゲ、羽虫を払うようなものだわ」


 周囲の冒険者たちは、その「余裕すぎる姿」に戦慄した。ボロボロで帰ってくるならまだしも、(ぱっと見は)無傷での凱旋。それは、彼女の力が第十六層すらも「作業」でしかないことを意味していた。



 深夜、新宿のアパートへ帰り着いた大介(エイミー体)は、玄関でそのまま崩れ落ちた。


「……くそ、死ぬかと思ったぜ……。エイミー、お前よくこんな体力のない体で魔法なんて使えてるな……」


見た目はとりつくろえても、大介(エイミー体)の体力は限界だった。這うようにして風呂場へ向かい、鏡に映るボロボロの少女の姿を見つめる。  


六千万円という大金は手に入った。これで白石商事への「完全前払い」は余裕でクリアできるし、リディアトレードの地球側拠点の基盤は盤石になる。


 だが、今回勝てたのは、単にエイミーの魔力貯蔵量がトカゲの耐久力を上回っていたからに過ぎない。


「属性魔法……あいつの感覚を、もっと深く叩き込まねえと……。次に潜る時は、魔力切れで詰む。あいつと合流した時に、ちゃんと教わらねえとな……」


 大介は、自分の華奢な指先をじっと見つめ、魔力の余韻に痺れる腕を抱えた。  


一人での強行軍は、勝利と同時に、大きな「課題」を大介に突きつけていた。

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