第53話:卸売問屋との対決
「合同会社リディアトレード」の登記が終わってからしばらく立つ。入れ替わりも終わり、今日は本来の大介の姿で訪れている。
大介は、麻衣がリストアップした都内の化粧品専門卸売問屋「白石商事」の重い扉を叩いていた。
手には、刷り上がったばかりの「代表社員 戸田大介」の名刺がある。
「……新設の会社さんですか。うちは実績のない相手とは取引しない主義でしてね。お引き取りを」
応接室に現れた仕入れ担当の白石部長は、大介の名刺を指先で弾き、鼻で笑った。
大介の無骨な風貌と、設立したばかりの「リディアトレード」という得体の知れない社名は、保守的な問屋の目には「怪しいブローカー」にしか映らない。
だが、大介は動じない。
リディアで培った「相手が動く前に動く」殺気を、ビジネスの場に相応しい威圧感へと変換し、静かに口を開く。
「実績なら、今ここで作ります。初回発注は全額現金、前払いで。その代わり……卸値は通常価格からさらに**15%**引いてもらいます」
「な……!? 15%? 馬鹿を言いなさい。そんな破格、上場企業でもなければ出せませんよ。大体、貴社には信用(与信)が全くない」
白石は冷淡に言い放った。
企業間取引において、実績のない新設会社に有利な条件を出すリスクは負えないというわけだ。
しかし、大介はそれを見越していた。
「ええ、ですから**『前払い』**だと言っているんです。貴社にリスクはありません。これを見てから判断してください」
大介は、オークションの売上を引き出し、麻衣が速攻で法人口座へ叩き込んだ現金の残高証明書をテーブルに滑らせた。
その桁外れの数字を見た瞬間、白石の顔から余裕が消え失せる。
「なっ……個人事業に近い新設会社が、いきなりこれだけのキャッシュを!? どこからこんな資金を……」
「輸出先とのパイプは既に盤石です。今後、発注量は月を追うごとに倍増する。今ここで手を握るか、それとも他社がこの利益を独占するのを見て指をくわえているか。……選んでください、白石部長」
大介の、まるで真剣勝負の最中のような鋭い眼光。圧倒された白石は、ネクタイを緩め、額の汗を拭った。
「……分かりました、戸田社長。認めましょう。ただし条件があります。貴社の取引実績が一定額――まずは五千万に達するまでは、全ての取引を完全前払いとさせていただきます。それが飲めるなら、15%引きの卸値で契約しましょう」
「……いいでしょう。望むところだ」
大介は不敵に笑い、差し出された白石の手を強く握り返した。
信用がないなら、金で殴りつけるまで。こうして「リディアトレード」は、地球側の強固な供給網をその手中に収めた。




