51.4話 オークション
新宿ギルドの地下。そこは、選ばれた富豪と有力探索者だけが入場を許される特設競売会場だ。
大介(エイミー体)は、耳を完全に隠した銀髪をなびかせ、北川が用意した最上階の貴賓席で悠然と足を組んでいた。
「……北川。私を退屈させないでちょうだい。この程度の素材で会場が静まり返るようなら、次は他所のギルドへ行くわよ?」
眼下で繰り広げられる競売を見下ろし、大介は「高飛車な魔女」を完璧に演じる。
隣に控える北川は、眼鏡の奥で欲望をぎらつかせ、銭ゲバの笑みを深くした。
「ふふ、ご安心を、エイミー様。本日のメインディッシュ……あなたが『拾ってきた』あの宝石たちは、もうすぐですわ」
ついに会場の照明が落ち、スポットライトがステージ中央の素材を照らした。
『万年雪の結晶』。その神々しい輝きが放たれた瞬間、会場から悲鳴に近いどよめきが上がった。
出品者はリディアトレードとエイミーの名
「なっ……あれは、数十年前に失われたはずの聖属性触媒か!? 本物か!?」
「開始価格は五千万! ……いや、いきなり一億だ!!」
会場は一瞬で戦場と化した。電光掲示板の数字が、大介の想像を超える速度で跳ね上がっていく。
「一億二千万!」「一億五千万!」「二億だ! 二億出そう!」
二階席から見下ろす大介の心臓はバクバクだったが、表向きは冷笑を浮かべ、指先で銀髪を弄んでみせる。
「(よっしゃあああ! 二億突破! 震えが止まらねえけど、今は『高飛車な魔女』だ。顔に出すな、俺……!)」
最終的に、『火竜の逆鱗』とセットで落札された総額は二億八千万円。
北川への三割のマネジメント料を差し引いても、手元に残る現金は約二億。
これですべての「資本金」がクリーンな状態で揃った。
オークション終了後。ギルドの裏口から出ようとする大介を、数人の屈強な探索者が取り囲んだ。
「おい、お嬢ちゃん。あんなブツをどこで手に入れたか、ちょっと裏で教えろよ。可愛い顔を傷つけたく――」
男が手を伸ばした瞬間、大介はエイミーの華奢な指先に全系統の魔力をバチバチと集束させた。
「……触るな、下等生物。貴様のような雑魚の指が触れただけで、私の魔力が汚れるわ。消えなさい。二度とその薄汚い顔を私に見せないことね」
凄まじいプレッシャー。男たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直した。大介(エイミー体)は鼻で笑い、そのまま闇に消えた。
アパートに戻り、大介はガッツポーズをとる
「よっしゃ!これで大金持ちだー」
「大介さん! お疲れ様です! 二億……二億ですよ! 私たちの世界なら、国が一つ揺らぐ金額です!」
ポータル越しにエイミーが絶叫する。そこへ、夜勤明けの麻衣が不機嫌そうな顔で入ってきた。
「ちょっと、廊下まで声が丸聞こえ。……でお兄ちゃん、二億稼いだのはいいけど、これ、頻繁にはできないからね? ギルドの裏掲示板で『謎の銀髪美少女』の噂が広まりまくってる。これ以上目立ったら、本気で政府に拉致されるわよ」
「わかってるよ。……一回でこれだけ稼げれば十分だ。登記用の資本金はこれで盤石。……よし、約束通り行くか。登記記念のパフェだ!」
その数時間後。三人は原宿のカフェで、巨大な「特製イチゴパフェ」を囲んでいた。
「……あ、あ、しあわせです……! 脳の回路が甘みで焼き切れそうです!」
エイミー(大介体)は、昨日までの緊張が嘘のように、瞳を輝かせてスプーンを運んでいる。
「おい、こぼしてんぞ」とハンカチで口元をふくエイミー(大介体)
中身がエイミー(体は大介)が、瞳を輝かせてスプーンを運ぶ。その様子を見ていた麻衣が、ふとニヤニヤしながら二人を見た。
「……ねえ。あんたたち、本当に入れ替わりの仕事仲間?
なんだかんだ息ぴったりだし、すっごく仲いいわよね。まるで恋人同士みたいじゃない?」
「「っ……!!」」
パフェを口に運んでいた二人が、同時にフリーズした。
「何を言ってるんだお前は! これはビジネスだ! 純粋な契約上のパートナーだぞ!
むしろ、こいつが俺の体で変な動きしないかハラハラしてるだけだ!」
「そうですよ! 恋人なんて、ありません! 私たちはその……命を燃やす時間を共有する『相棒』のようなものですから!」
必死に否定する「美少女のエイミー(中身大介)」と「ゴツい大介(中身エイミー)」。
「ふーん? まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
麻衣は楽しげに笑い、自分のパフェに口をつけた。
「……おい、エイミー。喜びすぎて動き回るなよ。今はゴツい男の体なんだからな。
……麻衣、サンキュな。この二億で、次は俺たちの『城』……このアパートごと買い取ってやるからな」
異世界マネーロンダリング、完遂。 二人の「合同会社リディアトレード」は、甘いパフェ
二人の「合同会社リディアトレード」は、甘いパフェの香りと共に、世界を揺るがす第一歩を力強く踏み出した。




