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51.3話 オークション出品


 リディアの市場でエイミーが買い揃えた素材が、アパートの床に並べられた。


 周囲の空気を凍らせる『万年雪の結晶』、そして心臓のように脈打つ『火竜の逆鱗』。放たれる魔力の残光に、大介は思わず喉を鳴らした。


「……よし。これをギルドのオークションに出す。だが問題は、誰が持ち込むかだ。エイミー、お前、これを持ってギルドに行けるか?」


「えっ……!? 無理です! ギルドの受付なんて、魔物より怖そうな人ばかりじゃないですか。もし『どこで手に入れたんだ』って凄まれたら、私、一秒で『異世界で買いました』って白状してしまいます!」


 エイミーは小刻みに震えながら首を振った。


「……だよな。お前の豆腐メンタルじゃ、プロの鑑定士の目は誤魔化せねえ。――入れ替わりだ。俺がエイミーの体でギルドに行く。麻衣、お前は大介の体に入ったエイミーが迷子にならないように見ておいてくれ」


「了解。お兄ちゃん、その格好でガニ股で歩かないでよ。職質されるから」


 翌朝。パジャマ姿の大介(エイミー体)は、麻衣が不在なことをいいことに自分の胸を軽く揉みつつ、鏡の前で不敵に口角を上げた。


「今回も徹底した『高飛車な女』で行くぞ」


 大介は銀色の髪を念入りに整え、エルフ特有の尖った耳が完全に隠れるようにセットした。


 新宿ダンジョンギルドの相談室。そこには、獲物を狙う鷹のような目でデスクに身を乗り出す女、北川さやかが待っていた。


「北川。すぐに頼みたい依頼シゴトがある」


 大介(エイミー体)が、凛とした、だがどこか見下すような物言いで椅子に座る。


北川は眼鏡の奥の瞳をわずかに見開いた後、即座に「銭ゲバの笑み」を浮かべた。


「ええ、素晴らしい仕上がりですわ、エイミー様。……それで、本日はどのような『お土産』を持ってきてくださったのかしら?」


 大介(エイミー体)がアタッシュケースを開けた瞬間、北川の顔が驚愕で土気色に変わった。


「っ……!! これは……本物!? 現代のダンジョンでは絶滅したはずの代物じゃない……!」


 北川の眼鏡の奥で、エンのマークが高速回転を始める。彼女にとって、真実がどうあれ「利用できるかどうか」こそがすべてだ。


「北川。これを出品したいの。……ただし、出所に関する一切の調査を伏せ、ギルド本部の査察もあんたの権限で握り潰しなさい。できるわね?」


「いいでしょう。この素材の出所は『未踏破の隠し部屋』として私が処理します。書類の不備も、査察への根回しも、すべて私のマネジメント料……利益の三割に含まれるサービスですわ」


 大介は、ケースの端に重ねたリディアの古い金貨数枚を、北川の手元に滑らせた。


「これはアンタへの直接の『チップ』よ。アンタの取り分とは別。……これで、オークションの『秘匿枠』を盤石にしなさい」


「ふふ……本当に、あなたは私の期待を裏切らないわ。任せなさい、最高のステージを用意してあげる」


「……頼んだわよ。あと北川。あんまりニヤニヤしながらわたくしをジロジロ見ないことね。……ケツを蹴り上げるわよ?」


「あら、商品価値のチェックもマネージャーの仕事ですわよ?それと出品者名の公開はどうしますか?秘匿してもいいですが、公開するなら名を売れます。高額依頼を狙うなら良い機会かと」 



「それなら公表するわ、新設する法人の宣伝にちょうどいいもの。あんたもその方が嬉しいんでしょう」


 可憐な少女の口から出る野蛮な脅しすら、北川にとっては「ギャップ萌えの新商品」にしか見えていないようだった。


 入れ替わりを解き、自分の体に戻った大介は、ぐったりと椅子に座り込んだ。


「……あの女、相変わらず金の匂いに関しては嗅覚がバケモンだな。三割は痛えが、あの手回しの速さは本物だ。法人登記の場所も貸してくれたぞ」


「大介さん、お疲れ様です! 北川さん、なんだか目が怖かったですけど……大丈夫なんですか?」


「ああ。あいつは金が絡めば、国家を相手にしても嘘をつき通すタイプだ。……さて、あとはオークション当日。新宿中の金持ちが集まる夜を待つだけだ」


 いよいよ、異世界の秘宝が億単位の札束に変わる「後編」へと続く。

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