51.2話:異世界資産の「洗浄(クリーン・アップ)」と設立登記
新宿のボロアパート。登記書類とノートパソコンを前に、大介は唸り声を上げていた。
画面には、エイミーがリディアで稼ぎ出し、本来の体に戻る際に持ち帰った「金貨200枚」が、鈍い黄金の光を放って積まれている。
「……ダメだ。これ、そのまま法人口座にぶち込むわけにはいかねえ。面倒だがとりあえず100万で登記して後から増資するか」
「当たり前でしょ、お兄ちゃん」
隣で電卓を叩いていた麻衣が、呆れたように眼鏡を直した。
「2000万円相当の金塊をいきなり入金して『資本金です』なんて言ったら、税務署より先に警察が来るよ。最悪、テロ資金か組織犯罪の疑いで口座凍結。会社設立どころか、お兄ちゃんが豚箱行き」
ポータル越しに聞いていたエイミーが、青ざめた顔で身を乗り出す。
「そんな……! 私、大介さんの顔で必死に商会長を説得して稼いだんです。半分も国に持っていかれるなんて、夜も眠れません!」
「落ち着け、エイミー。だから、**『ロンダリング(洗浄)』**が必要なんだ。この金を、地球側のルールで『正当に稼いだ白な金』に変換する」
大介がノートに書き出したのは、現代日本における**『冒険者保護法』**の特例だった。
「いいか。今の日本では、ダンジョン内で採取した素材の売却益は、一次産業……つまり農業や漁業と同じ扱いになる。特に『事業所得』として申告すれば多額の控除が受けられるし、何より**『採取場所の詳細』を秘匿する権利が法律で守られている**んだ」
「なるほど。どこで手に入れたか言いたくないなら、言わなくていい……。探索者の命に関わる情報だから、っていう建前ね」
麻衣が膝を打つ。大介は不敵に笑い、エイミーに指示を飛ばした。
「エイミー、その金貨を全部使って、リディアの市場で『地球では超希少だが、あっちでは金で買える素材』を買い占めてこい。それを俺がこっちのダンジョンに持ち込んで『拾ってきた』ことにする。そうすれば、国が認めた免税枠の中で、合法的に億単位の軍資金を作れる」
「……! わかりました、大介さん。リディアの市場なら、没落した貴族が放出した『火竜の逆鱗』や『万年雪の結晶』が時々出回ります。私、最高の一品を揃えてみせます!」
「よし。エイミーが素材を買い、俺が日本のギルドでそれを売る。これが『リディアトレード』最初の極秘プロジェクトだ」
大介は拳を握りしめた。
あっちの世界で「金で買えるもの」を、こっちの世界の「奇跡」として売却する。
それは、二つの世界の価値観の差を利益に変える、もっとも効率的で危険な商売の始まりだった。
「……さて、問題は『誰が』その素材をギルドに持ち込むか、だな」
視線の先には、やる気に満ち溢れた、しかし驚くほど挙動不審なエルフの少女。
大介は、自分の「外面」をどう取り繕うか、次なる策を練り始めた。




