第51.5話:遊園地の壁と、兄の影
山のような金貨と、鈍く光る三基のポータルを前に、二人はしばしその圧倒的な戦果に浸っていた。
しかし、ひとしきりお互いの「悪行(手柄)」を報告し終えると、エイミーが思い出したように、少し上目遣いで大介に詰め寄った。
「……ところで、大介さん。金策の話も大事ですけれど、忘れてはいませんか? 私、三日間厳しい特訓もしたんですよ」
「ああ、よくやった。褒めてやるよ」
「言葉だけでは足りません! 以前約束した、地球の『ゆうえんち』
……いつ連れて行ってくださるんですか? ジェットコースターで絶叫して、甘い綿あめを食べて、ネズミの被り物をするって決めてますの!」
大介は、エイミーが自分の顔(おっさん顔)でネズミの耳をつけてはしゃぐ姿を想像し、一瞬だけ遠い目をした。いや、入れ替わって行く必要はないか。
「……いや、まだだ。遊園地は、この物件、リディアのエイミーの家を丸ごと買い取って、セキュリティを完璧にしてからだ」
「ええっ!? また先延ばしですか! 今の稼ぎがあれば、入場料くらい余裕のよっちゃんじゃないですか!」
「どこで覚えたんだその死語は……。いやリディアの死語が翻訳されたのか。いいか、エイミー。今はまだ、このポータルの接続が不安定なんだ。もし俺たちが遊園地でポップコーン食ってる間に、こっちの物件が誰かに差し押さえられたり、ポータルが消滅したりしてみろ」
大介は真剣な表情でエイミーを見つめた。
「俺は、お前と会えなくなる可能性を、一パーセントでも残したくないんだよ。遊園地に行くのは、この『扉』が誰にも壊されない俺たちの城になってからだ。わかったな?」
突然のストレートな言葉に、エイミーは顔を真っ赤にした。
「……そ、そんな、会えなくなるのが怖いだなんて、急に格好いいことを言われても……。私だって、大介さんの胸板……じゃなくて、大介さんに会えなくなるのは困りますけれど……」
もじもじと指を弄ぶエイミーだったが、すぐに現実を思い出して溜息をついた。
「……まあ、確かにそうですわね。私の方も、いつ次兄のヴァルディスが『政略結婚の準備が整ったぞ、帰るぞ』って扉を蹴破ってくるか分かりませんもの。あんな奴にポータルを見つけられたら、組織どころか地球が侵略されてしまいますわ」
「だろ? お前の兄貴、いきなり来るタイプだもんな。俺のいない間に来られたら、お前の腕じゃまだ追い返せない」
「なんですって! 私だって大介さんのカラテを……あ、でも、あのお兄様の顔を思い出すと、まだ膝が笑いますわね。……わかりましたわ。しぶしぶ、本当ーーに、しぶしぶ納得してあげます」
エイミーは頬を膨らませてそっぽを向いたが、大介は笑って彼女の頭を軽く撫でた。
「安心しろ。城を構えたら、遊園地でもどこでも連れてってやる。……その代わり、次は俺の体で変なハッタリかますなよ? 『組織のトップ』なんて設定にしたら、後が怖えだろ」
「ふん、大介さんこそ! 私の体で闇市にカチこむなんて、私の評判が『ドリル魔女』から『死神ドリル』に進化してしまいます!」
「どっちも変わらねえよ!」
交差ダンジョンに二人の笑い声が響く。
遊園地への道のりはまだ遠いが、二人の「城」を築くための野望は、さらに熱く燃え上がっていた。




