第49話:ガザルへの再交渉
爆炎の残滓を纏ったまま、大介(中身はエイミー)は再びルナリス商会の重厚な扉を叩いた。
受付の店員は、先ほどよりもさらに殺気立った――ように見える――巨漢の姿に悲鳴を上げ、奥へと逃げ込んだ。
「……あ、あの、戸田様。先ほど契約は済んだはずでは……」
応接室に現れたガザルは、顔を真っ青にしていた。
彼が放った私兵たちが、ただの一撃で壊滅したという報告が届いた直後だったからだ。
エイミーは大介の大きな体を椅子に沈め、ドサリと音を立てて金貨の袋をテーブルに置いた。
そして、大介の低い声を精一杯低く保ちながら、相手を射抜くような視線を向ける。
「……ガザル殿。先ほどの『挨拶』、少しばかり騒がしすぎたんじゃないですか?」
「ひ、ひぃ……! それは、その、貴殿の実力を確かめるための、いわば我が商会なりの儀式でして……」
エイミーは心の中で(そんな儀式あるわけないじゃない!)と毒づきながらも、大介が乗り移ったかのような冷徹な笑みを浮かべた。
「いいでしょう。その『儀式』の礼として、契約内容を書き換えさせてもらいます。独占販売権の前金、金貨百枚と言いましたが、それを**『金貨二百枚』**に吊り上げます」
「に、二百枚……!? しかしそれはあまりに……」
「……まだ話は終わっていません」
エイミーは大介の太い指先で、爆炎グローブの金属部分をコツコツと叩き、身を乗り出した。
「いいですか。今後この身に不審な影が一つでも差せば……動くのは私だけではありません。私の背後に控える**『組織』**が、貴殿の商会を、その利権ごとこの世から消し去ることになる。よろしいですね?」
大介から教わった「ハッタリ」と、地球側の「組織」という言葉の響き。
ガザルには、戸田大介が未知の巨大な勢力の尖兵であるかのように映ったに違いない。
「しょ、承知いたしました! すぐに差額を用意させます! 我々ルナリス商会は、戸田様と貴組織の忠実な友として振る舞うことを誓いましょう!」
ガザルは震える手で追加の金貨を差し出し、深々と頭を下げた。
こうして、当初の倍以上の資金を勝ち取ったエイミーは、悠然と商会を後にした。
その日の夜。エイミーは自宅のベッドに横たわり、大介の大きな腕を眺めていた。
「ああ怖かった、金貨二百枚……。戸田大介という名前の重さを、少しだけ知った気がします。……大介さん、私、ちゃんと『大介さん』みたいに振る舞えてましたか?」
明日はいよいよ、一週間ぶりの入れ替わりの刻。
お互いの世界で、お互いの体を使い、信じられないほどの成果を上げた二人の魂が、再び本来の場所へと帰ろうとしていた。




