第4話:全系統適性の衝撃
二葉荘の薄暗い一室に戻った大介は、姿見の前に立って絶句した。
「……マジか。夢じゃないんだな。マジで美少女になってる」
鏡に映るのは、不摂生な生活を送っていた自分とは対照的な、透き通るような肌の銀髪エルフだ。
試しに「ファイア」と念じて指先を鳴らすと、小さな火種がポッと灯る。
魔力がある。それだけで、世界がバラ色に見えた。
「よっしゃ……行くか、人生逆転に!」
大介はエイミーが着ていたローブを脱ぎ、自分のタンスから一番小さなパーカーとスウェットを引っ張り出した。
ブカブカだが、かえってエルフの華奢さが際立つ。
フードを深く被り、大介はそのまま新宿の冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中は相変わらず、泥臭い冒険者たちで熱気に溢れていた。
大介は迷わず新規登録の列に並ぶ。窓口には数日前、自分に「モンク適性のみ」と冷酷な現実を突きつけたあの眼鏡の女性職員が座っていた。
「次の方、どうぞ。……新規登録ですか?」
事務的な口調で応対する彼女に対し、大介は咄嗟に裏声を作った。
「ああ、お願いするわ」
エイミーの元の声が鈴の鳴るような美声なため、大介の適当な裏声でも、周囲には可憐な少女の声として響いた。
「では、こちらの適性水晶に手をかざしてください」
大介が緊張しながら水晶に触れる。
数日前、大介が触れた時は「格闘家」という文字が寂しく光るだけだった。だが今は違う。
キィィィィィィィン! と耳鳴りのような音が響き、水晶が爆発せんばかりの輝きを放った。
「なっ、何事だ!?」
ざわつく周囲を余所に、水晶の上に浮かび上がった文字を見て、職員の女性が眼鏡をずらした。
『魔法使い(火、水、風、土、光、闇、特殊):全系統適性』
「……全、系統……?」
職員の声が震えている。
「魔法使いの適性があるだけでも数千人に一人なのに……全系統なんて、観測史上初ですよ!?しかも魔力測定値は測定不可。 あなた、一体何者なんですか……?」
周囲の冒険者たちが、どよめきと共に身を乗り出してきた。「全系統の魔法使いだと?」「おい、あの子をうちにスカウトしろ!」という声が飛び交う。
大介は内心でガッツポーズをした。これだ。この「特別感」こそが、俺が求めていたものだ。
だが、職員の鋭い視線がフードの奥の大介を射抜いた。
「名前は、何とおっしゃいますか?」
「え……えっと、エイミー。エイミー・レインだ」
「エイミーさん。……失礼ですが、先ほどから少し、立ち居振る舞いに違和感があります。それに、その服。数日前にここへ来た、ある冒険者と同じ匂いがしますが」
大介は冷や汗を流した。さすがは一流ギルドの職員、観察力が尋常ではない。
周囲の喧騒を避けるように、彼女は小声で付け加えた。
「……騒ぎになると面倒です。奥の相談室へ行きましょう。じっくりお話を伺います。あ、それから」
彼女は胸元のネームプレートを指先で弾いた。そこには『北川さやか』と刻まれている。
「私は北川と申します。さあ、こちらへ」
大介は悟った。この切れ者の女を味方につけなければ、成り上がりどころか、速攻で正体がバレて詰む。
「わかった。……頼む、北川さん。協力してくれ」
つい、素の男らしい口調が出た大介を見て、北川は眉をピクリと動かした。




