第48話:ガザルの策略と「先」を打つ拳
金貨百枚という破格の契約を交わし、ルナリス商会を後にしたエイミー(大介体)。
しかし、その背後には音もなく忍び寄る影があった。
商会長ガザルは、この「異邦の男」が持ち込んだ秘薬の出所を力ずくで奪うべく、手練れの私兵たちに追跡を命じていた。
人気のない路地裏。前後の出口を塞がれたエイミーは、大介の屈強な体を強張らせた。
「……止まっていただこうか。その荷物と、薬の製法。大人しく置いていくなら、命までは取らん」
私兵のリーダーが剣を抜き、じりじりと間合いを詰めてくる。
「(どうしよう、どうしよう……!)」
エイミーの心臓が激しく脈打つ。契約金が破格だったのは油断させるためだったのかもしれない。
しかしその時、脳裏に大介の声が響いた。入れ替わりの前に、彼が何度も繰り返していた**『カラテの基本』**だ。
『いいかエイミー、お前の魔法みたいに長い詠唱を待ってくれる奴はここにはいねえ。相手が動くのを待つな。**相手が「動こう」とした瞬間、その「先」を打て。**考える前に、先に体をぶつけるんだ。』
「……相手が、動く前に」
エイミーは震える手で、大介が装着していた**「爆炎グローブ」**のベルトを締め直した。
私兵のリーダーが、踏み込もうと僅かに重心を下げた。その刹那、エイミーの意識が切り替わる。
「……今っ!!」
エイミーは大介の太い脚を使い、地面を爆発的に蹴った。
相手が剣を振り上げるよりも早く、大介の巨体が弾丸のように肉薄する。
「なっ、速い……!?」
驚愕に目を見開くリーダーの顔面に、エイミーは大介から教わった通りの「真っ直ぐな拳」を突き出した。
同時に、グローブへ魔力を一気に流し込む。
――ドォォォォォン!!
路地裏を震わせる爆炎と衝撃波。
グローブから噴出した火炎が、リーダーを盾ごと吹き飛ばし、後方の壁に叩きつけた。
「う、動く前に動けた……!」
エイミーは息を切らしながらも、倒れ伏す敵を見つめた。
残りの私兵たちは、巨漢の男(中身はエイミー)が一切の予備動作なく爆発的な突進を見せたことに恐怖し、戦意を喪失して崩れ落ちた。
「(大介さん……私、できました。大介さんの教えてくれた通りに……!)」
力に頼るのではなく、技術と決断で「先」を取る。
エイミーは、大介の体が持つポテンシャルと、彼が培ってきたカラテの真髄を初めて肌で理解した。
二人の拠点を守るための戦いは、こうして「力による決着」という形で一段落した。




