第37話:戸田家の日常と、入れ替わりの境界線
朝の光が窓から差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる中、**大介(エイミー体)**はリディアのボロ家にある硬いベッドの上で目を覚ました。
隣にはエイミー(大介体)がむにゃむにゃと眠っている。
「……ふわぁ、よく寝た。やっぱ戦いの後の泥睡は最高だな」
見た目は可憐な美少女だが、今の中身は大介。欠伸の仕方は完全におっさんである。
大介は手際よくベッドを整えると、台所へと向かった。
一人暮らし歴が長く、実はかなりの料理好きである大介にとって、リディアの素朴な食材は好奇心の塊だった。
「さて、エイミーのやつ、いつも何食ってんだ……。……って、干し肉と硬いパンしかねえのかよ。これじゃあ力が出ねえだろ」
大介は苦笑しながら、冷蔵庫らしきとの中を覗くと卵と野菜、それに割引品らしきベーコンがある。
コンセントなど付いていないのに冷えているのは魔法の力だろうか。
トントントン、ジュワーッ!
軽快な包丁さばき。エイミーの華奢な指先は、大介の技術によって魔法以上の精度で野菜を刻んでいく。
そこへ、目覚めたばかりの**エイミー(大介体)**が、いい匂いに誘われて顔を出した。
「……大介さん? 私の体で一体何を……わあ、すごい! 何ですかこの美味しそうな料理は!」
「お、起きたか。朝飯だ。お前の体、魔力はすごいけど栄養が足りてねえぞ。ほら、食え」
差し出されたのは、リディアの食材で作った「絶品オムレツ」と「厚切りベーコンの温野菜添え」。
二人は入れ替わった状態のまま、リディアの食卓を囲んだ。
「……おいしいっ! 私、こんなに美味しい朝食、学園の学食でも食べたことありません!」
「だろうな。火加減がコツなんだよ、火加減が。……よし、食ったか? じゃあ、そろそろ戻るぞ」
食後、二人はお互いの活躍を祈り、エイミー(大介体)は交差ダンジョンへと消えていった。
ぐにゃりと視界が歪む。
目を開けた時、大介の目に飛び込んできたのは、見慣れた新宿のボロアパートの天井だった。
「……戻ったか」
慣れ親しんだ双葉荘の狭い部屋に安堵する。
大介がリビングへ向かうと、妹の麻衣がジト目を向けて立っていた。
様子を見るあたり、夜勤終わりに寄ったようだ。
「おかえり。……というか、昨日は結局『向こう』に泊まったんでしょ? 外泊して大丈夫だったの?」
「お前な、何を心配してるんだ。隣で寝てたのは俺の体(中身はエイミー)だぞ。何も起きようがねえよ。それより、あっちで美味いもん食いすぎて腹いっぱいだ」
「へぇー。エイミーさんに手料理でも振る舞われたの?」
「逆だよ。あいつの食生活があんまりだったから、俺が作ってやったんだ」
麻衣は「……お兄ちゃんの女子力、異世界で爆発してどうすんのよ」と呆れつつも、兄の顔がかつてないほど充実しているのを見て、少しだけ安心したように笑った。
「よし、飯は食ったし、次はダンジョンだ。500万じゃ、グローブ買って豪遊したらすぐになくなりそうだからな」
大介は「杖」を手に取った。
胃袋も心も満たされた男の日常は、ここからさらに加速していく。




