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第36話:王都観光と、初めての夜

同窓会の会場を抜け出した大介(エイミー体)は、茂みから這い出てきたエイミー(大介体)と、事情を知ったセレナの三人で、夜の王都の裏道を歩いていた。


「……ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、セレナに話せて良かったぜ」


「本当ですよ、大介さん。心臓が止まるかと思いました……っ。でも、セレナ、ありがとう」


 大介の大きな体で、乙女のように指をもじもじさせるエイミー。


セレナはそれを見て、「中身を知れば、確かにエイミーね……」と苦笑している。


「なあ、エイミー。せっかくこうして肉体ごとリディアに来れたんだ。入れ替わりの期限までまだ時間はあるんだろ? 悪いけど、この世界のことをもっと教えてくれよ。観光案内、頼めるか?」


 大介の提案に、エイミーはパッと顔を輝かせた。


「もちろんです! 私の世界を大介さんに見てもらえるなんて……!」


 それからの数時間、二人はセレナの案内も交えながら、夜の王都リディアを巡った。  


空に浮かぶ浮遊石の灯り、魔導具で色鮮やかにライトアップされた大噴水、そして地球の新宿とは全く異なる、神秘的で温かい街並み。


「すげえ……本当に魔法が息づいてる世界なんだな」  


大介(エイミー体)は、エルフの澄んだ瞳で、初めて見る異世界の美しさに心から感動していた。


「いつか、お前を俺の世界の『遊園地』とかにも連れてってやりたいな。あっちはダンジョン外には魔法はないけど、別の意味でキラキラしてるぜ」


「遊園地……。はい、楽しみにしてます!」


 夜も更け、二人は王都の端にあるエイミーの隠れ家のような自宅へとたどり着いた。


セレナは「秘密は守るわ」と言い残し、魔導院の寮へと帰っていった。


「……ここが、お前の家か」


「はい。あまり立派な所じゃなくてすみません……。でも、今日は大介さんの体(自分)がここに泊まるなんて、なんだか不思議な気分です」


 エイミーは恥ずかしそうに笑いながら、一つしかないベッドを大介に譲ろうとした。


「あ、大介さんはこのベッドを使ってください! 私は床で……」


「馬鹿言え、俺は今『エイミー(女)』の体だぞ。お前(俺の体)が床で寝て、俺がベッドで寝るなんて、客観的に見たら絵面が酷すぎるだろ」


 結局、二人は並んで床に腰を下ろし、窓から見える異世界の月を眺めながら語り合った。  


大介は自分の体に慣れないエイミーに「カラテ」の極意を教え、エイミーは大介にリディアの歴史を読み聞かせる。


「……すげえな、やっぱり。こっちの月は、地球のより少しだけ大きく見える気がするぜ」


 大介(エイミー体)が呟くと、隣に座るエイミー(大介体)は、自分の大きな膝を抱えて少し寂しげに微笑んだ。


「……大介さん。この世界、どう思いましたか?」


「ああ? ……そうだな。魔法が便利そうで、街並みも綺麗だし、いい世界だと思うぞ。エイミー、お前はこの世界が好きか?」


 その問いに、エイミーは迷いなく頷いた。


「ええ、大好きです。……たとえ不自由な立場で、魔法使いとしての私が思うように活躍できなくても……私はこの世界が、リディアが好きなんです」


 エイミーの言葉には、不遇な環境にありながらも故郷を愛する、芯の強さが宿っていた。


大介は感心したように頷き、ふと思い立って言葉を続けた。


「……じゃあ、自分のことは好きか?」


 その瞬間、エイミーは即答した。

「嫌いです」


 あまりの速さに、大介は思わず絶句した。


エイミーは自分の(大介の)大きな拳を見つめながら、自嘲気味に続ける。


「才能もなくて、いつもビクビクして……セレナみたいに凛としていられない。自分自身のことが、一番嫌いなんです」


「……お前なぁ。もっと自信を持てよ」  


大介はエイミーの肩を、エルフの華奢な手でポンと叩いた。


「お前はいい女だぞ。自信持っていいレベルだ」


 すると、大介の肉体を持つエイミーが、ジロリと彼(自分の体)を睨んだ。


「……大介さん。 どこを見て言ってるんですか、セクハラですよ」


「げっ、いや……そういう意味じゃねえよ! 中身の話だろ、中身の!」  


大介は慌てて手を振ったが、すぐに真剣な顔つきに戻り、言葉を選んで続けた。


「冗談抜きでさ……お前は頑張ってるよ。俺と入れ替わってから、怖いはずなのに俺の体を必死に動かして、強敵にも立ち向かってる。自分のことが嫌いな奴が、他人のためにそこまで必死になれるかよ」


 大介の声は、夜の静寂に優しく響いた。


「お前が自分を嫌いでも、俺はお前のその『頑張り』を知ってる。だから、もう少し自分を許してやれ」


「……大介さん」  


エイミーは大介の広い胸板の中に、熱いものが込み上げるのを感じた。


自分のことを否定し続けてきた彼女にとって、それは何よりも欲しかった言葉だったのかもしれない。


「……ズルいです、そういうの。自分の体で言われると、なんだか余計に心臓に響くんですから」


 エイミーは照れ隠しに顔を背けたが、その表情は先ほどよりもずっと穏やかだった。  


二人はそのまま、リディアの夜が明けるまで、それぞれの世界の未来について語り合い続けた。


 やがて、旅の疲れと、それぞれの肉体が抱えていたダメージ(脂と酒)の反動がやってきた。


「……ふわぁ。……大介さん、今日は本当に、ありがとうございました。同窓会のこと……一生忘れません」


「……ああ。俺も、お前の世界の月が見れて良かったよ」


 エイミー(中身は大介)と、大介(中身はエイミー)は、同じ屋根の下で、互いの体温を感じながら静かに眠りについた。  


翌朝にはそれぞれの世界へ戻らなければならないが、二人の絆は、この「リディアの夜」を経て、より確かなものへと変わっていた。

補足:翻訳魔法で月になってますが、地球から見える月とは別物です

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