第30話:交差する世界の武装計画
交差ダンジョンでお互いの情報交換を終えた大介とエイミー。
そして、手にした500万円という大金の使い道について話し合った結果、二人は頷き合った。
「……じゃあ、入れ替わる前に、お互いの世界でそれぞれに合った装備を用意してこようぜ。俺の世界じゃ、お前が使うような魔法の杖なんて、それこそオークションでもなきゃ手に入らないしな」
大介は自分の拳を見つめる。
「俺には、お前が使った『爆炎正拳突き』の熱に耐えられる、特注のグローブが欲しい。こっち(地球)は格闘技が盛んだし、ダンジョン素材を使った防具開発も進んでる。最強のグローブを見つけてくるよ」
エイミーも、自身の銀色の髪をそっと撫でながら同意した。
「はい。大介さんが地球で作った『髪ドリル』……いえ、精密な魔法を操るためには、私にはもっと強力な魔力を安定させる杖が必要です。リディアには優れた魔導具職人がいますから、大介さんの教えを体現できるような杖を探してみます」
二つの世界に存在する、それぞれの得意分野。 地球のダンジョン科学が生んだ最新の格闘装備。 リディアの数千年の歴史が育んだ魔導具の粋。
この「交差ダンジョン」があるからこそできる、常識外れの装備調達計画だった。
【エイミー(リディア)の行動】
その頃、リディアの王都。
エイミーは、かつて魔法学園の講師から聞いたことのある、伝説的な魔導具師の隠れ家を訪ねていた。
埃っぽい工房の奥で、白髭の老魔導師が怪訝そうにエイミーを見つめる。
「……ほう。髪を媒体にした術式、そして『ドリル』のような回転貫通魔法を補助する杖だと?」
老魔導師は興味深そうに目を細めたが、エイミーはそこで少し言い淀んだ後、鏡の向こうにいる「脳筋な相棒」の顔を思い浮かべて、意を決したように切り出した。
「あのー……それから、えっと……魔法操作が、その、めちゃくちゃ下手な『初心者』でも扱いやすい……というか、自動で魔力操作を補ってくれるような杖ってありますか?」
「初心者? エルフじゃろうに何を……」
「いえ、そうじゃなくて! 本当に、なんていうか……脳みそまで筋肉でできているような、粗野で大雑把な人が使っても大丈夫なやつが欲しいんです!」
エイミーは、大介が自分の体で「うおー!」と叫びながら、繊細な魔力回路を力技でねじ切る光景を幻視して、思わず「ふふっ、あはは!」と失礼な笑いを漏らしてしまった。
「(大介さん、ごめんなさい。でも本当に、今のあなたの魔力操作って、繊細な時計をハンマーで修理するような感じなんですもの……!)」
想像するだけでおかしくなり、エイミーは震えながら笑いを堪える。
一方、老魔導師は呆れ顔で、工房の隅にある一本の無骨な杖を指差した。
「ふん。ならばこの、古代竜の骨を芯材にした『暴君の杖』はどうだ? 指向性もへったくれもないが、魔力を流せば強引に術式を固定し、暴発を防ぐ。まさに『考えることを放棄した者』のための逸品じゃ」
「あ、それです! それをください!」
エイミーは大介の資金を使い、その「脳筋用サポート杖」を買い取った。
鏡の向こうで本人が「俺は器用なんだよ!」と抗議する声が聞こえてきそうだったが、彼女は満面の笑みで工房を後にした。
【大介(地球)の行動】
一方の大介は、新宿の『影の鍛冶屋』で、職人顔負けの真剣な表情を浮かべていた。
「いいか親父、こいつは『サラマンダーの脱皮殻』だけじゃ足りねえ。もっと熱伝導率を下げる断熱材を内張りに仕込んでくれ。……俺の中身、いや、俺の知り合いは魔法の加減を知らねえんだ。拳を振るたびに、この腕ごとステーキになっちまうような威力が出るんだよ」
大介もまた、エイミーが自分の体で「爆炎正拳突き!」とはしゃぎながら、自爆同然に炎を噴かせたあの焦げた拳を思い出し、苦笑していた。
「(あいつ、気弱なクセに戦い方は俺より過激なんだからな……)」
二人は互いに「自分以外の誰か」が使うことを想定し、それぞれの世界の粋を集めた装備を完成させた。




