第26話:路地裏の誤算
『黄金の獅子亭』での豪遊を終え、千鳥足で夜道を歩くエイミー(大介体)。
大介の肉体は酒に強いとはいえ、生まれて初めての深酒に、中身のエイミーはふわふわとした高揚感に包まれていた。
「ふふふ……お肉、美味しかったなぁ。大介さんにも食べさせてあげたかったです」
そんな独り言を漏らしながら細い路地に入った時、前後の暗闇から数人の男たちが姿を現した。
いずれも目つきの鋭い、街のならず者たちだ。
「おい、そこのデカブツ。いい気分そうじゃねえか」
男たちの中心にいるリーダー格が、下卑た笑いを浮かべてナイフを弄ぶ。
彼らは酒場で、ガルガンたちに囲まれながらも「すみません」「ありがとうございます」と縮こまっていた大介の姿をずっと見ていたのだ。
「お前、『鋼鉄の牙』の腰巾着なんだろ? 運良くおこぼれを貰ったんだろうが……その金、俺たちに預けろよ」
「えっ……? あの、これ以上近づくと危ないですよ?」
エイミー(大介体)は、相手を傷つけたくない一心で、つい気弱な声を漏らしてしまう。
それが男たちには、図体ばかりデカい臆病者の泣き言にしか聞こえなかった。
「ははっ! 脅えてやがる。おい、さっさと身ぐるみを――」
一人がエイミーの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした、その瞬間だった。
「(大介さんの教え……『相手が動く前に動く!』)」
エイミーの瞳から酔いが消え、大介の肉体が反射的に沈み込んだ。
最短距離を貫く「直線」の踏み込み。
――ドォォン!!
拳を突き出すまでもない。ただのショルダータックルが男の腹部にめり込んだだけで、男は木の葉のように数メートル後方へ吹き飛び、レンガの壁に叩きつけられた。
「なっ……何をした!?」
「ですから、危ないって言ったのに……」
エイミーは溜息をつき、今度は自分から一歩踏み出した。
襲いかかってきた二人の腕を、大介の剛腕で軽々と掴み取る。
「……火よ、少しだけ熱くなって」
大介の拳がポッと赤く光り、熱を帯びる。 『爆炎正拳突き・寸止め』。
男たちの鼻先数センチで、小さな爆発を伴う拳が止まった。
「ヒッ……!? ま、魔法!? 拳が燃えて――」 「これ以上やるなら、次は当てちゃいますよ?」
大介のいかつい顔で、エイミー本来の「慈悲深い、しかし一切の妥協がない聖女の微笑み」を浮かべる。
そのギャップが生む異常な威圧感に、ならず者たちは腰を抜かし、泡を吹いて逃げ出した。
「……ふう。やっぱり大介さんの体は凄いです。私みたいな性格でも、勝手に体が動いて守ってくれるんですから」
エイミーは返り血一つない服の汚れを「クリーン」で払い、再び上機嫌でアパートへの道を歩き始めた。
寄生しているだけの弱者。そう侮った男たちが、リディア最強の「格闘魔術師」の誕生を身を以て証明してしまった夜だった。




