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第25話:王都の酒場と憧れのジョッキ


 『鋼鉄の牙』と共に「黒牙の洞窟」を最速でクリアしたエイミー(大介体)の手元には、かつてない額の報酬金が握られていた。


「(これだけあれば、滞納していた家賃を払ってもお釣りが来ます。……よし、少しだけ寄り道しちゃいましょう!)」


 エイミーが向かったのは、王都でも一際賑わう最大級の酒場『黄金の獅子亭』だった。  


そこは、腕利きの冒険者や荒くれ者たちが集まる社交場。しかし、本来のエイミー……「10代の少女で、魔法以外に力のないエルフ」の姿では、決して足を踏み入れることができない場所だった。


 リディアは根強い男尊女卑の社会だ。


女や子供が一人で酒場に入ろうものなら、冷やかしや厄介な絡みを受けるのがオチ。


ましてやエルフなら、卑猥な視線に晒されるのが関の山だった。


「(でも、今の大介さんの体なら……!)」


 ガランガラン! と勢いよく扉を開ける。  


一瞬、店内が静まり返った。入り口に立つのは、背丈ほどもある肩幅、無精髭の浮いた顎、そして数々の魔獣を屠ってきた威圧感を放つ巨漢。


「いらっしゃい、旦那! 一人かい?」  


店主が愛想よく声をかけてくる。エイミーの心臓は高鳴った。生まれて初めて、一人の「対等な客」として扱われたのだ。


「あ、はい……。一番大きな席を。それと、この店で一番強いお酒と、肉料理を全部持ってきてください!」


 大介の野太い声で注文すると、周りの冒険者たちが「景気がいいな!」と笑い、エイミーを歓迎した。


「ぷはぁっ!! ……これ、これです! これをやってみたかったんです!」


 顔ほどの大きさがある巨大な木製ジョッキを煽り、エイミーは感動に震えた。  大介の肉体は酒に強く、どれだけ飲んでも意識がはっきりしている。本来の華奢な体では、一口で顔が真っ赤になっていただろう。


「おーい大介! 隣、いいか?」

「お前、さっきの爆炎の正拳突き、マジでシビれたぜ! 一杯奢らせろ!」


 次々と屈強な男たちがエイミーの隣に座り、肩を組んでくる。  


彼らはエイミーを「守るべき弱い女」ではなく、「背中を預けられる戦友」として接していた。


「あはは! ありがとうございます! どんどん飲んでください、今日は私が奢ります!」


 エイミー(大介体)は、これまでにない解放感に浸っていた。  


男たちの下卑た笑い話や、荒っぽい乾杯の音。それら全てが、今の彼女には「自由の証」に思えた。


(……大介さん、ありがとうございます。あなたの体のおかげで、私は今日、初めてこの国の『中心』に立てた気がします)


 豪快に肉を喰らい、酒を飲み干すエイミー。  


その姿は、周囲からはどう見ても「豪放磊落な最強の格闘戦士」そのものだった。


しかし、そんな楽しい宴の最中、酒場の隅に座っていたマント姿の男たちが、鋭い視線を彼女に向けていることには気づいていなかった。

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