第20話:ギルドの激震
新宿ダンジョンからの帰還後、ギルド本部の会議室は異様な熱気に包まれていた。
机の上に置かれたのは、調査員ハルトが命懸け(精神的な意味で)で書き上げたランクアップ試験の報告書である。
「……ハルト、これは見間違いじゃないわよね?」 北川さやかが、珍しく引きつった笑みを浮かべて書類を指差す。
「はい。エイミー氏は、属性魔法をほぼ一切使用せず、自らの髪を硬化・回転させるという未知の術式のみでスカルナイトを完封しました。盾を粉砕した際の推定貫通力は、上位ランクの物理アタッカーをも凌駕します」
会議室に集まったギルド幹部たちが、どよめきに沸いた。
「全属性適正を持ちながら、あえてそれを使わないだと?」
「なんという慢心……いや、余裕だ。彼女にとって属性魔法は、出すまでもない『余興』に過ぎないというのか」
ハルトはさらに、震える声で付け加えた。
「特筆すべきは、その戦闘スタイルです。一切の無駄を排し、最短距離で急所を穿つ。あれは魔導師の動きではありません。極めて練り上げられた、実戦的な『武術』のそれです」
北川の眼鏡の奥で、計算高い瞳がかつてないほど激しく光った。
「……決まりね。彼女をこれ以上、下位ランクに留めておくのはギルドの損失だわ」
翌日。大介(エイミー体)がいつものようにギルドのロビーに姿を現すと、周囲の空気が一変した。
昨日の今日で、試験の結果が噂として広まっていたのだ。
「おい、見たか……あの銀髪の。スカルナイトを髪の毛一本でバラバラにしたらしいぜ」
「嘘だろ? 属性魔法の天才じゃなかったのかよ」
「天才どころか、化け物だろ……」
ひそひそと交わされる冒険者たちの視線を、大介は「傲慢な魔女」のロールプレイで跳ね返す。
(よしよし、いい感じにビビられてるな。これで舐められることはねえ)
カウンターへ向かうと、北川が満面の笑みで新しいギルドカードを差し出してきた。
「おめでとうございます、エイミー様。本日からあなたは『Cランク』冒険者として認定されました」
「……やっとね。これで少しはマシな仕事ができるかしら」
「ええ、もちろんです。そして――」
北川は声を潜め、一枚の豪華な封書を差し出した。
「あなたの評判を聞きつけた大手スポンサーから、秘境探索の先行投資として、前金で500万円が振り込まれております」
「……ご、ごひゃっ!?」
大介は思わず素の声を出しそうになり、慌てて咳払いをした。
「……ふん、妥当な額ね」
心臓がバクバク鳴っている。一回の試験で500万。
これでしばらく余裕ができる。
(やったぜ……! エイミーの才能と俺の効率重視の戦い方、マジで最強の金儲けじゃねえか!)
勝利を確信し、優雅にギルドを後にする大介。
だが、有名になるということは、有象無象の嫉妬や、さらに厄介な「権力の目」に晒されるということでもあった。




