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第12話:それぞれの課題


 ふわりと意識が浮き上がり、次に目を開けたとき、大介の視界に飛び込んできたのは見慣れたアパートの、シミのついた天井だった。


「……戻ったか。俺の体に」


 大介は重たい自分の体を起こし、力強く拳を握った。筋肉の重み、確かな質量。


「女装の変態になるかと思ってたけど、着ている服も入れ替わりの対象なのか」


大介は女性用下着を付けるマッチョを、見ずに済んだことを喜んでいた。


やはり自分の肉体は落ち着く。だが、心にはある種の「焦燥感」が渦巻いていた。


 脳裏に焼き付いているのは、Eランクダンジョンでの光景だ。


 確かに全系統魔法の威力は凄まじかった。


しかし、それは「魔法を使った」というより、ただ「魔力の爆弾を投げつけた」に過ぎなかった。


「……あ、やべ。やりすぎたか?」


 あの時、スケルトンと一緒に、本来持ち帰るべき高価な魔石や素材まで粉砕し、壁ごと結晶化させてしまったのだ。


 北川は「これなら更なる高火力の依頼が受けられる」と鼻息を荒くしていたが、大介は分かっていた。


このままでは、ただの「使い勝手の悪い破壊兵器」で終わってしまう。


「もっと繊細に、指先一つで火を灯すようなコントロールができないと……。エイミーのあの膨大な才能を、俺が台無しにしちまう」


 大介は一人、部屋の中で鏡に向かってイメージを膨らませた。


次の入れ替わりまでに、魔法の理論を頭に叩き込む必要がある。


 一方、リディア。


 エイミーもまた、自室のベッドで自分の華奢な手を見つめていた。


 指先から伝わってくるのは、大介の肉体で感じた「何物にも屈しない強さ」の余韻だ。


「……私、強かった。でも……」


 エイミーは、ボアを一撃で沈めた瞬間の感覚を思い出していた。


 大介の肉体は素晴らしかった。けれど、自分はその力を「振り回された」だけだ。


武術の経験がない彼女は、せっかくの強靭な肉体をどう動かせば効率的なのか、防御はどうすればいいのか、全く分からなかった。


「大介さんの体を借りているだけなのに、もし無茶をして怪我をさせてしまったら……。それに、あの力に甘えて、私自身の心が弱いままじゃダメなんだわ」 


 彼女が感じた課題は「技術」と「精神」だ。


 ただの幸運で得た力に振り回されるのではなく、大介の肉体を「武人」として正しく扱えるようになりたい。そう願わずにはいられなかった。


 地球の大介は魔導書代わりのネット情報を漁り、リディアのエイミーは町の戦士が稽古する姿を遠巻きに眺め、必死に目に焼き付ける。


 お互いがお互いの体のポテンシャルを引き出すために。


 元の体に戻った3日間、二人は休息どころか、かつてないほど真剣に「自習」に励んでいた。


 そして約束の時――再会と、二度目の入れ替わりの瞬間が迫っていた。

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