第11話:震える拳の咆哮
エイミー(戸田体)が初めて参加することになったのは、街のベテラン冒険者で構成された「銀の牙」パーティの臨時枠だった。
依頼内容は、魔境(リディアにおけるダンジョンの呼び名)の入り口付近に現れた狂暴な魔獣「アイアン・ボア」の討伐。
「おい、新人。お前の力がすげーのは聞いてるが、実戦は別だ。前衛でしっかり壁を頼むぞ」
パーティリーダーの重戦士、ガルガスが鋭い視線を向ける。
「は、はい……精一杯、頑張ります……」
エイミーは大介の逞しい体で、借り物の質素な胸当てを弄びながら返した。
「声が小さいな。本当に大丈夫か? 逃げ出すんじゃねえぞ」
「だ、大丈夫です……ご迷惑はかけませんから……」
森の奥へ進むと、草木をなぎ倒す轟音と共に、鋼鉄のような毛並みを持つ巨大な猪――アイアン・ボアが突進してきた。
その突進力は、普通の戦士なら盾ごと砕かれる破壊力だ。
「来るぞ! 構えろ!」
ガルガスの叫びが響く。エイミーの前に、圧倒的な質量の怪物が迫る。
(怖い……逃げたい……!)
エイミーの心が悲鳴を上げた瞬間、大介の肉体が、持ち主の記憶に従うように勝手に動いた。
恐怖で思考が止まるのと入れ替わりに、細胞に刻まれた「格闘家」の本能が覚醒する。
エイミーは無意識に低く構え、最短距離の踏み込みを見せた。
「……っ!」
ドゴォォォォン!!
空気を切り裂くような鋭い音が響いた。
エイミーが放った右ストレートが、突進するボアの顎を正確に打ち抜いたのだ。
巨体は不自然な角度で宙を舞い、そのまま地面に激突。白目を剥いて昏倒した。
「おお!? す、素手でボアを倒しただと……!?」
後方で魔法を構えていた仲間たちが絶句する。
「……あ」
自分の拳を見つめ、エイミーは呆然とした。
エルフの体では、木の枝一本折るのにも苦労した。それが今、森の暴君を一撃で沈めたのだ。
「……お前、とんでもねえ実力だな」
ガルガスが歩み寄り、大介の肩を力強く叩いた。
「技術は素人臭いが、その膂力は本物だ。もっと自分に自信持てよ、新人!」
「あ、ありがとうございます……恐縮です……」
褒められ慣れていないエイミーは、大きな体を縮めてぺこぺこと頭を下げた。
その姿は、周囲には「圧倒的強者の余裕ある謙遜」に見え、畏怖の念すら抱かせ始めていた。
(この感覚……。大介さんの体を通してなら、私、守られる側じゃなくて、守る側になれる……?)
初めて得た「勝利」の実感に、胸が熱くなる。
(でも……もし変な風に力が入って、誰かを傷つけちゃったらどうしよう……。やっぱり心配……)
強大な力への喜びと、それ以上に膨らむ不安。
エイミーは己の優しさを抱えたまま、この「最強の肉体」という武器をどう扱うべきか、暗中模索の第一歩を踏み出した。




