蒼き騎士の昇格と神造の槍
深夜一時半。
暖簾が勢いよく開いた。
入ってきたのは、以前から通ってくれている常連、青いドレスアーマーの魔法少女、ラピス・ナイトだ。
だが、今日の彼女はボロボロだった。
鎧にはヒビが入り、愛用の長槍「ブルー・ランサー」は、穂先が飴細工のように溶解し、ひしゃげている。
「……大将。……やりました」
彼女はフラフラとカウンターに座り、しかし瞳だけは爛々と輝かせて言った。
「……Sランク昇格試験、合格しました。……模擬戦で、S級怪獣を単独撃破したんです」
「……そいつはめでたいな。だが、代償もデカそうだ」
俺はひしゃげた槍を見た。
大和重工製の量産品だ。Bランクまでは優秀な武器だが、Sランクの超高出力な魔力には耐えきれず、自壊している。
「……はい。私の魔力に、機体がついてこれなくて。……これじゃ、Sランクになっても戦えません」
彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
俺は少し考え、スマホを取り出した。
「……ちょっと待ってろ。祝いの品と、頼れる『技術屋』を呼んでやる」
俺は電話をかけた。
『……もしもし、黒木か? こんな時間にどうした』
「佐々木。今すぐ来てくれ。……最高の『素材』と、最高の『テストパイロット』がいる。お前の設計屋としての腕が鳴る案件だ」
三十分後。
大和重工の開発部長、佐々木が作業着姿で駆けつけてきた。
俺はカウンターに、二つのものを並べた。
一つは、ハイ・エルフの顧問から貰った「世界樹の葉」。
もう一つは、揚げたての「特厚ロースカツ丼」だ。
豚肉は、五センチはある極厚のリブロース。低温でじっくり火を通し、最後に高温でカリッと揚げている。
それを、半熟トロトロのスクランブルエッグを乗せた丼飯の上にドサッと鎮座させ、特製の甘辛醤油ダレを回しかけた一品だ。
「……まずは食え。Sランクの門出だ。勝利の味を噛み締めろ」
「……はい!」
ラピスは極厚のカツにかぶりついた。
ザクッ!
衣が弾け、分厚い肉から肉汁が溢れ出す。
「……んん〜っ!! 柔らかい……! 力が湧いてきます!」
その横で、佐々木は震える手で「世界樹の葉」をルーペで観察していた。
「……おい黒木。こいつはマジか……。魔力伝導率が計測不能だぞ。自己修復機能付きの生体金属の原種……どこでこんな国宝級のモノを……」
「常連からのチップだ。……佐々木、これを使って、彼女の新しい槍を打て。量産品じゃ、もう彼女のスピードにはついていけねえ」
佐々木は顔を上げ、ラピスを見た。
「……Sランクか。おめでとう。……だが、これほどの素材を加工して、Sランクの出力に耐える設計にするには時間がかかる。……五日……いや、三日だ。三日後に、最高の槍を持ってくる」
佐々木は葉を慎重にケースにしまい、ラピスの折れた槍を「サンプル」として回収した。
「……徹夜続きになりそうだな。黒木、ビールは完成祝いまでお預けだ」
佐々木はニヤリと笑い、トラックで走り去っていった。
◇ ◇ ◇
そして、三日後の深夜。
屋台には、緊張した面持ちのラピスと、目の下に濃い隈を作りながらも、自信満々の笑みを浮かべた佐々木の姿があった。
「……待たせたな」
佐々木が、重厚なジュラルミンケースをカウンターに置いた。
ロックを解除する。プシューッという排気音と共に、ケースが開く。
そこには、透き通るような碧色の長槍が収められていた。
金属ともガラスともつかない不思議な質感。穂先には葉脈のような光のラインが走り、微かな駆動音を立てている。
試作・神造魔槍『天穿』
「……世界樹の葉を触媒に、超硬度クリスタルとオリハルコンをナノレベルで融合させた。……今のウチの工場の、いや、人類の技術の結晶だ」
佐々木が説明した。
「重量バランスは君の癖に合わせてある。魔力循環効率は従来比一五〇〇%。……君が音速を超えても、こいつは壊れない」
ラピスは震える手で、槍を手に取った。
ズシッ……とくる質量があるのに、構えると羽のように軽い。
「……すごい。……槍が、私の魔力を吸い上げて、呼吸してるみたい……」
彼女が軽く魔力を込めると、穂先がキィィンと共鳴し、店内のグラスがビリビリと振動した。
「……これなら、全力で翔べる!」
彼女は槍を抱きしめ、涙目で俺と佐々木を見た。
「ありがとうございます! 大将、佐々木部長! ……私、この槍と一緒に、もっと強くなります!」
佐々木は照れくさそうに鼻を擦った。
「……礼なら、結果で返してくれ。……君の活躍が、俺たち技術屋の勲章になるんだ」
ラピスは深く一礼し、新しい相棒と共に外へ飛び出した。
ヒュンッ!!
爆音と共に、一瞬で夜空の彼方へ消え去った。
その速度は以前とは比べ物にならず、夜空に青い流星のような軌跡を残した。
「……速えな」
佐々木が呆気にとられ、それから満足げに息を吐いた。
「……さて、黒木。約束のビールを頼む。……三日寝てないんだ。最高の祝杯にしてくれ」
「あいよ。とびきり冷えたやつがある」
俺は栓を抜いた。
ポンッ、という小気味よい音が、静かな夜に響いた。




