限界トリオの持ち込み食材と、発光!魔界かき揚げ丼
深夜二時
ズリズリズリ……
なめくじが這うような音がして、屋台の引き戸がゆっくりと開いた。
「……大将……。水……水を……。あと、カロリーを……」
現れたのは、この世の終わりのような顔をした三人組だった。
赤・青・黄の残念な信号機トリオ、「スカーレット・ボンバーズ」だ。
リーダーのスカーレットは頬がこけ、参謀のマリーンは眼鏡がズレて白目をむき、盾役のイエローは立ったまま気絶している。
「いらっしゃい。……遭難でもしてきたのか?」
俺が水を出すと、スカーレットは奪い取るように飲み干し、バン! とグラスを置いた。
「遭難!? ある意味そうね! 聞いてよ大将! 今月の魔界調査依頼、全部キャンセルされたのよ! 理由は『先月の市街地破壊の賠償金が払われていないため』だって! 信じらんない!」
「自業自得でしょ! アンタがビルをドミノ倒しにするから!」
マリーンが最後の力を振り絞ってツッコミを入れた。
「……お腹、すいた。……壁のシミが、ステーキに見える」
イエローが虚ろな目で壁を齧ろうとしたので、俺は慌てて止めた。
「で、注文は。……まさか、またツケじゃないだろうな」
俺がジト目で見ると、スカーレットはギクリと視線を逸らした。
「……そ、それはその、現金の持ち合わせはないんだけど……現物支給というか、その……」
彼女はモジモジしながら、マントの下からゴソゴソと何かを取り出し、カウンターにドスンと置いた。
それは、泥だらけで、うねうねと動く、巨大な木の根っこだった。
時折「キェェェ」という微かな悲鳴のような音が聞こえる。
「……何だそれは」
「え? 昨日倒した『マンドラゴラ・モドキ』の根っこ。……滋養強壮にいいらしいわよ? これを材料に、何か作って!」
「魔獣じゃねえか! 保健所が飛んでくるわ!」
「じゃ、じゃあこれはどう!?」
マリーンがリュックから、怪しく青白く発光する液体が入ったフラスコを取り出した。
「私が調合に失敗した『ハイパー・マナポーション(改)』! 飲むと魔力が全回復する代わりに、三日間声がオッサンになる副作用があるんだけど……隠し味にならない?」
「なるか! 毒物混入で営業停止だ!」
「……これ」
最後にイエローが無言で差し出したのは、傘の直径が三〇センチはある、毒々しい紫色の巨大キノコだった。斑点模様がゆっくりと動いている気がする。
「……魔界ダンジョンの奥で拾った。『カオス・マッシュルーム』。……たぶん、食べられる。私の鑑定がそう言ってる」
「『たぶん』で持ってくるな! 素人の鑑定なんて当てになるか!」
カオスだ。こいつ
ら、ここを魔女の実験室か何かと勘違いしてやがる。
「……はぁ。分かったよ。そのゲテモノたち、俺が預かる」
俺は覚悟を決めた。腹を空かせた客を追い返すわけにはいかない。
「ただし、何ができても文句言うなよ。あと、食った後の体調不良は自己責任だ」
俺はマンドラゴラ(仮)をタワシでゴシゴシ洗い、悲鳴を無視してささがきにした。見た目はただのゴボウだ。
紫色のキノコは薄切りにする。断面から虹色の汁が出たが、見なかったことにした。
これらをタマネギ、ニンジンと合わせて、天ぷら粉の衣に混ぜる。
高温の油に投入。
ジュワァァァァッ!!!
油の中で、根っこが暴れ、キノコが変色する。魔界の調理風景だ。
揚がった巨大なかき揚げを、丼飯の上に乗せる。
そして、天つゆだ。
俺は出汁と醤油に、マリーンの「青いポーション」を数滴垂らした。
瞬間、つゆがカッと青白く発光した。
「……よし」
俺はその発光するつゆを、かき揚げの上から回しかけた。
「へい、お待ち。『特製・魔界かき揚げ丼』だ」
ドンブリから、青白い光と、表現しがたい複雑な香りが立ち上る。見た目は完全にアウトだ。
三人はゴクリと喉を鳴らし、顔を見合わせた。
「……い、いくわよ。空腹で死ぬよりマシよ!」
スカーレットが特攻隊長として箸をつけた。
発光するかき揚げを口に運ぶ。
バリボリ、グチャ。
「……んぐっ、う……?」
彼女の動きが止まった。
「……あれ? 美味しい? 根っこはゴボウみたいだし、キノコは松茸みたいな香りがする……! つゆも、見た目はヤバいけど味は普通!」
「マジで!? じゃあ私も!」
マリーンも続いた。
「んんっ! ほんとだ! 悔しいけど力が湧いてくる気がする!」
二人がガツガツと食べ始める中、イエローは無言で丼を持ち上げ、吸引するように一気食いした。
三十秒で完食。
「……おかわり。……キノコ、もっと入れて」
気に入ったらしい。
三人はあっという間に完食した。
「ふーっ! 生き返ったわ! さすが大将、ゲテモノ料理の天才ね!」
「褒めてねえよ。……で、体調はどうだ?」
「ん? 全然平気よ? むしろ魔力がみなぎって……」
その時だった。
ボンッ!
スカーレットの赤い髪が、爆発したように巨大なアフロヘアになった。
「えっ!? 何これ!? 前が見えない!」
「うわっ、アンタ頭どうしたのよ……って、あれ?」
マリーンが自分の喉を押さえた。彼女の声が、野太いバリトンボイス(オッサンの声)に変わっていた。
「(野太い声で)嘘だろ!? ポーションの副作用が出たのか!? やだー! お嫁に行けなーい!」
そして、イエローは。
彼女の体が、蛍のようにポウッと黄色く発光し始めた。
「……私、輝いてる。……これで、夜道も安心」
「そういう問題じゃないでしょ!!」
アフロと、オッサン声と、発光体。
完全に妖怪の集団と化した三人は、パニック状態で店を飛び出した。
「(野太い声で)大将! これどうしてくれんのよ!」
「知らないわよ! 明日には治るでしょ! 行くわよ、このまま夜の街でゲリラライブよ!」
「……私、ミラーボール役やる」
騒がしい声が遠ざかっていった。
「……たく、ろくなもんじゃねえな」
俺は空になった、微かに青光りするドンブリを洗った。
未知の食材の調理は、寿命が縮む。
「さて」
俺は店の入り口に張り紙をした。
『食材の持ち込みは、鑑定済みの安全なものに限ります』
これで少しは平和になるといいんだが。




