店主の休日、ジャンクパーツ
目が覚めたのは、正午を回った頃だった。
遮光カーテンの隙間から、遠慮のない日差しが差し込んでいる。
俺は重たい体を起こし、枕元のスマホを確認した。
火曜日。定休日だ。
俺の部屋は、六畳一間のアパートだが、足の踏み場もない。
服が散らかっているわけではない。
部屋の半分を占拠しているのは、精密ドライバーのセット、半田ごて、オシロスコープ、そして山積みの「ジャンクパーツ」だ。
ラーメン屋の店主の部屋というよりは、マッドサイエンティストのラボに近い。
俺はあくびを噛み殺しながら、コーヒーを淹れた。
午後二時。
俺は作業着ではなく、ラフな私服に着替えて街に出た。
向かったのは、繁華街の裏通りにある電子部品の専門店街だ。
平日の昼間だというのに、マニアックな客たちが血眼になってパーツを漁っている。
俺もその一人だ。
「……おっ、これは」
ジャンク箱の中に、掘り出し物を見つけた。
『軍用規格・高耐熱シリコンチューブ(未使用)』
束になって無造作に放り込まれている。
「……これなら、あいつらの杖や銃の断熱処理に使えるな」
俺は迷わずカゴに入れた。
隣の棚には、『超小型冷却ファン』。これも買いだ。熱暴走するデバイスを持つ魔法少女は多い。
さらに、『形状記憶合金のワイヤー』。これは破損した装甲の応急処置に役立つ。
気けば、両手いっぱいの買い物袋を抱えていた。
食材の買い出しよりも真剣な目をしていただろう。
俺は苦笑いしながら、店を出た。
帰り道、公園のベンチで缶コーヒーを飲んだ。
平和な午後だ。
砂場では子供たちが遊び、ベンチでは学生カップルが談笑している。
その中を、制服姿の女子高生たちが通り過ぎていった。
クレープを食べながら、テストの話や、アイドルの話で盛り上がっている。
ふと、その中の一人と目が合った。
あどけない笑顔。どこにでもいる普通の少女。
だが、俺は知っている。
彼女が、巨大なハンマーを振り回し、ビルよりも大きな怪獣と殴り合っている「スマッシュ・ガール」であることを。
彼女は俺に気づかず、友達と笑いながら去っていった。
「……今は、ちゃんと子供やってるんだな」
俺は安堵した。
彼女たちが昼間にこうして笑うために、俺たち大人は夜を支えなきゃならない。
俺ができることなんて、壊れた武器を直し、温かい飯を食わせることくらいだが。
午後六時。
アパートに戻った俺は、買ってきたパーツを整理し、早めの夕食を作ることにした。
自分一人のための飯だ。
凝ったラーメンを作る気にはなれない。
俺は冷蔵庫に残っていた冷や飯と、チャーシューの切れ端、ネギ、卵を取り出した。
中華鍋を限界まで熱する。
煙が立つほど熱くなったら、ラードを溶かす。
溶き卵を投入。ジュワッ! という音と共に、卵が一瞬で膨らむ。
すかさず冷や飯を投入。
お玉の背で飯を叩き、卵をコーティングするように混ぜ合わせる。
鍋を煽る。ガコン、ガコン。
米の一粒一粒が油を纏い、パラパラになっていく。
刻んだチャーシューとネギを加える。
味付けはシンプルに、塩、胡椒、そして少量の化学調味料。
最後に、鍋肌から醤油を垂らし、焦がし醤油の香りを纏わせる。
「……よし」
完成した「黄金炒飯」。
皿に盛り、レンゲで掬って口に運ぶ。
ハフッ。
熱い。そして、香ばしい。
パラパラの米と、ふわふわの卵。チャーシューの脂の旨味。
シンプルだが、技術がなければ作れない味だ。
「……美味い」
俺は一人、呟いた。
店で出す時は、客の顔色や体調に合わせて味を調整するが、自分のためなら、自分の好きな味だけでいい。
ビールを開け、炒飯を流し込む。
最高の休日だ。
食後、俺はメンテナンス用の作業机に向かった。
買ってきたシリコンチューブを、使いやすい長さにカットする。
冷却ファンの配線を加工する。
次の営業日、誰がどんなボロを抱えてきてもいいように。
窓の外は、もう夜になっていた。
遠くでサイレンの音がする。
今もどこかで、誰かが戦っているのだろう。
「……明日は仕込みを多めにするか」
俺は伸びをして、部屋の明かりを消した。
戦士には休息が必要だ。
そして、その戦士を迎える場所を守る店主にも、また休息が必要なのだ。
静かな夜。
俺は泥のように眠った。




