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残念な三連星の反省会と、ロシアンたこ焼き


 深夜一時。

 平穏な夜をぶち壊すように、暖簾の外からギャーギャーと騒がしい声が聞こえてきた。


「だーかーら! あそこで私が『紅蓮のイグニッション・バースト』を撃てば終わってたのよ! なんで止めるのよ、この貧乏性!」

「ハァ? 市街地で戦略級魔法ぶっ放すバカがどこにいるのよ! 賠償金で私たちの事務所、もう三回くらい破産してんのよ!? 計算できんのアンタ!?」

「……お腹すいた。私、タコ食べたい。タコ」


 ドタドタドタッ!


 雪崩れ込んできたのは、信号機のように色の違う三人組の魔法少女だった。

 

 真ん中には、深紅のマントを無駄にバサつかせた、自称リーダーの「スカーレット・エース」。

 右には、電卓を片手に青い顔をしている、参謀役の「アクア・マリーン」。

 左には、重厚な黄色い鎧を着込み、虚ろな目で宙を見つめる盾役の「イエロー・ウォール」。

 この界隈でも有名な、「実力はあるのに被害総額の方がデカい」トラブルメーカートリオだ。


「大将! たこ焼き! 山盛りで! あと一番安い飲み物!」


 スカーレットがカウンターにドンと座り、ふんぞり返った。


「はいはい、いらっしゃい。……また派手にやらかしたみたいだな」

「聞いてよ大将! この青いのがさぁ、私の華麗なフィニッシュブローを『電気代の無駄』とか言ってキャンセルしたのよ! 信じらんない!」

「無駄だから止めたのよ! アンタの杖、一発撃つたびに魔力カートリッジ(一万円)を五本消費すんのよ!? 今日の報酬料、五万円よ!?」

「……タコ。タコ焼いて。早くしないと、この箸でカウンターに穴開ける」

 カオスだ。

 俺はため息をつきつつ、鉄板に油を引いた。

 小麦粉を出汁で溶いた生地を流し込み、大きめに切ったタコを放り込む。天かす、紅生姜、ネギを散らす。


 ジュワワワ〜ッ


 いい音が響く。


「……フフン。いい音ね。まるで敵のアジトが燃え落ちる音みたい」

「病んでるわね……。あーあ、今月の家賃どうしよ。イエローの鎧を質に入れるしか……」

「……(無言で鉄板を凝視し、ヨダレを垂らしている)」


 俺は千枚通し(ピック)で器用にたこ焼きを回転させた。


 クルッ、クルッ


 外はカリッと、中はトロッと。まん丸に焼き上げていく。

 ソースをたっぷり塗り、マヨネーズをビームのように発射。青のりと鰹節を躍らせる。


「へい、大盛りたこ焼きだ。……熱いから気をつけて食えよ」


 俺は二〇個入りの巨大な皿をドンと置いた。


「わぁ〜お! デリシャス&ゴージャス!」


 スカーレットが目を輝かせ、躊躇なく一つを口に放り込んだ。

 当然、中はマグマのような熱さだ。


「ふぐっ!? はふっ! ほふぉおおお!!」


 彼女は口から火を吹きそうな勢いで悶絶した。


「あ、熱っ! なんでこんな熱いのよ! 私への挑戦!? 受けて立つわよ!」

「バカじゃないの。冷まして食いなさいよ」


 マリーンは冷めた目で言いながら、たこ焼きを半分に割り、フーフーと慎重に冷ましてから口に運んだ。


「……ん。美味しい。……原価率安そうだけど、ソースの味で誤魔化されてる感じが悪くないわ」

「褒めてんのか喧嘩売ってんのかどっちだ」


 その横で、イエローが無言のまま、熱々のたこ焼きを五個まとめて口に吸い込んだ。


「……!?」


 咀嚼音もしない。丸呑みだ。


「……おい。味わえよ。喉火傷するぞ」

「……タコが、胃の中で暴れてる。」


 イエローが恍惚の表情を浮かべた。

 ダメだこいつら。まともな奴が一人もいねえ。

 スカーレットが涙目で水を飲み干し、不敵な笑みを浮かべた。


「……フッ。ただ食べるだけじゃ面白くないわね。大将、ここに『ワサビ』はある?」

「あるけど……何する気だ?」

「ロシアンたこ焼きよ! この中に一つだけ、激辛ワサビ入りを混ぜて頂戴! 当たった人が今日の代金を全額奢り! どう!?」

「なんで金ないに博打すんのよアンタは!」


 マリーンがキレたが、スカーレットは聞かない。


「大将! やって!」


 俺は呆れつつも、客の要望に応えることにした。

 追加のたこ焼きを焼く際、一つだけ、タコの代わりにチューブのワサビを親の仇のように注入した。

 外見からは全く分からない。完璧な偽装工作だ。


「へい、ロシアン・ルーレットだ」


 俺は皿に追加の四個を置いた。


「一個だけ大当たりだ。……俺は知らんぞ」

「望むところよ! 私の『直感』を舐めないで!」


 スカーレットが自信満々に手を伸ばし、一個掴んだ。


「これよ! この焦げ目が勝利の予感!」


 パクリ

 モグモグ……


「……ん! セーフ! 美味しい!」


 彼女はガッツポーズをした。


「次は私ね……。確率的には三三%……。一番端のこれは、焼きムラが怪しいわ……」


 マリーンが計算高く選んだ。

 パクリ。


「……セーフ。ふぅ、寿命が縮むわ」


 残るは二個。確率は五〇%。

 イエローが、残った二個をじっと見つめている。


「……イエロー。片方食べて。残った方が私の奢りになるわ」


 スカーレットが促すと、イエローはゆっくりと手を伸ばし――。


 ヒョイ、パクッ


 二個同時に口に入れた。


「「あーーーっ!!??」」


 二人が叫んだ。


「バカ! 何してんのよ! それじゃどっちが当たりか分かんないじゃん!」


 イエローはモグモグと咀嚼し、そして――。

 カッ! と目を見開いた。


「……!!!」


 彼女の顔色が、黄色から真っ赤へ、そして土気色へと変化していく。

 鼻からツーンとした刺激臭が漏れる。


「……ぐ、ぅ……ぉぉぉ……」


 それでも彼女は、恍惚とした表情で親指を立てた。

「……キタ。……脳髄に、来る」

「バカかお前は!!」

 結局、奢りの判定は有耶無耶になった。

 三人はギャーギャーと言い争いながら、最後の一粒まで綺麗に平らげた。


「ふー、食った食った! 大将、ツケで頼むわ!」

「ダメだ。皿洗いしていけ」

「ちぇっ、ケチ! マリーン、払っといて!」

「はぁ!? なんで私が! ……もういいわよ、領収書ください。『(株)スカーレット・ボンバーズ』で」


 マリーンが泣きながら小銭をかき集めて支払った。

 三人は嵐のように去っていった。


「また来るわよ! 次は激辛ハバネロで勝負よ!」

「二度と来ないわよ! ……でも、美味しかったわ!」

「……タコ、バイバイ」


 静寂が戻った店内。

 俺は空になった皿を洗った。

 ソースと青のり、そして微かなワサビの香り。


「……たく、やかましい連中だ」


 だが、俺は自然と笑っていた。

 シリアスな任務もいいが、たまにはああいうバカバカしい夜があってもいい。

 あいつらの装備、よく見たらボロボロだったが、メンテナンスしてやる隙もなかったな。


「さて」


 俺はワサビのチューブを冷蔵庫に戻した。


 次は、カラシ入りのシュークリームでも用意しておくか。


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