青きエースの二冠と、深夜の飲茶スイーツバイキング
深夜一時。
ラジオが興奮気味にニュースを伝えていた。
『――先月の怪獣討伐数ランキング、第一位はまたしても「ラピス・ナイト」選手! これで二ヶ月連続の月間MVPです! まさに飛ぶ鳥を落とす勢い!』
俺がラジオのスイッチを切ると同時に、暖簾が勢いよく開いた。
「大将! 聞きました!? やりましたよ私!」
飛び込んできたのは、あの青いドレスアーマーの少女、ラピスだった。
以前のような泥だらけの姿ではない。手入れの行き届いた輝く鎧、自信に満ちた笑顔。
彼女はカウンターに「MVP」と刻印された金色のバッジを二つ、誇らしげに並べた。
「約束通り、二連覇です! ……というわけで、今日は『ご褒美』もらいに来ました!」
「いらっしゃい。……随分と頑張ったな。で、注文は?」
彼女はニカっと笑い、メニューにはないオーダーを口にした。
「甘いもの! それも、お腹いっぱい! 今日はカロリー計算なんて忘れて、甘い海に溺れたい気分なんです!」
甘いもの。
俺はニヤリと笑った。
実はこの店、一応はラーメン屋を名乗っているが、俺の趣味でデザートの仕込みには異常に力を入れている。だが、普段は「ラーメン屋でスイーツ?」と敬遠されて注文が出ないのだ。
「……いい度胸だ。とっておきのコースでいくぞ」
俺は冷蔵庫と、点心用の蒸籠、そして中華鍋を同時に稼働させた。
まずは冷菜。
冷蔵庫から、鮮やかなオレンジ色のプリンを取り出す。
「一品目、完熟マンゴープリンだ」
果肉をこれでもかと使い、生クリームをたっぷり乗せた濃厚な一品。
ラピスは目を輝かせてスプーンを入れた。
「ん〜っ! 濃い! マンゴーそのものより美味しい!」
次は揚げ物。
低温の油に、白ゴマをまぶした団子を投入する。
じっくりと揚げると、団子がプク〜ッと倍の大きさに膨らむ。
同時に、春巻きの皮でカスタード餡を包んだものも揚げる。
「二品目、揚げたて胡麻団子。三品目、カスタード春巻きだ」
熱々の胡麻団子を頬張る。
カリッ、モチッ、トロッ。
香ばしい胡麻の風味と、中の熱い黒胡麻餡が口の中で弾ける。
「はふはふっ! 熱っ、でも美味しい! 皮がパリパリ!」
さらに蒸し物。
湯気が上がる蒸籠を開けると、甘い香りが漂う。
中には、ふわふわの黄色いカステラのようなものと、桃の形をした饅頭。
「四品目、中華風蒸しパン『マーライコウ』。五品目、カスタード入りの『桃饅頭』だ」
黒糖の優しい甘さが広がる蒸しパン。しっとりとしていて、いくらでも食べられそうだ。
カウンターには、あっという間に色とりどりのスイーツが並んだ。
まさに「深夜のスイーツバイキング」状態だ。
ラピスは幸せそうに頬を緩め、次々と甘味を攻略していく。
「幸せ……戦ってよかった……生きててよかった……」
彼女はうっとりと呟きながら、桃饅頭を割った。中から黄金色の黄身餡がとろりと溢れる。
俺はその様子を見ながら、彼女がカウンターに置いた二つのMVPバッジに目をやった。
純金メッキの立派なバッジだが、裏側のピンが少し曲がっている。
「……おい。そのバッジ、裏を見せてみろ」
彼女は口の周りにカスタードをつけたままキョトンとした。
「え? バッジですか?」
俺はバッジを手に取り、裏面の留め具を確認した。
「……やっぱりな。激しい動きに耐えきれず、ピンの軸が歪んでる。このままだと、戦闘中に脱落して紛失するぞ」
彼女は青ざめた。
「ええっ!? やだ! これ、私の勲章なのに!」
「貸してみろ。……デザート食ってる間に補強してやる」
俺は工具箱から、高強度のチタン製ピンと、強力な接着剤を取り出した。
歪んだ真鍮のピンをニッパーで切り飛ばし、代わりにチタンピンを埋め込む。
さらに、留め具を、外れにくいスクリューロック式に交換した。
「本来は観賞用だから作りが甘いんだよ。……現場でつけて自慢したいなら、これくらい頑丈じゃないとな」
俺は二つのバッジを改造し、研磨剤で表面の傷も磨き上げた。
ピッカピカに輝く二つの星。
「……ほらよ。これでどんなに暴れても落ちねえ」
完食したラピスは、バッジを受け取り、胸元につけ直した。
カチッ、と小気味よい音でロックされる。
「……ありがとうございます! これで明日も堂々と自慢できます!」
彼女は満足げに膨れたお腹をさすった。
「はぁ〜、食べた食べた。……大将、スイーツの腕も超一流ですね」
「昔、取引先の接待で『スイーツにうるさい重役』を落とすために研究したんだよ」
俺は苦笑いした。
彼女は財布からお代を出し、少し真面目な顔になった。
「大将。……来月も、またここに来ていいですか? 三つ目のバッジを持って」
「おう。今度は杏仁豆腐のタワーでも作って待っててやる」
「やった! 約束ですよ!」
彼女は輝くバッジを胸に、軽やかに店を出て行った。
その背中は、甘いものをたっぷり補給して、さらなる高みへと飛ぶためのエネルギーに満ちていた。
「……三連覇か」
俺は空になったいくつもの皿や蒸籠を洗った。
甘い香りが残る店内。
戦士には休息と、甘いご褒美が必要だ。
次の新作デザートも考えておかなきゃな。
俺は冷蔵庫のタピオカの在庫を確認した。




