相思相愛のバディと、プリプリ海老ワンタン麺
深夜二時。
屋台のラジオが、明日の晴天を予報していた。
穏やかな夜だ。
そんな静寂を破るように、楽しげな話し声が近づいてきた。
「ねえ、さっきの私の連携、すごくなかった?」
『いやいや、ボクのサポートがあってこそだろ? タイミング完璧だったじゃん!』
暖簾をくぐってきたのは、狩人のような深緑色の衣装を纏った少女だった。
ショートカットで、活動的な印象。
そして、その肩には――言葉を喋る、フェレットのような姿をした毛皮の妖精が乗っていた。
普通、妖精は姿を消しているか、安全圏から指示を出すだけの存在だ。こうして前線に一緒に出てくるのは珍しい。
「いらっしゃい。……ペット同伴はお断りだと言いたいところだが」
俺が言うと、肩の妖精が身を乗り出した。
『失敬な! ボクはペットじゃないぞ! 彼女の頼れるパートナー、名参謀のチップ様だ!』
「そ。チップは私の相棒なの。……おじさん、二人で食べられるもの、ある?」
少女はニコニコしながらカウンターに座った。
妖精のチップも、器用にカウンターへ降り立ち、おしぼりで自分の手を拭いている。
「……分け合うのか?」
「うん。私たち、感覚共有してるから、美味しいものも半分こした方が二倍美味しいの!」
仲の良いことだ。
俺は冷蔵庫から、仕込んでおいたワンタンのタネと、剥き海老を取り出した。
豚ひき肉に、刻んだネギ、生姜、そして大ぶりの海老を丸ごと一尾包み込む。
皮は薄めの特注品。
熱湯でサッと茹でる。皮が透き通り、中の海老がほんのり赤く染まる。
鶏ガラと魚介のダブルスープに、細麺を泳がせ、茹で上がったワンタンを五つ、どっさりと乗せる。
青梗菜を添えて完成だ。
「特製・海老ワンタン麺だ。取り皿も使うか?」
「ううん、このままでいい!」
少女はレンゲを手に取り、まずはスープを一口飲んだ。
「ん〜っ! 染みるぅ!」
そして、ワンタンを一つすくい上げ、フーフーと息を吹きかけて冷ますと、それを自分の口ではなく、カウンターの妖精に差し出した。
「ほら、チップ。熱いから気をつけて」
『おっ、サンキュー! ……はぐっ』
妖精は小さな両手でワンタンを抱え、齧り付いた。
『……うめぇ! 海老がプリップリだ! 皮もトゥルントゥルンで……最高!』
妖精が咀嚼すると同時に、少女も「ん〜!」と声を上げて頬を緩めた。
「ほんとだ! 海老の甘みがすごいね!」
感覚共有しているせいで、妖精が食べた味が少女にも伝わっているらしい。
次は少女が麺を啜る。
「ズルルッ……うん、麺もコシがあって美味しい!」
『おおっ、スープが絡んで喉越しがいいな!』
二人は交互に、あるいは同時に味を共有し、一つのドンブリを綺麗に平らげていった。
その光景は、見ていて呆れるほど息がぴったりだった。
俺は二人が食べている間、少女の左肩にあるショルダーアーマー(肩当て)に目を留めた。
妖精がいつも乗っている場所なのだろう。塗装が剥げ、細かい傷が無数についている。
だが、気になったのはそこじゃない。
「……おい、お嬢ちゃん」
「ん? なに?」
「その肩当て。……ちょっとバランスが悪くないか?」
俺はカウンター越しに手を伸ばし、アーマーの留め具を指差した。
「妖精が乗る分、左側だけ重くなってる。戦ってる最中、左に傾いて狙いがブレてねえか?」
少女はハッとした。
「あ……言われてみれば。最近、長距離射撃の時に、どうしても左肩が下がっちゃって……」
『ボクが太ったわけじゃないぞ!?』
俺は工具箱から、ウェイトバランサー(重り)と、滑り止め用のラバーシートを取り出した。
「飯食ってる間に調整してやる。……相棒を乗せるなら、専用の『座席』が必要だろ」
俺はアーマーの右側――妖精が乗らない方――の内部に、カウンターウェイトを埋め込んだ。
これで左右の重量バランスが均一になる。
さらに、左肩の表面に、グリップ力の高いラバーシートを貼り付け、小さな突起を増設した。
「これで妖精も爪を立てずに踏ん張れるし、お前の肩も傷つかねえ」
作業を終えて返すと、妖精のチップが早速飛び乗った。
『おおっ! なんだこれ、すげえ安定感! ビジネスクラス並みの乗り心地だぞ!』
少女も肩を回してみた。
「……軽い! チップが乗ってるのに、重さを感じない!」
重心が体の中心に来たことで、体感重量が消えたのだ。
「これなら、どんなアクロバットな動きをしても振り落とされないよ!」
『よーし、次は空中で一回転撃ちでもキメてやるか!』
二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
通常、魔法少女と妖精の関係は「主従」か「搾取」だ。
だが、この二人の間にある魔力パス(回路)は、どちらか一方通行ではなく、綺麗な円環を描いて循環していた。
相互依存ではなく、相互扶助。理想的な関係だ。
少女は代金を払い、元気よく立ち上がった。
「ありがとう、おじさん! また二人で来るね!」
『ごちそうさん! 海老、また頼むぜ!』
二人は夜風の中に飛び出していった。
少女の肩にしっかりと掴まる妖精の姿は、まるで体の一部のように馴染んでいた。
「……相棒、か」
俺は空になったドンブリを洗った。
薄い皮に包まれた中身。
一人じゃ頼りない皮も具も、合わされば美味い料理になる。
「さて」
俺はラジオのボリュームを少し上げた。
明日は晴れ。
あの二人なら、どんな嵐の中でも笑って駆け抜けていくだろうさ。




