残念系魔法少女の必殺技(笑)と、激辛ロシアンたこ焼き
深夜一時。
俺は暇を持て余し、寸胴鍋を磨きながら「魔法少女業界の裏事情」という怪しいムック本を読んでいた。
平和だ。怪獣も出なけりゃ、腹を空かせた客も来ない。
たまにはこんな静かな夜も――。
ドォォォォンッ!!!!!
突然、屋台の裏手で爆発音がした。続いて、何かが転がる音と、女性の悲鳴。
「あだだだだッ! 着地失敗!? なんでここに空き缶が落ちてんのよぉぉぉ!」
……前言撤回。どうやら今夜の客は、入口から入る常識すら持ち合わせていないらしい。
暖簾が勢いよくめくられ、泥だらけの少女が転がり込んできた。
星柄のパジャマ……いや、魔法少女のコスチュームだ。頭には斜めになったパーティーハットのような帽子。手には、おもちゃ屋で売っていそうなプラスチック製のステッキ。
「……いらっしゃい。入口はあっちだぞ」
俺が冷静に指摘すると、彼女は鼻血を拭いながら立ち上がった。
「知ってますよぉ! ただちょっと、重力制御の計算を間違えて、看板に激突して、ゴミ箱にダイブしただけですぅ!」
だけ、じゃないだろう。
彼女はカウンター席によじ登ると、涙目で訴えた。
「店主さん! 私を慰めてください! もう立ち直れません!」
彼女の名前は「ミラクル・ラッキー・スター(自称)」
本名は田中
その名の通り「幸運」を司る魔法少女らしいのだが、どう見ても歩く不幸製造機だ。
「……何があった」
「聞いてくださいよぉ! 今日の怪獣戦、私の必殺技『スターダスト・レボリューション・キック』をキメようとしたら、足元のマンホールで滑って、怪獣の目の前で一回転半ひねりの大の字ジャンプですよ!」
田中はバンバンとカウンターを叩いた。
「そしたら怪獣のやつ、攻撃するの忘れて指差して笑ったんですよ!? しかもその様子が全国ネットで生中継! 『今週の面白映像ベスト10』入り確定ですぅぅぅ!」
それは……かける言葉が見つからない。魔法少女としての尊厳に関わる事案だ。
「……で、注文は」
「粉もん! それも、遊び心があるやつ! 私の傷ついたラッキーを回復させるような!」
面倒くさいオーダーだ。
俺は少し考え、冷蔵庫からタコと、赤い瓶を取り出した。
「なら、こいつだ。ロシアンたこ焼き」
鉄板に生地を流し込み、タコを入れる。ここまでは普通だ。
だが、俺は一箇所だけ、タコの代わりに「デス・ソース漬けのハバネロの塊」を投入した。
クルクルと手際よくひっくり返し、ソースとマヨネーズ、青のりをかける。見た目は完全に普通のたこ焼きが六個。
「一つだけ大当たりが入ってる。お前の『ラッキー』とやらで、当ててみな」
ドンッ、と皿を置く。
田中は目を輝かせた。
「えっ、マジですか!? そういうの大好き! 私、こういう勝負強いんですよぉ! なんたってラッキースターですからね!」
彼女は自信満々に楊枝を手に取った。
「じゃあ、いただきまーす! まずはコイツ!」
パクッ。
「……ん! セーフ! 熱々でおいしー!」
一つ目は普通のたこ焼きだった。
「ほらね! じゃあ次! これだ!」
パクッ。
「……うん! これもセーフ! 余裕すぎません?」
二つ目もクリア。
彼女は調子に乗って次々と口に運ぶ。三つ目、四つ目、五つ目。
全てセーフ。
皿には最後の一個が残された。
俺は内心首を傾げた。(おかしいな。確かにハバネロを入れたはずだが……混ぜた時に場所を見失ったか?)
「えー、店主さん、本当に入れたんですかぁ? 私、強運すぎて避けちゃいました?」
田中はニヤニヤしながら、最後の一個をつまみ上げた。
「まあいいや! これでパーフェクト達成! 私の勝ちですね!」
彼女は勝利を確信し、それを一口で頬張った。
モグモグ……ゴクン。
「……はい、完食! やっぱり私って持ってる――」
その時だった。
田中の顔色が、赤から青、そして土気色へと急速に変化した。
「……ん? あれ? なんか……胃の奥が……熱い?」
ブワワワッ! と彼女の毛穴から汗が吹き出す。
「ちょ、待っ……え、えええええ!? 辛っ! 痛っ! 火事!? 口の中が火事なんですけどぉぉぉぉ!?」
彼女は椅子から転げ落ち、地面をのたうち回り始めた。
「み、水! 水ください! あと救急車! いや消防車ぁぁぁ!」
俺は慌ててジョッキに水を注ぎ、彼女に渡した。
彼女はそれを一気に飲み干し、ゼェゼェと荒い息をついた。
「……し、死ぬかと思った……」
「……お前、全部食ってから反応したな」
俺が冷静に指摘すると、彼女は涙目で答えた。
「そ、そうなんですよぉ……私、固有魔法が『不幸の先送り(ツケ払い)』で……。嫌なこととかダメージを、ちょっとだけ後に回せるんです……」
「……つまり、お前はラッキーなんじゃなくて、アンラッキーを溜め込んでただけか」
「そういうことになりますね! テヘペロ☆」
彼女は星型のステッキを振った。先端のLEDが寂しく点滅した。
……なるほど。今日のマンホールでの転倒も、それまでの小さな不運が蓄積して爆発した結果というわけか。
俺はため息をつき、彼女のステッキを見た。
「おい、その杖。バ◯ダイの『魔法のステッキDX』だろ。対象年齢三歳以上って書いてあるぞ」
「えっ、バレました!? だって本物の魔導杖って高いじゃないですかぁ! これでも雰囲気は出るし!」
彼女はステッキのボタンを押した。ピロリロリーン♪という安っぽい電子音が鳴り響いた。
「これで怪獣に勝てるわけねえだろ……」
俺は厨房の奥から、強力な業務用磁石を取り出した。
「ちょっと貸せ」
「えっ、何するんですか!? 私の商売道具!」
「改造だ。その安っぽいプラスチックの中身をくり抜いて、このネオジム磁石を仕込む」
俺はドライバーでステッキを分解し始めた。
「これなら砂鉄くらいは吸い寄せられる。目潰しくらいにはなるだろ」
「えぇぇぇ!? 物理攻撃!? 魔法は!? 私のキラキラ要素はぁぁぁ!?」
田中の悲鳴が、深夜の屋台に虚しく響き渡った。
……やれやれ。
俺は黙々と作業を続けた。
世界を救う魔法少女も、色々と大変らしい。
まあ、笑いの神には愛されているようだから、なんとかなるだろう。たぶん。




