「愛⭐︎飛翔 Flying of Love」
このおーぞらを♪
あの歌を聴いて望んだヤツはいるだろ?
軽い気持ちだよ。
〝あ〜、そんな事が出来ればいいな〜。〟
それくらい軽くね。
でも実際に願いが叶ったらどんなに困るかわかってないだろ?
「翼をください」
俺は神様に翼をもらった。
自宅でよかった。
ラジオからあの曲が流れてきたんだ。
(あ〜、空を翔べたらな〜。)
その時声が聞こえた。
「おまえの願いを叶えよう!」
皆んな勘違いしてると思うんだけど、人の身体に実用的な翼が付くとしたら…、
ソコは背中じゃない!
だってそうだろ、背中についた所で動かす筋肉が無いじゃないか!
腕が翼になっていた!
うん、白い翼。
しかもそーとーデカい。
身長170cm、体重65kgの成人男性の身体を飛翔させるには確かにコレぐらいの翼は要るよね。
腕を、いや翼を下に降ろせば先っぽの風切り羽が完全に地面を引きづる。幅も結構あるぞ!70cmくらい!でもバサッと振ってみると結構軽い。翔べそうな気がする。
そしてズボンを突き破って尾羽が生えていた!
鳥の図鑑で読んだ事がある。コレがないと飛んでいる時に舵を切ったりブレーキかけたりバランスとったり出来ないのだ。
試しにお尻の穴に力を入れてみると尾羽はピョコンと立ち上がった。
益々飛べそうな予感。
〝パタパタ〟
部屋のドアがパタパタ鳴った。
「翔ちゃん…。」
「あっ、な、何…?」
妻の雛子の声だ。
「私、鳥になっちゃった…。」
「えっ?」
驚いてドアを開けようとして気づいた。ドアノブを握る手がない!
ドアノブがレバー式でよかったが、さぁコレは困ったぞ、なんて思いながら開いたドアの向こうにやはり手が翼になった妻。
「翔ちゃん…!」
「雛、何、その翼!」
妻の翼は、何だ? パタパタしてるぞ!
「翔ちゃん凄いね!飛べそうだね! 私の見て、コレじゃあ飛べないよね…。」
おぉ神よ…、ペンギンの翼だ!
コレはコレで可愛いくはあるが、どうだろう、飛べない翼って…。
で、その時。
〝ピンポーン〟
玄関チャイムが鳴った。
ドアホンのモニターを見ると制服の警察官がゾロゾロと玄関前に集合している。
「ヤバいぞ、雛、警察だ!」
「え、え? もうバレちゃったの?」
そう、俺たちはお尋ね者だ。昨夜コンビニ強盗したのがもうバレたらしい。
「ベランダから飛ぶぞ!」
「えー、私飛べないもん!」
「あーしょうがねぇな、俺に掴まれ!」
一人なら楽勝で飛べるはずだったが、どうだろう、雛を背負って飛べるのか、俺? 此処はマンションの12階!
「エェイ、ままよ!」
「キャーーーー!」
一瞬落ちるかと思ったが、バッサバッサと羽ばたくうちに身体が浮き始めた。
「翔ちゃん、凄い、飛べるんだねー!」
「おーさ、俺は飛べるんだよ!」
下を見ると何台ものパトカーと野次馬が集まっていて上空の俺たちを指差して大騒ぎしていた。いい気味だ。
「翔ちゃん…、ちょっと寒いね。」
急に踏み込まれたから二人ともスウェットに半袖tシャツだった。クリスマスイブの夜にはちょっと薄着すぎた。
「翔ちゃん…、」
「何だ、雛?」
「私、南の島に行きたい…。」
「南の島かぁ、そうだな、暖かい方がいいよな。…雛?」
どうやら俺の背中で寝ちまったらしい。
俺たちは南へ向かって夜通しイブの夜空を飛び続けた。偏西風に乗って気流は上々。南天に輝くオリオンを目指して。
夜が白み出した頃、俺たちは小さな無人島を見つけて降り立った。
「翔ちゃん! ココは楽園だね!暖かいし!」
「そうだな、雛。俺たち此処からやり直すぞ!」
「翔ちゃん…、お腹すいたね。」
「うっ…………。」
じっと手を見る、いや、翼を見る。
「だ、大丈夫だよ、翔ちゃん。私、多分泳ぐの上手いと思うからお魚獲ってくるよ!」
そう言うと雛はザブンと海に飛び込んでスイスイと凄いスピードで泳いで行ったと思ったら、デカい魚をジャンジャン獲って俺の前に魚の山を積み上げた。流石ペンギンの雛!
「さ、食べよ!」
「雛…、どうやって食べるんだよ?」
「あっ…………。」
俺たち二人とも、じっと翼を見て固まっていた。
此処は楽園ではなく牢獄だった。
神様がくれた翼は〝自由の象徴〟ではなく〝囚人を繋ぐ足枷〟だったのだ。
おわり




