ep6.玉座なき魔王編 アザートス討伐準備(3)
次元跳躍を経て降り立った『和の国』は、いつになく華やかな空気に包まれていた。
カエデの家を訪ねた創夜たちは、玄関先で思わず足を止める。そこにいたのは、いつもの袴姿ではなく、艶やかな振袖に身を包み、薄く化粧を施したカエデだった。
「よお、創夜! ……なんだ、その鳩が豆鉄砲食らったような顔は」
「いや、カエデか? なにかあったのか、その格好」
創夜が尋ねると、カエデは男勝りに笑って胸を張った。
「なんだ、忘れたのか! 今日は正月だ。これから七福神を祀る神社にお参りに行くところよ。あんたたちも行くんだろ?」
「正月……ああ、そうか。こっちの暦でもそうだったな」
日本からの転生者である創夜には馴染み深い響きだが、ミリィたちは首を傾げている。
「ショウガツ? 創夜、それは美味しいものアルか?」
「いや、神様に新年の挨拶をする行事だよ。よし、せっかくだ。みんなで行こう」
創夜の提案に、セリアが困ったように自分の旅装を見た。
「でも、こんな格好じゃ浮いてしまうわね……」
「皆、着物に着替えよう!」
創夜が念じると、彼の防具がシックな黒い紋付き袴へと変化した。それを見た女性陣も、それぞれの個性に合わせた華やかな着物へと防具を変形させていく。
「相変わらず黒いのね」
一行は、雪の残る参道を歩き、七福神の神社へと向かった。
「この『お賽銭』というのは、神様への賄賂かしら?」
「違うぞセリア。感謝の気持ちだ」
「創夜、この赤い魚(鯛)の形をしたおみくじ、可愛いアル!」
初めての文化に目を輝かせる仲間たち。創夜はそんな賑やかな光景を眺めながら、束の間の平和を噛み締めていた。
参拝の帰り道、創夜はカエデと、水の意思を継ぐ奏雅を呼び止めた。
「二人に渡したいものがあるんだ。これを持っていてくれ」
差し出したのは、二つの美しいバングル。
「これは次元を超えて通信ができるリングだ。アイテムボックスも付いている。アザートス討伐には、お前たちの力が必要なんだ」
「……わかった。創夜がそこまで言うなら、二つ返事で引き受けるぜ!」
カエデが力強く頷く。続けて創夜は、フィーリアが作成した特殊な通信装置を託した。
「正月早々悪いんだが、和の国総出で協力してほしい。この装置を12の国々に設置して回ってくれ。アザートスを倒すために必要なのは、人々の『プラスの思い出』と『希望』なんだ」
「任せろ!奏雅もわかったよな!」
奏雅も微笑み、リングを腕に装着した。
「ああ。」
その日の夜。創夜たちはカエデの家に泊まることになった。
「カエデ、温泉借りるぞ!」
創夜は脱衣所へ向かった。ふと、脱衣所に誰かの荷物があることに気づく。
「……? フィーリアの荷物か。まあ、あいつはロボットだしな、大丈夫だろう。」
創夜は特に気にせず、タオル一枚で湯船へと向かった。湯気に煙る温泉に浸かろうとした、その時。
「あら、創夜。奇遇ですね」
湯船の中にいたのは、防具を「素肌」の状態にまで透過・変形させたフィーリアだった。
「……っ!? お、お前、何やってんだフィーリア!」
「何って、入浴よ!」
悪びれもせず、完璧な美貌で立ち上がるフィーリア。
「いやいやいや、今までのライダースーツはどうしたんだ!?」
創夜が慌てて顔を背けた瞬間、バタンと扉が開いた。
「ちょっと創夜! フィーリアを誘って混浴なんて、隅に置けないわね!」
「私たちも混ぜるアル!」
「……創夜、やっぱり男の子ね」
セリア、リン、ミリィたちが一斉になだれ込み、顔を真っ赤にする創夜をからかい始めた。和の国の夜は、アザートス戦前の緊張感を忘れさせるほどに賑やかに更けていった。
それから七日間、創夜たちは和の国で正月を満喫した。
最終日の朝。創夜たちは無病息災を願う「七草粥」を全員で食べた。
「……よし、パワー充電完了だ」
七草の優しい味が身体に染み渡る。
「カエデ、奏雅。準備ができたら呼ぶ。それまで、この国を頼むぞ」
「おう! いつでも来い!」
アストラル・ブレイカーが再び浮上する。七日間の温かな思い出を胸に、創夜一行は次なる目的地、勇者たちが修行へ旅立った後の『精霊の国』へと、次元の壁を突き抜けて飛翔した。




