ep7.星間を繋ぐ門編 星見の塔
アストラルブレーカーのコックピッドで創夜が暗い石を手に取り再確認していると、創夜の意識に、激しい情報の奔流が流れ込んできた。
(——お前は、鍵を手に入れた。私は時を見守りし者、ヨグ=ソトースら全ての時空の通り道——まずは、ヨグ=ソートスを固定した次元に閉じ込め封印するのです。各次元へ開かれた玉座なき魔王の生成する魔物のゲートを閉じなければどの次元も滅ぶでしょう。玉座なき魔王を外に出してはいけません)
創夜は頭を抱え、その場に膝をついた。みんなが慌てて駆け寄るが、創夜の周囲に展開した不可視の波動が、皆を押し留める。
意識の中で、宇宙の果ての、無限の次元の狭間に存在する、巨大な影が見えた。その影は、全ての時空、全ての存在を、無意識のうちに夢見ている。
(——お前の追うべきは。宇宙の根源にして、真の混沌、玉座なき魔王。お前の世界を、そして全ての多元宇宙を、無意識に破壊し続ける夢そのものだ。私を倒したお前は、その夢に辿り着く異物として、道を示されるだろう——)
「ヨグを封印すると、ゲートは閉じるけど玉座なき魔王が現れるみたいね。ただ、ヨグを封印しないと黒いモヤが次元を支配するってことね」
創夜は、手に持っていた湯気の立つスープのカップを置き、湖の底で得た情報をセリアとミリィ、そしてミーナに簡潔に伝えた。リンとフィーリアも、創夜の隣に座っている。
「逆光石から流れ込んだ情報によると、玉座なき魔王は宇宙の根源にして、真の混沌であり、全ての多元宇宙を無意識に破壊し続ける夢そのものだそうだ。ヨグ=ソトースは、その魔王が各次元へ開いた時空の通り道、つまりゲートそのものだということがわかった」
セリアは賢者の杖の情報を思い出しながら、創夜の言葉と照合した。 「無限の混沌...やはりそうね。ヨグ=ソトースは破壊すべき敵ではなく、封印すべき次元の接続口そのものだった。玉座なき魔王の眷属を倒しても、ゲートが閉じることはない。儀式によって、ヨグを特定の次元に閉じ込め、封鎖する必要があるわ。もしかしたら、倒す必要がないということかもしれないわね」
ミリィが心配そうに尋ねた。
「じゃあ、玉座なき魔王は? わたし悪魔だけどそんな魔王なんか知らないよ。創夜っていうサタンはしってるけどね」その発言に、みんなの笑いがこぼれた。
ミーナはクッキーを皿に並べながら、冷静な声で口を挟んだ。
「創夜が異物だと呼ばれたのなら、何かしらの干渉手段があるのかもしれないね。この世界を破壊し続ける夢を、無理やりにでも覚醒させる、とか」
創夜は、ふと遠い目をしながら答えた。
「倒すかどうかは、見てから決める。ただ、俺をその夢に辿り着く異物だと、逆光石の情報が道を示されたと言った。俺のチート能力が、この混沌に干渉できる可能性を秘めているんだろう。だから、俺は行く。その真の混沌の場所へ」
セリアは立ち上がり、テーブルに広げた古文書と、賢者の杖から得た情報を整理し始めた。
「創夜、あなたの目標が玉座なき魔王の正体解明に変わったとしても、まずはヨグ=ソトースの封印儀式を成功させる必要がある。逆光石の情報にもあった通り、各次元へ開かれた魔物のゲートを閉じなければ、どの次元も滅ぶわ」
フィーリアが情報を整理し、表を作成する。
鍵の名称役割:
一つ目のカギはアストラル・ブレイカー:ヨグ=ソトースの接続口を特定の次元へ誘導するための領域を絶対的に固定する。
二つ目のカギは、逆光石 :安定した接続口に対し激しく反応し、ヨグを特定の次元へ強制的に転移・隔離し、境界を永久に封鎖する。
三つ目の鍵は、古文書に記載なし。封印完了後、玉座なき魔王を追い、その場所へ向かうための鍵となる可能性。
「情報はそろったな」
「備えあれば憂いなしだ。中身が空っぽだけどな。買い出しに行くぞ!」
創夜達は、近くにある、最も栄えた大都市へと向かった。
◇◇◇◇
近くにあった巨大な市場は、あらゆる商品と人で溢れていた。
「ふう、人が多いアルね! でも、旅の準備は楽しいアル!」
リンは目を輝かせている。
創夜は、会計担当のフィーリアにリストを読み上げる。
「まず、食料を30日分。戦闘中にすぐに補給できる携帯食を中心に。いつでも新鮮そのもので取り出せるアイテムボックスに収納だ!」
創夜は、真剣な表情で言った。
「これだけじゃ足りないかもしれない。今回の旅は、次元そのものと戦うことになる。いつまでも保存できるからいくらあっても足りないぞ。行くまでにみんなで飛空艇の中で調理して追加で入れておこう」
「肉まんもあんまんも入れたアル!」
「クッキーたくさん!」
「ワインも入れたわ!」
「俺はみんなの料理の方がいいかな」
「携帯食と、普通に食べる時用の食材とか料理器具も入れたわ」
「私はメンテナンスルームがあるから大丈夫よ。珍しいものを買ってたわ。部屋に飾ろうかな。あ、そういえば、ヨグ=ソートスについていろいろと横展開で調べてたんだけど、全知的な存在で調べたらそれっぽいのが出てきたわ、通常の武器や魔法では倒すことはできないけど、創夜達って確か神様に武器をもらったとか言ってたわよね?その武器多分ヨグが知らない神々に対抗できる武器だと思うわ。そうすると、創夜達しか倒せない。っていう解析結果になるわ」
「なるほど。って、今まで解析していたのか!、逆光石取りに行ってたよな。まあ、俺達しか倒せないとしても何をしているやつなのか一応聞いてみて俺がこの目で判断する」
「フィーリアすごいね」
「フィーリアすごいわ」
「フィーリアすごいわね。わたしの杖でもそんなことわからなかったのに...」
「メトロポリスの化学はすごいアル」
◇◇◇◇
買い出しを終えた創夜たちは、通り道にあったの郊外にある、古代の観測施設『星見の塔』へと、飛空艇アストラル・ブレイカーで向かった。
星見の塔は、空中都市アヴァロンと同じ垂直線上にあるとされ、次元の観測に使われた場所だ。
創夜たちは、飛空艇アストラル・ブレイカーを塔の隣に係留した後、最上階の観測ドームへと急いだ。
創夜は、ポケットから逆光石を取り出し、塔の頂上に設置された巨大な観測水晶の中央にそっと置いた。その瞬間、逆光石の絶対的な闇が、観測水晶に触れると同時に、塔全体が激しく共鳴し始めた。
「観測装置の数値が異常よ!次元障壁の定数が急激に低下している!」
フィーリアが警告する。
そして、塔のすぐ隣に係留されていた飛空艇アストラル・ブレイカーの船体が、逆光石の闇に応えるように、激しい青白い光を放ち始めた。両者が反応し合い、転移確率が急上昇キィィィィンという、次元の膜が引き裂かれるような高音がドーム中に響き渡る。
「逆光石と飛空艇が、互いの機能を認識したアル!この共鳴は……強制的な次元接続アルね!」
リンが叫んだ。
創夜は、異常な圧力に耐えながら、窓の外を見た。空の景色が、まるで熱で溶ける絵画のように歪み、ねじ曲がっていく。
次の瞬間、強烈な光と、地面が崩落するような激しい振動が、創夜たちを包み込んだ。光が収まったとき、通り道にあったの夜景は完全に消え失せていた。
窓の外に広がるのは、見渡す限り、岩と砂漠と、荒涼とした大地。空は鉛のように重く、灰色の雲が低く垂れ込めている。創夜は、不時着し、岩肌にめり込んだアストラル・ブレイカーを見つめ、静かに呟いた。
「……異次元に、転移させられたか。とりあえず、みんないるようだな」




