ep5.星間を繋ぐ門編 大瀑布へ
深淵の大瀑布。
その名は、古代において「虚空の震え」が最も色濃く現れた地として恐れられていた。次元の裂け目に直接繋がっているとされ、近づく者を容赦なく呑み込む巨大な滝壺が、逆光石の在り処だ。
漆黒の船体に、蒼い魔力光のラインが走るアストラル・ブレイカーが、轟音と共に静かに浮上した。
「ミーナ、進路を深淵の大瀑布へ。最大戦速で頼む」創夜がコックピットで指示を出すと、メイド服姿のミーナは操縦桿を握り、鋭い眼光で前を見据えた。
「了解いたしました、ご主人様。アストラル・ブレイカー、最大加速!」
船体は一瞬で周囲の岩礁群を置き去りにし、青空の彼方、大陸の南へと向けて光の矢のように加速した。
「深淵の大瀑布、か。次元の裂け目に近いなら、厄介な奴らもいるかもしれないアルね」リンが窓の外を見つめながら呟いた。
「ああ。次元の壁が薄い場所だ。ヨグの眷属や、奇妙な魔物が出る可能性は高い。そうだ、フィーリアお願いがあるんだ、俺のアイテムボックスをコピーしてたよな、皆にも作ってくれないか? あと、この船みたいに次元を超えて会話できる装置とか作れたりしないか? 全員バラバラになっても状況把握が出来ると安心できるだろ」
「解析済みよ、すぐに作成に取りかかるわ」
そういうとフィーリアは空間に魔方陣を出し、メンテナンスルームのモニターを操作し始めた。
創夜は、手に握った羊皮紙の地図を改めて確認した。
「逆光石さえ手に入れれば、門を閉じるための準備は整う。この世界に現れた玉座なき魔王なのか門なのか知らないが、まとめて終わらせてやる」
アストラル・ブレイカーは、次元の歪みが待つ目的地、深淵の大瀑布を目指し、光速で空を切り裂いていくのだった。
漆黒の船体に蒼い魔力光のラインが走る飛空艇アストラル・ブレイカーは、高度を保ちながら大陸南部に向けて光速で飛行していた。コックピットでは、ミーナが正確な操縦を続け、皆、作戦会議と装備の最終チェックを行っていた。
フィーリアは空間に展開した簡素な魔法陣の操作を完了させ、振り返った。
「創夜できたわよ。私のマギテック・ゴーレムのメンテナンスゲートから派生させた、亜空間収納の簡易版よ。各自の意識と連動させ、食料や緊急用の物資を瞬時に出し入れできるわ。腕につけられるように改造したから、戦闘の邪魔にもならないでしょ。好きなところにつけれるわよ」
リンは自分の腰に手を当てて確認した。そこには、創夜の持つアイテムボックスに似た小さな紋様が浮かんでいる。
「これで、最悪バラバラになっても餓死しないアルね! 安心感が違うアル!」
「創夜が一番欲しかったアイテムじゃない?」ミリィが創夜をからかう。
創夜はうなずいた。
「備えあれば憂いなしだ。前回の転移で散り散りになった経験があるからな。何より、次元の壁が薄い場所へ向かう。何が起こるか予測不能だ。といっても、もうあれはうんざりだ。みんなと冒険したいのにどこにいるかもわからず安否不明でテレパシーも使えないとかひどすぎだろ」
数時間の高速飛行を経て、眼下の景色は一変した。緑豊かな大地は終わりを告げ、荒涼とした黒い岩肌の山脈が広がる。そして、その山脈の谷間を、天地を裂くような巨大な瀑布が流れ落ちていた。
「あれが、深淵の大瀑布か……」
創夜は窓越しにその威容を見上げた。
滝の高さは数千メートルに及び、落ちた水は巨大な滝壺に流れ込んでいる。しかし、その滝壺は通常の水面とは異なり、青白い光を帯びた粘性の高い霧に覆われていた。
「滝壺にあるなんて、伝説って言われるわけだわ」
セリアが納得するようにつぶやいた。
フィーリアは呆れたように言う。
「変なところに隠すのね」
ミーナが緊張した声で報告する。
「ご主人様、滝壺上空の空間が非常に不安定です。魔力による物理法則への干渉が、予測不能なレベルで発生しています。これが次元の裂け目の影響です」
創夜はコックピットのモニターに表示されたデータを見た。空間の安定性を示すグラフが、激しく乱高下している。
「あの滝壺の底が、逆光石の場所、そしてヨグ=ソトースの力が漏れ出した場所だ」
リンは思わず唾を呑み込んだ。
「普通の滝壺じゃないアル。落ちたら、この次元から消滅しそうネ!」
フィーリアは冷静に分析結果を伝えた。
「滝壺を覆う光の霧は、次元間エネルギーの飽和によるものです。この中を物理的に降下するのは非常に危険です。船体保護バリアの最大展開が必要です」
創夜は、アストラル・ブレイカーを滝壺ギリギリまで接近させた。巨大な滝の轟音は、船体の防音バリアを突き破って響いてくる。
「皆降りよう。足場は俺のバリアで階段を作る。アストラルブレーカーはアイテムボックスにしまっておこう」
創夜達が滝壺の上空に達すると、粘性の霧がバリアにまとわりつき、甲高い摩擦音を上げた。
創夜は甲板へと移動する。そこには、創夜が魔法で生成した足場と、滝壺へ降下するための特殊降下用ポッドが準備されていた。
「この降下用ポッドを使うぞ。次元の歪みを避けるため、一気に滝壺の底へ潜り込む。降りたら、まず逆光石を探そう、結構狭いな、俺は外に乗る」
創夜はリンに注意を促した。
「リン、念のため相手には直接触れないようにしろよ。攻撃する際は、深淵の眷属かもしれない魔物の存在形態をよく見極めろ。安易な物理攻撃は通じない可能性がある」
「わかってるアル!」
三人がポッドに乗り込むと、ミーナが甲板から指示を出し、ポッドは巨大な滝の横を滑り落ちるようにして、青白い次元の霧に包まれた滝壺の底へと向けて降下を開始した。
滝壺の底には、光を拒絶し、時間を拒否する鍵が眠っている。
(この次元の歪み……本当に、ただの魔王の力ではないな。ヨグ=ソトース。道を開く者、鍵にして門、か)
創夜はポッドの窓越しに、渦巻く異次元のエネルギーを見つめた。逆光石の入手は、この世界を救うための第一歩だ。




