ep3.星間を繋ぐ門編 討伐報告
ミリィの放ったグランドクロスにより、禍々しい黒いモヤは完全に浄化され、洞窟の最深部に静寂が戻った。
そこに残されたのは、百体以上の硬石ゴーレムが変じた、怪しく光る高密度の鉱石の山だった。
創夜は、足元に転がっている小さな石を一つ拾い上げ、硬石の塊にそっと触れさせた。
カチカチ……
石は何も変化しない。
「大丈夫みたいだな。アイテムボックスにしまおう」
創夜はアイテムボックスを開き、百体分の高密度鉱石を一瞬で収納した。
創夜は安堵し、皆に向かって言った。
「それにしても、ミリィのグランドクロスってすごい範囲だったなぁ。いつも戦闘中だからあまりじかに見る機会がないからなぁ」
ミリィは自信満々に答える。
「師匠直伝の白魔法よ!」
「精霊の国の時に覚えたやつか、速さだけじゃなく、攻撃力と範囲もカバーするなんてどんな修業をしたんだよ」
「うーん、時が過ぎる時間が遅い空間だから何年もいたかもね。シオンよりも上に行きたいって言ったら用意してくれたのよ!」
「中々すごそうだな」
リンが竜気の絶対防御を解除する。
「……ふぅ。触れると石化するなんて厄介な性質アルけど、当たらなければどうということはないネ! でも、倒したそばからあんなに増えるなんて、流石に驚いたアルよ」
リンが拳に纏った熱を逃がしながら、不思議そうに首を傾げた。
「ああ。俺もいろいろな修羅場を潜ってきたつもりだが、あんなデタラメな増殖をする敵は初めてだ。一撃で消し飛ばしても、その隙間を埋めるように湧いてくる……。普通、あんな事象はあり得るのか?」
創夜が拾い上げた鉱石を見つめ、セリアとミリィに問いかけた。
「いいえ、普通なんて言葉、この事態には通用しないわね……」
セリアが、深いスリットから覗くしなやかな脚を運び、ため息混じりに鉱石を覗き込んだ。
「数多の書物を読破してきたけれど……あんな無限に増殖するような魔物、聞いたこともないわ」
「……私も、ギルドのクエストとかやってきたけど聞いたことないわ」
ミリィが静かに、しかし確信を持って言った。
「魔力で形を保つゴーレムはいても、あの黒いモヤのように『何もないところから増殖する』なんて、世界の摂理に反している。ギルドの過去の記録にも、こんな報告は一度だって上がっていないはずよ」
「ちょっと待って、私だって手ぶらで戦ってたわけじゃないわよ!」
フィーリアが空中にいくつものホログラムを展開し、苛立ったように指先を動かす。 「メトロポリスのデータベースはもちろん、あのアカシック・レコードに繋がる『知識の図書館』のデータまで裏で照合してみたんだけど……信じられないことに、どこにも記述がないの! 以前調べたときも情報が抜け落ちてたけど、今回も完全に空っぽ。私の科学と、図書館の歴史が揃って『知らない』なんて、ありえないわ!」
「ご主人様、これは単なる魔物の変異ではないようです」
ミーナがスッと創夜の横に現れ、彼の手から鉱石を優しく預かった。創夜を気遣う慈愛に満ちた眼差しを向けながらも、その言葉には最強の悪魔としての重みがある。 「この世の理から外れた、あまりに孤独な魔力……。メトロポリスにも、図書館の知識にも、そして私の冥界の記憶にもない。この鉱石は、私たちが知る『世界』のルールで動いていないのかもしれません」
「……知識の図書館にさえデータがないのか」
創夜が眉をひそめる。
「メトロポリスの科学、セリアやミリィの経験、そしてミーナの感覚……。全員が首を傾げるなんてな」
「ご主人様。まずは安全な場所へ。美味しいお茶を淹れて、お体を休めて差し上げたいです」
ミーナがいつもの優しいメイドの微笑みを浮かべ、一礼する。
「そうだな。これを持って戻るぞ。……とりあえず、ギルドに行こうか」
すぐにフルオーラで、加速し、鉱山都市へと急いだ。
鉱山都市の秘密の発着場に到着し、創夜たちは冒険者ギルドへ向かった。
討伐報告をすると、ギルドマスターと受付嬢は、彼らが持ち帰った硬石の残骸を見て、騒然となった。
「こ、この硬度……間違いありません。ルーン鋼を遥かに凌駕している。そして、ギルドの登録どころか、この世界のどの文献にも存在しない鉱物です!こんなゴーレムを倒せるなんて、やっぱりSランク冒険者はすごいなぁ」ギルドマスターは驚愕の声を上げた。
創夜は涼しい顔で答える。
「一つ忠告しておくが、あのレベルをSランクにするな、俺たちしか倒せないと思うぞ。それに、予想外に厄介だったが、依頼通り、討伐は完了だ」
ギルドマスターは、創夜たちの計り知れない実力と、鉱山都市を崩壊の危機から救ったことに感謝し、特大の報酬袋を手渡した。
「本当に感謝いたします! これで採掘の再開ができる」
報酬を手に入れた創夜は、皆の顔を見渡した。
「さて、報酬は手に入れたし、次の目的地だが……次は、知識の図書館へ行ってみるか」
セリアが即座に反応する。
「知識の図書館? でも、フィーリアがないって言ってたでしょ」
フィーリアが付け加える。
「あそこにあった書籍全て解析済みよ、メンテナンスルームで確認できるけど確認する?」
ミーナが驚く。
「どういうこと?」
「前に行った時は、俺を追放した王を倒すための情報収集くらいしか目的がなかった。だが今は違う。あの硬石ゴーレムの未知の法則、もやから生成されるゴーレムについてなんの情報もない。登録もないならあそこしか、手がかりはないだろう、それに、あの図書館は自動で情報を更新し続ける仕組みだ。必要なときに必要なものがある。そういう場所らしい……」
「よくわからないアル」リンが首をかしげる。
「なるほど。あの図書館は、世界の全ての知識が集まっている場所。王を倒した後、この世界をどうするか、新たな情報を手に入れるのは賢明ね」
セリアは、その判断にうなづいた。
「不思議な場所ね。メトロポリスみたいな科学では動いてないようだけどどうなっているのかしら」
「それは俺もわからないが、陰陽師の術だろうな」
「おんみょうじ?」全員が首をかしげた。
「俺がいた国の昔の人だよ、占いとかいろいろな術を使えたらしいが、伝説だったきがするけどなぁ。詳しくは俺もよくわからないが、特殊なスキル使いってことは確かだな」
「ご主人様、出発の準備が整いました」ミーナが会話をしている間に準備を済ませていた。
飛空艇アストラル・ブレイカーは、再び夜空を切り裂き、古代の賢者が集った伝説の地、知識の図書館へと向け、神速で飛び立った。




