ep2.星間を繋ぐ門編 無限増殖
「メトロポリスの秘密科学を舐めないで!」
創夜の呼びかけに応じたフィーリアは、意識を一体目のゴーレムに集中させながら、彼女は即座に分析した。
「解析完了よ!」
解析を終えたフィーリアは、浮遊する二本のメカニカルな腕を空中で一瞬にして分解・再構築する。
「アップデート!マギテック・ゴーレム、破壊衝動!」
展開されたのは、一回り小さく、先端に青い紋様が刻まれた、より精密な二本の腕だった。フィーリアは、増殖を始めた群れの最も密集した箇所に狙いを定めた。
「衝撃を一点に収束し、内部から圧壊させる!これなら山は崩れないわ!」
ドォン!ドォン!ドォン!
彼女の繰り出す連撃は、先ほどとは比べ物にならない精度でゴーレムの急所を打ち抜き、空間を最小限に震わせながら、正確に十体の硬石ゴーレムを内部から粉砕した。ゴーレムはただの岩塊となって地面に落下する。
しかし、黒いモヤは止まらない。ゴーレムの群れは、フィーリアの攻撃の隙をついて、さらに数を増やし続けていた。
「よし、次は俺の番だ!」
創夜が前におどり出た。金色のオーラが一段と高まり、空間そのものが軋むようなプレッシャーを放つ。
創夜の頭上の空間に、虹色の輝きを放つ五十本の伝説の剣アルティメットブレードが、完璧な配列で一瞬にして具現化された。炎、水、風、土、光、闇、雷の七属性の魔力が凝縮された刃がゴーレムの硬度と未知の法則を無効化する純粋な威力を内包している。
創夜が狙いを定め、手を振りかざすと共に、五十本の究極の剣は、雷鳴のような速度で飛翔し、増殖して動き出した五十体のゴーレム目掛けて、一つ残らず正確に、一撃で貫いた。爆発も衝撃波もない。ただ光と魔力が凝縮された刃が、目標を瞬時に分子レベルで分解し、黒いモヤの再構築の暇すら与えずに消滅させた。
一瞬の静寂。五十体のゴーレムは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。
だが、その直後、新たな黒いモヤが怒涛のように湧き上がり、瞬く間に二十体、三十体とゴーレムが増殖を再開した。
「次はわたしの番アル!」
創夜の横から、リンが低い姿勢で一歩踏み出した。
「触れると石化ネ! さわらなければいいアル!」
リンは深く息を吸い込み、右の拳を真っ直ぐに、前方の空間目掛けて振り抜いた。それは、ゴーレムには一切触れていない、純粋な『空撃ち』だった。
――竜気の剛破!
しかし、その拳から放たれたのは、目に見えないが桁違いの圧縮と制御がなされた竜気の衝撃波だった。衝撃波はまるで透過性の刃のように、垂直に並んでいた五体のゴーレムを空気ごと押し潰し、岩塊に変えていく。
「これだけじゃないアル!」
「リン、くれぐれも壁には当てないでくれ、俺のバリアも危ないかもしれない」
「外さないアル」
リンは瞬時に拳に魔法の炎を纏わせ、残るゴーレムの一列目に向かって連打を放つ。
「私の武器は魔法も出せるネ!炎竜の連撃アル!」
炎の魔力を乗せた拳が、空気の層を焼きながら爆発的な衝撃を生み出し、さらに十体のゴーレムを粉々に吹き飛ばした。
その猛攻の間にも、ゴーレムの数は確実に増え続け、最深部の空間は再び群れで埋め尽くされ始めた。
「はーい!私の出番よ」
セリアが、いつもの冷静さの中に、わずかなセクシーな響きを乗せて声を上げた。深いスリットのローブの裾が翻り、知的な色香が漂う。彼女は賢者の杖を天空に構え、その瞳に描かれた情報魔法陣が複雑に閃光を放つ。
「広範囲の絶対零度よ! アイス・ゲヘナ!」
凍てつく白い息が、彼女の杖の先から解き放たれ、洞窟の最深部に満ちる五十体ほどのゴーレムを一瞬にして包み込んだ。ゴーレムを構成する高密度鉱物と体内の波動魔力は、急激な熱収縮と凍結によって、動きを封じた。
「砕けなさい!」
セリアは間髪入れずに、杖を地面に叩きつけ、凍り付いたゴーレムの群れに向かって、一転して灼熱の炎魔法を放った。
「フレイム・ノヴァ!」
極限の低温から極限の高温へ。この急激な変化は、凍結したゴーレムの肉体を内部から引き裂き、轟音と共に全てのゴーレムを粉々に爆砕させた。これもまた、洞窟を崩落させないための、威力と範囲を完璧に制御したセリアならではの知的な戦法だった。
「私は魔法が得意なお姉さんよ!外ならもっと高火力の範囲魔法を使えるわ」
セリアが勝利の笑みを浮かべる。しかし、その直後、まるでその攻撃を待っていたかのように、ゴーレムの黒いモヤの増殖が加速した。
「次はわたし!」そういうと、短パンワイシャツ姿のミーナが前へ出た。彼女はメイド服姿だが、その全身からほとばしる魔力は、最強の悪魔そのものだ。
ミーナもまた、リンと同様に空気を殴った。しかし、彼女の拳が空気を貫くたびに、周囲の空間に紫色の稲妻がゴーレムの周囲に、雷撃の波動が広がる。
「フンッ!」
ミーナの放った広範囲の紫電の衝撃波は、次々と湧き出てくるゴーレムの群れを捉え、破壊した。その破壊力は稲妻が走った後のように一瞬で、周囲の岩盤に一切の傷を残さない。
「悪魔の書はここは狭くて使わない方がいいわね」
彼女がそう言ったとき、洞窟の最深部に残されたゴーレムの数は、遂に百体に達しようとしていた。
「もう終わりよ」
その声は、静かだった。 群れの中心、増殖を続ける黒いモヤのただ中に、ミリィの姿は一瞬消えた。
次の瞬間、彼女の姿は、ゴーレムの群れの真っ只中にふっと現れた。彼女の全身は、優しくも眩いほどの白い光に包まれている。
(一撃の破壊力が桁違いだから。威力の調整はできるけど、最小の会心を叩き込めるやつはいないだろうな。)
ミリィは光り輝く身のこなしと、瞬速の剣で、周囲百体のゴーレム全てに向かって、同時に、そして一瞬で攻撃を炸裂させた。剣は一撃ごとに、ゴーレムの核を正確に狙い、最小限の会心を叩き込んだ。
キン、キン、キン、キン……。
百体の硬石ゴーレムは、全く同じタイミングで、核を破壊され、動きを止めた。
ミリィは一歩も動かず、静かに剣を納める。
「はい、増殖ご苦労様でした」
彼女の言葉と共に、倒されたゴーレムの周囲から立ち上っていた、増殖の源である禍々しい黒いモヤが、一瞬にして光を帯びた白い十字架に包まれた。
――グランドクロス!
白い光は黒いモヤを一瞬で浄化し、空間からその存在を完全に消し去った。
――静寂
そこには、崩れることなく、ただ百体のゴーレムが変じた、怪しく光る硬い鉱石だけが残されていた。




