ep1.星間を繋ぐ門編 プロローグ
光が収束し、飛空艇が降り立ったのは、赤茶けた岩山に囲まれた巨大な鉱山都市の近郊だった。煙突からは煤けた煙が立ち上り、街全体が重厚な活気に包まれている。
一行は飛空艇を山脈の陰に隠すと、創夜たち六人は連れ立って街へと足を踏み入れた。
街の入り口近くにある冒険者ギルドの掲示板には、最高ランクを示すSランクの依頼がド派手に張り出されていた。
『Sランク超緊急討伐:嘆きの山脈における硬石ゴーレムの大発生』
場所:第三採掘場深部
特記事項:掘り出した希少な硬い石が命を得て暴走。ルーン鋼でも傷つかず、触れると石化させる危険性あり。
報酬:金貨数十万枚
「これなんかどうだ? 普通の敵は柔すぎるから、丁度よさそうな硬い敵だ」創夜が掲示板を指差した。最近ボス戦ばかり続いていたので、次の食事や色々と飛空艇の各自の部屋の改造の為にも気晴らしにSランククエストの依頼を受けようと新しい町のギルドで受ける依頼を選んでいた。
「硬い石のゴーレムね。いいわよ、面白そう」フィーリアは自信に満ちた表情で即答した。
しかし、ここでリン、ミリィ、セリア、ミーナが口々に追加の反応を示す。
「報酬も悪くないし、石化アルか!対したことないネ」
「Sランクのゴーレム相手なら、それなりに耐えてくれるはずよ」
「新しい魔法を試そうかしら」
「硬い敵ね。ふふ、悪魔の火力を試すにはいい獲物だわ。金貨は後で山分けよ」
「決まりだな。みんな、多分この国の敵は弱すぎると思うからこそ、山とかを壊さないようにほどほどに頼むぞ」
「わかってるわ。周囲を壊さない程度に威力を制御しないといけないのね、いつもの感覚で戦うとこの国が壊れそうだわ」
「普通を意識していざってときに、最大火力を出せるように調整しないといけないわね」
「普通を再確認するアル」
鉱山都市の冒険者ギルドで『Sランク超緊急討伐:嘆きの山脈における硬石ゴーレムの大発生』の依頼を受け、創夜たち六人は「嘆きの山脈」第三採掘場の入り口にたどり着いた。そこは、巨大な岩肌がむき出しになった洞窟の入り口だった。
ゴツゴツとした岩の入り口を見上げ、創夜はふと、ある懸念に気づき、全員を呼び止めた。
「おい、待て。よく考えたら、俺たちが洞窟を探索するって、初めてじゃないか?」
セリアが冷静にうなずいた。「確かに。遺跡やダンジョンはあったけど、こういう物理的な洞窟を、歩いて探索するのは初めてかもしないわ。奥が深いようだし……洞窟の強度の方が心配ね」
フィーリアがギルドで受け取った簡易マップを広げ、声をひそめる。
「マップを見ると、採掘場の跡地で、空洞が多いわ。ヘタに攻撃すると、山ごと崩落する可能性がある」
ミリィが不安そうに続く。「私たち、威力の調整はできるけど、一撃の破壊力が桁違いだからね。普通の冒険者が行く洞窟とはわけが違うよ。壁をちょっと触っただけで、穴が開いたり、天井が抜けたりしそう……慎重に衝撃を最小限に攻撃しないといけないね。」
(はい。そうです。ミリィ以上に、最小の会心を叩き込めるやつはいないだろうな)
ミーナが創夜を見上げて、真剣な眼差しで訴える。「創夜、くれぐれも魔物を壁に打ち付けたり、地面に叩きつけたりしないでね!私たち悪魔は、つい全力が出ちゃうから、洞窟がなくなっちゃうのは困るわ!」
創夜はため息をついた。「わかってるって、というかお前らが一番危なそうだよな」
皆、装備が洞窟探索の格好になったいた。
「私のアストラルコントロールは完璧よ。」
「えー! 創夜が一番危ないよ。」
「創夜の技の衝撃波で世界が崩壊するアル」
「はい。ご主人様、休憩時間のクッキーと紅茶の準備はバッチリです」ミーナはいつの間にかメイド服になっていた。
「よし、フィーリア、お前が先頭だ。くれぐれも壁に魔物を殴って当てるなよ!穴が空いたり崩れたりしたら、この洞窟全体が閉鎖されて、採掘業者が大変なことになるからな。威力は絶対に抑えろ、絶対だ!」
フィーリアは真面目に返答した。「わかっているわ。考えてみると、普通に危ないクエストね。今までは外が多かったわよね」
するとセリアが、無言で前に一歩踏み出し、賢者の杖を持ち、掌を洞窟の入り口に向けた。彼女は、深いスリットの入ったローブの裾を翻し、知的な色気を漂わせている。
「闇雲に進む必要はないわ。私が最新部まで一度に視界を確保するわね。光よ!」
彼女の手から、眩いほどの白い光が放たれた。それはセリアの持つ情報処理能力によって完璧に制御された魔法光だ。洞窟の複雑な構造を解析し、最適な角度で、氷魔法で生成した鏡に光を乱反射させながら、驚異的な速度で洞窟の最深部まで、一瞬にして光が到達する。
「光の乱反射よ」セリアが静かに言った。
一瞬にして洞窟の内部が真昼のように明るくなり、創夜たちの視界は最深部へと開けた。
その直後、ゴゴゴゴゴ……という低く、腹に響くような振動が、洞窟の奥深くから伝わってきた。振動は地面だけでなく、岩盤全体を震わせている。
「来たか……」
創夜は全身にフルオーラを全員にかけた、一瞬でゴーレムのいる広い空間にたどりついた。
目標の『硬石ゴーレム』は、巨大な一つ目の岩の塊だった。
敵を確認すると、創夜とリンは防御結界をはる。
――竜気の絶対防御
――セーフティフィールド
「これでひとまず安心だ。崩れる心配はない衝撃派や振動はすべて俺のスキルがガードしてくれる」
フィーリアは、目の前の巨大な岩の塊を見て、純粋な好奇心と科学者としての優越感を抱いた。
「いくわよ分析開始、おかしいわ。私のデータにこの鉱物はないわ」
「マギテック・ゴーレム!」
フィーリアの手前に青い魔法陣が生成され、そこから巨大な浮遊するメカニカルな腕が2本展開された。フィーリアは巨大なゴーレムに狙いを定め、浮遊する二本の腕で連撃を食らわせた。石化については魔法陣でコーティングされており、対策済みだ。
ドォン!ドォン!
しかし、その手応えはフィーリアの予想を裏切った。
「えっ……?硬いっわ! 確か弱すぎるはずだとか言ってなかった? この高度、今まで以上だわ。神々の塔のボスより硬いわよ!」
彼女の繰り出すマギテック・ゴーレムの連撃は、ゴーレムに目立った損傷を与えない。
創夜も驚愕した。「まさか、そんな馬鹿な!」
フィーリアは動じなかった。彼女は即座に戦術を変更した。浮遊するメカ腕の先端から、青白い解析ビームが発射され、一体目のゴーレムの表面を舐めるように走る。
「解析結果! 体表はルーン鋼を遥かに凌駕する密度。さらに、体内に高密度の波動魔力がじゅうてんされていて、それが物理的な衝撃を吸収している!これは、魔力をまとった高密度物質ね!」
解析が終わったその瞬間、事態は急変した。
標的とされた一体のゴーレムの周囲の空間に、黒いモヤのようなものが、ポツポツと浮かび上がり始めた。そのモヤは瞬く間に形を成し、岩の体を纏い、新たなゴーレムへと変貌していく。
一体だったゴーレムは、五体、十体と増殖し、わずか数秒で五十体もの『硬石ゴーレム』が、最深部の空間を埋め尽くした。
「増えたアル!?しかも、まだ増えているネ!」リンが悲鳴に近い声を上げた。
そして、一体目のゴーレムが反撃に出た。岩でできた巨大な拳を振り上げ、フィーリアのマギテックゴーレムの腕に叩きつける。
キン!という、鋼と鋼がぶつかるような甲高い音が鳴り響いた。
その衝撃で、創夜の防御結界がわずかに揺らぐ。
フィーリアは、近くにあった石をゴーレムに投げつけた。石は謎の鉱物に変換される。
「やはり、触れると石化するのか!……」創夜の顔に冷や汗が流れた。
その時、後方で静かに状況を観察していたセリアが、冷静だが緊迫した声で警告を発した。
「皆で倒した方が良さそうね」
セリアは手に持った賢者の杖を構え、その瞳が情報処理の魔法陣のように複雑な光を放つ。
「この石化は、単なる魔法や呪いではないわ。ゴーレムの体内で生成される特定の高密度魔力粒子が、接触した対象の物質の結合を強制的に変化させている。これは、私たちいるこの世界の法則に強く結びついた未知の現象よ!この魔力は、私たちが普段扱う魔力とは波動が異なっている!」
セリアの警告と同時に、洞窟の最深部で五十体のゴーレムが一斉に、創夜たちに向かって動き出した。彼らが動く度に、周囲の空間に次々と黒いモヤが発生し、ゴーレムの数は着実に増殖している!
ミリィが剣を構え、戦闘態勢にはいる。
「急いで倒さないと囲まれそうね」
リンとミーナは既に臨戦態勢に入っていた。黒い炎が揺らめき、殺意の波動を放っている。悪魔の書は洞窟では危険なので使わないようだ。
「くっ、卑怯な魔物だわ! 硬くて、触ると石化なんて、悪魔に石化なんかきかないわ!」
「こんなにいるなんて、聞いてないアル!」
創夜は周囲を見渡した。圧倒的な敵の数、石化という未知の脅威、そして何よりも洞窟を壊してはいけないという制約。
「チッ、面倒な奴らだ。硬い敵を試すつもりが、一番面倒な敵を引き当てたか……」
金色のオーラを纏った創夜たちと、五十体以上に増えた硬石ゴーレムの群れが、洞窟の最深部で対峙した。ゴーレムの黒いモヤは止まることなく、増殖を続けている。




