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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
精霊の国編

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ep14. 精霊の国編 シオンの保証

ワープポイントの光が収束し、シオンとスーは再び炎の神殿の中央、熱気を帯びた石の床の上に立っていた。炎の灯篭が薄暗い神殿を照らしている。しかし、状況は一変していた。


「創夜…?」


創夜は、まるで全身の血が凍り付いたかのように微動だにしなかった。彼の目は焦点が合わず、その表情は深い絶望に塗りつぶされていた。ただ一点、虚空を見つめている。彼の頬には、乾いた血の跡が黒い筋となって残っていた。


「ねぇ、創夜!一体何があったのよ!?この先は雪山よ!…それに、アレルは…」


スーが不安げに創夜の顔を覗き込む。


シオンも創夜の肩を揺すった。「おい、創夜!しっかりしろ!何があったんだ、さっきの衝撃は?お前、意識があるのか?」


創夜は数秒後、まるで遠い場所から聞こえてくる声に反応するかのように、ゆっくりと口を開いた。彼の声は酷くかすれ、感情が抜け落ちていた。


「アレルが…」


「アレルが、どうした?」シオンが続きをうながす。


創夜は言葉を継げなかった。代わりに、震える手で自分の胸元を強く握りしめた。その感触を確かめるように、ただひたすら。


「…俺を、かばって」創夜は掠れた声で、途切れ途切れに絞り出した。


「テラズマの、拳が…黒い雷の、線になって。避けられなかった。俺の、思考を…置き去りにした」


創夜は目線を落とし、さっきまでアレルがいた場所を、この炎の神殿の中で見つけようとしているかのように、虚ろな目を動かした。


「俺の、目の前で…全身を盾にして…」


「血を…吐いてた。腹を…貫かれて。なのに、あいつ…俺達を頼れ、バカヤロウって…」


創夜の言葉はそこで途絶えた。


シオンとスーはアレルが死んだと聞いても特に慌てる様子はなかった。


「ワープしてしまったからアレルの蘇生は無理よ!」シオンに告げる。


創夜は完全に沈黙し、再び石像のように動かなくなった。創夜の心は、アレルの最期の言葉と、光の粒となって消え去った彼の姿によって、氷点下で凍てついていた。


シオンは、創夜に落ち着かせようと努めながら言った。


「…そうか。分かった。ここにいても仕方ないな、アレルは精霊の加護があるんだ、お前も初めて会ったときそうだっただろ。アイツは今頃、ボロボロの城で悔しい顔してすぐ戻ってくるさ。スーの村に戻ろう。」


シオンは創夜の頭をそっと抱き寄せた。「今は…ここにいても仕方ない。私の村でアレルを待ちましょう。」


そう言うと、スーはワープの呪文を唱え始め、創造をシオンとスーが抱えるようにスーの村へ運んだ。


スーの村は静寂と安らぎに包まれていた。澄んだ水路が村の中を巡り、家々は白樺のような木材でできており、暖かく優しい光に満ちている。空気は清浄で、どこからともなくハーブと土の匂いが混ざった心地よい香りが漂っていた。


しかし、その穏やかな空間で、創夜の様子は全く変わっていなかった。彼は相変わらず虚脱した状態で、シオンにもたれかかったまま、一言も言葉を発しない。


「創夜、着いたわよ。ここは私の村…」スーが優しく語りかけるが、創夜からの反応はなかった。


シオンは創夜の傍らに跪き、その肩を掴んで強く揺さぶった。


「おい、創夜。聞け。お前がここで石になっていても、アレルは戻ってこない!アレルは走ってくるからな。そして、お前がこんなザマじゃ、アイツが戻っても先に進めない、またやられて俺たちは自分の村に逆戻りだがお前はそうはいかないだろ、修行をつけてやるよ、ちょっとこい!」


修行という言葉に創夜は反応した。仲間のリンと最初に修行をした事、その後、ミリィ、セリア、ミーナと一緒に修行をしたことを思い出しながら、相変わらずのポーカーフェイスではあったが、顔色が少しだけよくなり無言でシオンの後を追った。


シオンと創夜はスーの村の奥にある神殿の中に入った。スーはシオンの言葉を聞くとシオンと創夜を見送りもせず自分の行動をとるべく村の奥に消えていった。


神殿の中は特に何もなく、中くらいの広間があるだけだった。


創夜が神殿の空っぽの部屋で目を閉じ、荒れた呼吸を整えようと努める。しかし、彼の内側では、アレルの消滅という絶望的な光景と、彼を救えなかった自責の念が、激しい感情の渦となって荒れ狂っていた。


シオンは創夜の前に座り込み、その様子をじっと見つめていた。数分後、静寂を破ってシオンが口を開いた。


「座れ、創夜。お前は何を焦ってんだよ。」


創夜は目を開けることなく、眉間に深く皺を刻んだ。シオンは続けた。


「お前の戦い方、前から思っていたけど、いつも焦っているようにしか見えなかった」


神殿の中には、水路を流れる水の音だけが微かに響いていた。


暫くして、創夜が重い口を開いた。その声は、まだ絶望の底から這い上がれていない、かすれたれた音だった。


「…仲間に、早く会いたいんだ」


創夜の言葉は、まるで固い氷を削り出すかのようだった。


「無事なのかもわからない。テレパシーが使えることはアレルとリリィと確かめたんだ…だけど、誰も、誰一人返答がないんだ。皆バラバラに別の次元に飛ばされてしまった」


創夜の頭の中には、リン、ミリィ、セリア、ミーナ、そしてリリィ、それぞれの顔が浮かんでいた。

「リン、ミリィ、セリア、ミーナ。皆無事なのかもわからない。せめて無事だと知りたいんだ」


シオンは創夜の言葉を静かに受け止めた後、鋭い眼光を向けた。


「そうか。じゃあ聞くけど、お前の仲間は弱いのか?」


創夜は驚き、目をわずかに開いた。

「信頼できないほど弱いのか?」


シオンの声に、感情がこもり始める。


「おい、弱いのかって聞いてんだよ!」


シオンは立ち上がり、創夜の顔の前に一歩踏み出した。


「俺たちは最初から連携できた訳じゃねぇ。特にアレルはな、力馬鹿で結構苦労したんだ。俺たちは仲間を信頼している。だから敵と戦えるんだ。」


シオンは、自身とアレルとの旅を思い出すように、遠い目をした。


「連携なんて最初からできたわけじゃねぇ、一緒にいるうちに信頼できて、勝手に身体が動くんだ。俺はアレルが無事だってわかる。精霊の加護があるから何回死んでもいいって言う理由じゃない」


彼の声は、熱を帯びて創夜の心に突き刺さる。


「何度やられても、俺たちはいつも平気だった訳じゃねぇ。勇者だからでもねぇ。俺たちがやらねぇと誰もできねぇんだ。俺たちが死んでも、死んでも平気じゃねぇ。くじけたときもある。喧嘩してバラバラになったこともある」


シオンは、創夜が今感じているであろう痛みや後悔を、自分たちも何度も経験したのだと訴えかける。


「だけどな、やらないといけないときがあるんだ。そこで仲間同士で励まし合って、立ち上がったんだ。お前は確かに強い、俺たちよりもだ。だけど、お前は仲間を信頼してねぇ」


シオンの指摘は、創夜の心の核を射抜いた。


「心配して、焦って焦って、仲間を守ろうと誰も傷つけないように考えて、安全な道を自分が考えた安全策で動いてるようにしか見えねぇ」


創夜の閉じた瞼の下で、瞳が激しく揺れた。シオンの言葉は、アレルの最期の叫びと同じ、彼自身の無力感の裏返しを鋭く指摘していた。


創夜は、もう限界だった。アレルの死、仲間の消息不明、そして何より、自分自身が彼らを完全に信頼しきれていなかったというシオンの痛烈な指摘。全ての感情が堰を切ったように溢れ出した。


創夜は顔を覆い、しゃくりあげるような激しい嗚咽とともに、堰き止められていた涙を流し始めた。


「強いよ…!」


創夜は声を震わせながら、シオンに訴えかけた。


「リンは武道家で、アルって少し変わった話し方をするけど、俺に『気』を教えてくれた俺の師匠でもあるんだ」


「ミリィは未来視がある。回避と受け流しが得意で、会心の一撃の鋭さは誰にも負けない女の子だ」


創夜は指折り、仲間の強さを数えるように言葉を紡いだ。


「セリアはセクシーでからかってくるけど、魔法使いで沢山の強力な魔法が使えて、頭がいい。分析が得意なんだ」


「ミーナは悪魔の可愛い女の子で、優しく強い。皆、強いよ!」


創夜は涙を拭うこともせず、絶叫した。


「神々にも勝ったんだ!」


その言葉の響きは、彼らが共に乗り越えてきた試練の大きさを物語っていた。


「そのときも…、皆を俺が安全なところに運んで守って、傷つけたくなくて、みんなが傷つかないように指示を出して、守りながら戦ってた」


創夜の胸の中には、常に仲間を守らなければならないという強迫観念が巣食っていた。シオンの指摘は、まさしくその核心を突いていた。


「…確かに、シオンお前の言うとおりだった」


創夜は膝の上に拳を打ち付け、悔しさと自責の念に顔を歪ませた。


「俺は、仲間を信頼してなかったのか。」


創夜は言葉に詰まり、再び嗚咽が漏れた。


「…ただ、もし最初に会ったときにアレルが言っていた**『白い俺に似たやつ』が、もし俺の思う俺のコピーの悪い奴**だとしたら、皆が無事かどうかもわからないんだ。早く無事を確かめたい、早く白いやつを確かめて倒さないといけないって思うと…」


創夜は、自分の分身のような存在が、バラバラになった仲間たちに危害を加えている可能性を想像し、再び焦燥に駆られた。その焦りこそが、アレルの言葉を無視し、目の前の敵に集中できなかった原因だった。


シオンは、泣き崩れる創夜を静かに見つめていた。彼の表情は厳しかったが、その瞳にはわずかに同情の色が浮かんでいた。創夜が今、初めて心の底にある弱さと向き合い、それを吐き出したことを理解したからだ。


シオンは創夜の隣にゆっくりと座り、静かに、しかし力強い声で続けた。


「お前の仲間は大丈夫だ。安全なところにいる。俺が保証する」


創夜は混乱しながらも、シオンの真剣な瞳を見つめた。


「俺たちが思うところ、お前の仲間はこの世界の別次元にいるんだ。世界がバラバラにされる前から、そこは最初から別次元なんだ。敵はいない。そこにあるのは別次元の世界だ。俺たちはそこで修行をしたんだ。何年も、そこで。それでも、戻ったとき、時が全く動かねぇ特別な神殿だ。安心しろ、俺を信じろ。今頃、お前の仲間はお前に心配されないように肩を並べて戦えるように、すごい努力で強くなろうと努力してると思うぜ、あの場所はそう言う場所だ。」


創夜は大きく息を吐き出し、ゆっくりと顔を上げた。瞳からは涙が消え、光を取り戻し始めていた。


「…わかった」


シオンは目を細め、満足げに微笑んだ。


「そうか。雰囲気が変わったな。もう大丈夫だな」

シオンがそう言い終わるか否か、神殿の入り口からスーが元気よく顔を覗かせた。


「あら、創夜もう大丈夫みたいね、シオン!創夜!ご飯にしましょう、スーの村の特性の暖かい料理をご馳走するわ、作戦会議よ!」


スーの明るい声が神殿に響き渡り、二人の重い空気を打ち破った。創夜は静かに立ち上がり、シオンとスーとともに、光の溢れる村へと歩き出した。


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