ep4.精霊の国編 カエデの村へ
「さて、それじゃあ早速出発しようぜ! 仲間を探すんだろ?」
アレルは、瓦礫の山から出てきたばかりだというのに、もうすっかり元気で、剣を背負い直しなから創夜に言った。リリィも創夜の肩で楽しそうに揺れている。
「ああ、頼む。まずはどうすればいい?」創夜は尋ねた。
「とりあえず、このボロボロの城にいても仕方ない。一番近くにあるのは、ここから半日も歩けば着く**『カエデの村』**だ。そこで情報収集と、必要な物資を調達しよう」アレルが指さす方角は、西だった。
創夜は空を見上げたが、相変わらず厚い雲に覆われており、太陽の位置すら判然としない。
「そういえば、ここに来てからずっと空が暗いな。今、夜なのか?」
創夜の問いかけに、アレルは顔を曇らせた。
「いや、違う。時間はちょうど昼過ぎのはずだ。この暗さは、数ヶ月前からなんだ。精霊の力が弱まって、闇に堕ちてきているせいだと、みんな言ってる」
リリィも悲しそうな声で付け加えた。
「精霊の国全体を覆っている、暗い瘴気みたいなものなの。だから、夜じゃないのに、こんなにも暗いのよ……」
その時、三人の耳に、遠くから不気味な叫び声と、破壊音が響いてきた。
ギャアアアアアアッ! ドゴォン!
「なんだ!?」創夜が身構える。
アレルはすぐに音のする方向へ走り出した。
「あれは……カエデの村の方角だ! まずい、村が魔物に襲われている!」
リリィが焦った声を上げた。
「そんな! 急ぎましょう、村の皆が心配だわ……!」
創夜も、アレルに続いて駆け出した。
(魔物か、俺が瞬殺してもいいが、やりすぎない方が良さそうだな。アレルを殺したと言う、俺に似たやつと言うやつには手加減すら必要ないだろうが会って早々強すぎるやつというのは魔物にしか見えないだろうからなぁ)
「数年前に魔王を倒してからは、世界は平和になったんだ。だから、俺たち勇者パーティも解散して、俺はこの城でゆっくりしてた。だが、ここ数ヶ月で、急に魔物たちの動きが活発になった。いきなり闇と共に話の通じない5つの黒いやつらが城を襲った、外にでていた俺が帰った頃には城の皆が消えていた。死体があったわけではないんだ、皆がはじめからいなかったかのように、消えていた。そして、ついにはこんな、白昼堂々と村を襲うような魔物が現れたんだ……!」
魔物の襲撃の音は、近づくにつれて激しさを増していった。
「くそっ、この闇のせいだ! この精霊の国を覆う闇こそが、魔物たちを狂わせ、力を与えているに違いない!」
アレルは憤慨し、歯を食いしばる。
創夜は、アレルとリリィの言葉から、状況の深刻さを理解した。
「つまり、その『闇』の根源を断たないと、平和は戻らないということか?」
アレルは、迷いなく力強く頷いた。
「そうだ! 俺の勘が告げている。この精霊の国を覆う闇の元凶を叩かない限り、空は晴れないし、精霊の力も戻らない!そして、何より、俺の仲間の居場所も、このままでは分からない!」
勇者アレルは、再び剣を抜き放ち、決意の瞳で創夜を見た。
「創夜、悪いが、お前の仲間探しの手伝いは後だ、まずは村の連中を助けるぞ! お前は強い、俺の攻撃を軽く受け流すほどの力を持っている、力を貸してくれ!」
「わかった、見た感じ魔物が多いな。とりあえず村周辺の魔物の足を止める。」
無詠唱魔法のグラビティを唱える。
しかし、魔法は使えない。
「くつっ、アレルすまない、魔法が使えないのを忘れていた。重力魔法で村周辺の敵の動きを止めようとしたんだが、魔法が使えないのを忘れていた。」
アレルは創夜の横を走りながら答える
「あんたは外からきたんだったな、俺はそこまで魔法に詳しいわけではないが、仲間のスーが魔法使いなんだがそれでもそんな数の魔物に対する魔法なんかかけれないぞ、闇に染まった各呪文の精霊を助けることができれば元通り使えるようになるかもしれない。」
「先に行く、村人を襲っているやつらから叩く、間違って俺を斬らないでくれよ、範囲魔法が使えなくてもこの距離なら俺のスキルでなんとかなる。」
創夜は即座に夜の剣を抜き、目の前の村人を襲っている獣顔の狼人間のようなやつに瞬間移動で移動する。瞬間移動は魔法ではなくスキルだ。
「何てやつだ。早いな。俺も急ごう!」
アレルは創夜の動きを見て負けじと速度を上げつつ、村の皆が避難しているだろう場所へ魔物を真っ二つに切り裂きながら移動する。
村人に創夜が声をかける。
「避難場所はあるか?」
村人が創夜の見えない動きに唖然としながら答えた。
「村長の家の地下に皆隠れているはずだ。」
創夜は村長の家がどこなのかわからなかったので瞬間移動で他の敵を次々と夜の剣で移動しては切り、移動しては斬るという行動をしながら村人前に瞬間移動で戻りつつ村人にさらに質問する。
「その家はどこだ?、家の前まで行けば逃げれるか?」
村人は震えながら答えた。
「村のもんなら、すぐに避難できるべ、村長の家の裏に入り口があるだ。」
創夜は場所がわかると村人を次々と村長の家に集めた。
そこにアレルが駆けつける。
村人に魔物の炎魔法が飛んでくるが、アレルが空中で魔法を切り、村人に降り注ぐのを止める。
「アレル、俺は外の魔物を退治してくる。村人を守ってくれ。」
そういうと、創夜は瞬間移動で上空へ移動して敵の位置を確認すると、村を囲むフードを着たまどうしを次々と瞬間移動して真っ二つに夜の剣の抜刀術で瞬殺していく。
全ての魔物を討伐しおわり、アレルのもとへと戻ると、アレルは、3メートルはある大きな獣顔の敵と戦っていた。
固い爪の攻撃をアレルは受け止め、魔物の攻撃を弾き飛ばし、アレルの巨大な剣のスキルが発動する。
「勇者剣術・鳳凰十文字!(ホウオウじゅうもんじ)」
重い剣のはずだが、次の瞬間アレルは中に浮き、剣をふり終わっていた。
その直後、魔物の体を中心に十字にきれいな切れ込みが入り、炎が鳳凰となり出現し、現れた鳳凰が空に飛んでいった。
創夜は見たこともない剣術に驚きつつ、剣をしまうアレルに声をかける。
「今のスキルすごいな、俺も使えるかな。」
創夜にニヤリと笑いかけ、アレルがそれを否定した。
「これは、勇者にしか使えないスキルだ。世界を救ったときに鳳凰から授かった加護がないと使えない。」
創夜はがっかりしながら次の行動に移る、村の火を持っていた夜の剣を変形させ水を生成可能な剣へと変化させ、村の火を剣が産み出す水弾で消しにかかる。
アレルはその様子を見て創夜に遠くから声をかける
「便利なもんだなぁ、魔法がつかえないってのに。」
創夜は剣をふりながら答える。
「この武器は俺専用なんだ、神々から褒美としてもらったもので、魔法が使えないが剣自体に力があるものは魔法ではないが武器としてスキルを使えるんだ。まあ、俺にとっては魔法の方が便利ではあるんだがな。」
村人の安全を確認していた頃、リリィが顔を出す。
「創夜さん、アレル! 村長さんの怪我の具合は大丈夫かしら?」
リリィの声を聞き、創夜は村長らしき老人が軽い怪我を負っていたことを思い出す。創夜は水弾を放つのをやめ、アレルの傍に駆け寄った。
「そういえば、村長大丈夫か? 怪我はなかったか?」
創夜はまだ煙が燻る村長宅の地下入口付近へ向かい、村人たちが安心しきった顔で出てくるのを確認しながら尋ねた。
村長らしき老人が、感謝の涙を浮かべながら創夜に答える。
「お気遣い痛み入ります。創夜様のおかげで、わしらは皆無事ですじゃ。わしの怪我もかすり傷程度、もう大丈夫です」
創夜は安堵し、頷いた。
「よかった。とにかく、皆が無事で何よりだ」




