ep5.和の国編 鍛冶職人の仙人探し セリア編
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状況整理
① 青龍
② 白虎
③ 朱雀→誰かにより封印解除
④ 玄武
⑤ 大蛇
⑥ 黒夜神鹿
⑦ 九尾狐
⑧ 八咫烏→創夜により解放
⑨ 大天狗
⑩ 金烏
⑪ 狛犬
⑫ 麒麟
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赤い瓦屋根が果てしなく連なる城下町。その屋根越しに昇る熱気が空気を揺らし、風が吹けば、乾いた赤い砂埃がふわりと舞う。
通り沿いには桜でなく、深紅の紅葉樹が並び、赤・橙・金の葉がカサリと揺れた。
そして空には――火の粉のような朱い光粒が漂い続けている。
まるでこの国そのものが燃える生命を呼吸しているかのように。
セリアは町の中央にある古い井戸の脇で、ゆったりと杖を肩に乗せながら村人に声をかけた。
「ねぇ、鍛冶の技に優れた仙人の場所を知っていたりしないわよね……」
村人は驚いたように顔を上げ、口を半開きにした。
「仙人様なんてわしら村人があえるわけなかろう、あったもんも聞いたことないのう。朱雀様ならなにかしっているかもしれないんじゃが――」
「だけど?」とセリアは唇にいたずらな笑みを浮かべ、色気を含んだ声で言葉を促す。
「朱雀様は今、封印されておる。妖魔が封印の山を守り、誰も近づくことが叶わぬ……」
セリアは細い肩をすくめた。
「封印ねぇ……。創夜には戦わないでって言われてるのよ? まったくベビー扱いしてくれるわ」
しかし声には退屈を紛らわせる期待が混ざっている。
「――まぁ、いいわ。聞いた方が早そうね、創夜の魔法もあるけど私は基本的に魔法使いなのよ、後方高火力型の魔法使いなのよ!」
杖をくるりと回し、赤い砂を踏み出す。正直、無我の境地で近接をすべてすれすれでかわしてしまう彼女が後方なのかというとものすごい疑問が残るが、彼女がそう言っているのだからそうなのだろう。もしかしたら、命中率が低すぎよなんてからかってしまったら相手がかわいそうだ。
セリアは迷うことなく、封印の神社へ向かった。
神社へ近づくにつれ、景色は炎の世界へ変わっていった。
黒曜石のように鈍く光る岩肌。
割れ目から吹き上がる温泉の白い蒸気。
赤く光る地面の裂け目を伝う溶岩の流れ――。
その頂上に、古い神社の跡地と、巨大な朱色のクリスタルが突き刺さるように鎮座していた。
「ふふ、思ったより壮観じゃない」
そう呟いた瞬間――空が裂けた。
『――名を名乗れ、小娘。』
雷を纏った妖気。火竜のような翼。
現れたのは大嶽丸。鈴鹿山に巣くう鬼神。
セリアは眉ひとつ動かさず、杖を軽く上げた。
「名乗るほど謙虚じゃないの。あなた、私の魔力見てわからない?」
とどろく炎柱が襲いかかる。
しかしセリアの動きは――最小。
身体をほんの数ミリ傾けただけで、炎が背後に流れた。
「危ないわね。コントロールから教えないといけないのかしら。私の美しい肌が焦げたらどうするのよ、炎魔法の使い方を教えてあげるわ」
次の瞬間――
氷の杭が空を裂き、雷の鎖が大嶽丸を絡めとり、風刃の竜巻が肉を削ぎ、闇光が骨を砕く。
セリアは足を組むような座った姿勢で宙に浮きながら言った。
「火属性が得意……なのよね?」
賢者の杖の先に、太陽の核のような赤い魔力が凝縮されていく。
「──燃え尽きなさい。《フレア・アルマゲスト》」
世界が白く染まり――
鬼神は溶解した。
「あら、溶けちゃったわ」
朱色のクリスタルが砕け、封印が解けた。
長く続く石段。朽ちた鳥居をいくつもくぐり、奥へ進む。
昼過ぎ、空は薄紫から徐々に朱へと溶けていく。
その瞬間――
蝶のように形を変える炎の羽根が舞い、朱色の光柱が神社を包み込んだ。
炎の大鳥――朱雀が降臨する。
かすかに神楽鈴が鳴り、焚火の香りが鼻を掠めた。
『封印を解いたのはおぬしか、異界から来たものよ、答えよ。何を求める。』
セリアは笑う。
「鍛冶師の仙人。いるなら居場所を教えて?」
『――私の国にはいないようだ。異界から来たものよ実に愉快だ。』
「愉快って言葉、好きよ」
情熱と静寂が交錯する視線が交わった。
セリアは仕方がないので、さらに近くの大蛇の神社がある沼地へと向かった。
朱雀の国を南へ下ると景色は急激に変わる。
枯れ果てた竹林。黒い土。濃い霧。腐りかけた石橋。
どこかで小鬼の笑い声が混じる風。
そして――地面には底知れぬ巨大な断崖が口を開けていた。
冷たい湿気と生臭い風が吹き上がる。
セリアは火花のような光魔法を指先に灯し、静かに降りていく。
足元の闇は、まるで飲み込もうとする沼のように粘りつき、湿った風が髪と巨大な胸とローブを揺らした。
光魔法の輝きが断崖内部を照らすと、黒いぬめりの岩壁に古代の呪符や蛇骨が貼り付いており、ところどころから濁った水が滴り落ちる。
「……ほんと、湿気は嫌い。髪がうねるじゃない」
愚痴交じりに言いながらも、足取りは迷いなく降りていく。
底へ到達すると、広大な地下湿地が広がっていた。
緑が腐敗した沼、崩れた鳥居、コケと黒錆で覆われた祠。
そしてその中央――巨大なクリスタル。その中で、黒い蛇のような巨体がとぐろを巻いて眠っている。
セリアが近づくと――
沼地が泡立った。
次の瞬間、黒い影が水飛沫と共に飛び出し、巨大な口を開く。
その瞳は朱雀とは異なる、底なしの闇。
『──侵入者。封印を破りし者。許サヌ。』
巨大な水蛇――悪龍。
セリアは指先で髪を払った。
「声が低くて素敵だけど……口臭いわ」
悪龍の咆哮が湿地に響き、黒い水柱と水刃が襲い掛かる。
しかし――
セリアはまた数ミリ動いただけで、全てをすり抜けた。
「水と闇属性……ふふ、あなたの攻撃、悪くないわ。けど――」
杖を軽く振る。
――アストラル・コントロール
光が沼地全体に散り、湿地の黒霧が晴れる。
悪龍の動きが一瞬鈍った。
「こういう制御魔法……便利でしょう?身体が言うこと聞かない感じ、どう?」
悪龍は怒り狂い、今度は地を揺らすほどの衝撃波と泥の津波を放つ。
だがセリアは微笑んだまま。
魔法陣が足元に七重展開し、属性が高速で切り替わる。
氷 → 雷 → 土 → 光 →闇 →風 →火
「さ、実験よ」
七属性の魔法が連続して悪龍に叩き込まれ、湿地が衝撃で波紋を広げた。
悪龍の黒い鱗が剥がれ落ち、叫びが響く。
「ふふ……効いてる効いてる」
そして――決める。
杖を正面に構え、魔力が灼熱へ収束していく。
「水属性の耐性、強いわよね?なら――溶かすのが一番早いわ」
瞳が妖しく光る。
「終わりよ。フレア・アトミック・イラプション」
――爆炎。
世界が赤と白に塗りつぶされ、大地ごと悪龍が蒸発した。
残ったのは、黒焦げの沼の蒸気と、砕けた封印クリスタルだけだった。
セリアは指先をふっと吹き、杖を肩に乗せる。
「……ウナギの蒲焼き以下ね」
その瞬間――砕けた水晶の中心から、静かな気配が立ち昇る。
巨大な白蛇が姿を現した。炎でなく――冷たい静謐。
『……封印を破りし者。汝は炎か、闇か、それとも混沌か』
「呼び方好きに決めて?私はセリア。最強の魔法使いよ」
大蛇は面白がるように瞳を細める。
『ふむ……異国の者よ。求めしものは何だ』
「鍛冶師の仙人。ここにいる?」
『このような地の底に鍛冶師が来るものか。火と槌を好む者は山に生きる。沼では錆びるだけだ』
セリアは肩を落とし、大きくため息をついた。
「……やっぱりいないのね。ほんと、無駄足」
大蛇はくつくつと笑った。
『だが、つまらぬ旅ではなかったのだろう?その顔がそう言っておる。』
セリアはぷいとそっぽを向く。
「……まぁ、少しくらいは楽しめたけど」
湿地を後にし、断崖を登り、夜の里へ戻る頃――灯籠の光、小川のせせらぎ、虫の声が彼女を迎えた。
「はぁ……結局収穫なし。ほんと退屈。あら、創夜とフィーリアじゃないいい寝顔だわ。温泉があるって言ってたわね、お風呂にでも入りましょうか」
そう言いながら――口元はわずかに笑っていた。




