ep36.バベルの塔ss 夜の剣
闇の混沌との戦いが終わり、創夜たちは穏やかな休息の時間を過ごしていた。仲間たちの絆は一層強固になり、誰もが無我の境地に至る絶対的な力を手に入れた今、次の脅威に備える必要があった。
ある日の午後、創夜は神々から授かった**「夜の剣」**を握りしめ、仲間たちに声をかけた。
「ちょっと、海の方まで行ってくる。すぐに戻るよ」
ミーナが心配そうに尋ねる。「どうしたの、創夜?何か探しにいくの?」
創夜はニヤリと笑う。「いや、ただの試し切りだよ。なんにでも変形できるこの剣を、もっと遊んでみようと思ってな」
セリアは優雅に椅子に座りながら、創夜の黒い服を見つめて言った。
「まぁ、最強になったあなたでも、たまにはお一人様の時間が必要ってことね。ただし、海を壊さないようにね、創夜、男の子は本当に、ねっ。」
そうして、創夜は誰もいない静かな海岸へとやってきた。目の前には、どこまでも広がる青い海が波打っている。
「さて、遊んでみるか。最強の俺にふさわしい、最強の武器はなんだ?」
創夜は夜の剣を構え、意識を集中した。夜の剣は漆黒の粒子となり、その形を変えていく。
最初に試したのは、遠距離攻撃だ。
――夜の剣・変形!
剣は巨大な漆黒の複合弓へと変化した。創夜が弦を引くと、闇を凝縮した矢が生成される。彼は無我の境地の一端を使って弓を引き絞り、海に向かって放った。
「アロー・ストーム!」
弓を天に打ち上げると、空中に魔力で形成された無数の矢が生成され、広範囲にわたって雨のように降り注ぎ、敵の集団を制圧する技だ。
漆黒の矢は音もなく海面を貫き、遥か水平線の彼方で水柱を上げた。
「ふむ、威力は十分だが、発射までのタイムラグが気になるな。一瞬で全てを終わらせる俺のスタイルには合わない」
――夜の剣・変形!
創夜は一気に加速し、地を這うように疾走しながら突きを放つ。
「呪槍・赤雷なる貫穿!」
渾身の力を込めて槍を天高く投擲する。槍は赤い雷光を纏い、目標を追尾するかのように上空から降り注ぐ。
槍は時空を切り裂きながら進み、海面に巨大な渦を作り出す。
「あ、投げちまった!」
創夜は急いで渦の中心のヤリを回収し、元の位置に戻る。
創夜はさらに試行錯誤する。
――夜の剣・変形!
夜の剣は、肩に担ぐ巨大な漆黒のレールガンへと変化した。海に向かって放たれた一撃は、光と闇の混ざったビームとなり、遥か彼方の空を切り裂いた。
「破壊力はすごいが、打つまで時間かかるな。バスケでいうと、パス貰って投げるくらい効率が悪い。高速移動からの抜刀術の方が早い」
――夜の剣・変形(二丁拳銃)!
そして、創夜が最後に試したのは、二丁拳銃だった。
両手に収まった二丁の拳銃から、漆黒の弾丸が連続で海に向かって放たれる。連射は、弾丸の雨となって海を打ちつけた。
「フン、スピードはいいが、一点集中の威力が足りない。いくらチートと言っても、攻撃範囲が限定されすぎる」
創夜はさらに試行錯誤する。
――夜の剣・変形!
夜の剣は、巨大な漆黒の大鎌へと変化した。創夜はそれを低く構えると、眼前の空間を切り裂くように一気に振り抜く。
「虚空断裂!」
鎌が通った軌道上には、一瞬、夜の闇を切り取ったかのような深淵の黒い亀裂が走った。それは物理的な斬撃ではなく、空間そのものを断ち切る一撃。亀裂の先にあった波打ち際の岩礁は、鎌が触れる前に、まるで消しゴムで消されたかのように無音で消滅した。
「空間ごと断ち切る威力は凄まじい。防御を持つ強敵には切り札になるが、そもそも、俺が釜を降るのはきつい、この曲がった釜を使いこなすやつはどんなやつだよ!、剣でも出せそうな技だよな。」
創夜は考えられる全ての武器を試した後、深い溜息をついた。
夜の剣は再び、漆黒の夜の剣の姿に戻った。
「やっぱり、俺は剣だな……」
創夜は剣を鞘に収め、ガントレットへと変形させる。
「剣と、拳にガントレッドだな。遠距離系はそもそも、離れたところからわざわざ時間かけて攻撃する前に相手の懐に入ってしまうからなぁ。」
創夜は、遠距離攻撃を試す過程で、改めて自分の「抜刀術」と「殴る」スタイルが、一対一の極限接近戦において最も輝くことを再認識した。
「よし、帰るか。次は仲間たちと合同で訓練だな」
創夜は静かに砂浜を後にした。
この日の海が荒れたことは、当人は何もしらない。




