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転生したら無職で追放されたけど、実はチートだったので、とりあえず、魔王というやつをこの目で確めて来ます  作者: 真柴 零
バベルの塔編

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ep30.バベルの塔 二十四階 神々との決闘ヘカテー(Hecate) vs セリア

蒼白い月光が静かに降り注ぐ。

その輝きは空間そのものを変質させ、戦場をひとつの夜へと染めていった。


セリアの足元には、魔法陣が無数に広がっていた。

それは円環、三重、四重、果ては立体構造すら持ち――

幾何学的な美と狂気を兼ね備えた、究極の魔導陣。


対するヘカテーは、三つの月を背に浮かべていた。

蒼、紅、白。三色の月が互いに重なり、彼女の周囲に“異界の理”をもたらす。


「ふふ……いい夜ね。月がわたくしの味方をしてくれる。」

その声は静かで、しかし底知れぬ威圧感を孕んでいた。


セリアは微笑み、杖を軽く回す。

「夜は誰のものでもないわ。

 ――今宵は、私が“理”を上書きする番よ。」


二人の足元が光り、空間が一瞬にして爆裂した。


轟音。

七色の光と三色の月がぶつかり合い、世界が震える。


ヘカテーが先手を取った。

「――《ルナ・テンペスト》。」


空が裂けた。月光の刃が無数に生まれ、セリアに降り注ぐ。

一閃ごとに空間が断裂し、音が遅れて爆ぜる。


セリアは即座に指を弾く。

「“フレア・ヴェイル”!」


炎の障壁が展開され、降り注ぐ光刃を次々と焼き払った。

しかしヘカテーの唇が笑う。


「熱も、光も……どちらも月に従うのよ。」


紅の月が瞬いた瞬間、セリアの炎が逆流した。

まるで生き物のように方向を変え、彼女を焼き尽くさんと迫る。


「っ――!」


セリアは杖を大地に突き刺す。

「“アブソリュート・ゼロ”!!」


瞬間、空気が白く凍りつき、世界が静止した。

逆流する炎ごと凍結させ、月光の刃すら粉砕。

だが、ヘカテーはそれを見て笑う。


「やっぱり……いいわね、あなた。

 炎を凍らせるなんて、普通の魔導士じゃ考えもしない。」


セリアは息を吐き、指先に光を宿す。

「魔法は“想像”よ。制限は、いつだって己が決める。」


二人の目がぶつかる。

その瞬間、空間が再び崩壊した。


「――《グラビトン・ムーン》。」


ヘカテーの背後の三つの月が合一する。

空間が歪み、重力が数百倍に跳ね上がる。

石の大地が陥没し、セリアの身体が沈み込む。


「くっ……重い……!」


セリアの頬に汗が流れる。

だが、瞳には恐怖よりも笑みが宿っていた。


「だったら――重力すら、魔力に変えるだけよ!」


杖を高く掲げ、叫ぶ。


「“サンダー・コンヴァージェンス”!」


無数の雷光がセリアの周囲を走り、圧縮された重力を弾き飛ばす。

雷は一点に集束し、彼女の全身を光で包む。


「――これが、七属性融合の片鱗よ!」


雷、炎、水、氷、風、土、光。

七つの属性が一瞬にして展開され、セリアの周囲で渦を巻く。

大地が鳴動し、風が叫び、魔力が唸る。


「《エレメンタル・オーバードライブ》!」


それは七属性の奔流。

まるで星を砕くような光の奔流が、月光の女神へと突き進む。


だがヘカテーは動かない。

「……美しい。でも、“夜”は一つではないの。」


彼女の背後で、三つの月が再び分裂した。

その光が互いに反射し、七属性の光を分解してゆく。


「――《トリプル・ルナ・ディフラクション》。」


七色の光は分断され、方向を変え、逆流する。

セリアはすぐに理解した。

――属性の位相を“分解”して、干渉させている!


「くっ……!」


セリアが防御を展開する間もなく、反射した光が地平を焼いた。

爆風。

彼女のローブが裂け、白い肩が月光に晒される。

だがセリアは気にも留めず、ただ笑った。


「やるじゃない……理屈だけじゃなく、実戦も一流ね。」


「当然よ。私は“月”――理と狂気の狭間の女。」


二人の魔力がぶつかり、衝撃波が空を裂く。

遠くでミーナが悲鳴を上げた。


「ひ、ひぃっ! 魔法の余波がここまで来てるんだけど!?」


ミリィが片翼でミーナを守る。

「下がってて! あれは次元そのものを削ってる!」


創夜が口元を歪めた。

「セリア……本気だな。あれ、もう俺でも止められねぇぞ。」


リンが腕を組み、満足げに頷く。

「ふふ、セリアは強いアル。あの冷静な顔、まだ“余裕”あるネ。」


再び視線が交わる。

ヘカテーが唇を舐めた。


「あなた、もしかして――私の魔法、解析してるのね?」


セリアが微笑む。

「解析済みよ。

 三重位相、三つの月で干渉――でもね、“三”は“七”には勝てない。」


杖の先端に七つの魔法陣が浮かぶ。

「七式同時詠唱――発動。」


「“フレア・テンペスト”!」

「“アブソリュート・ゼロ”!」

「“ライト・ブレイク”!」

「“サンダー・ストーム”!」

「“エアリアル・スラッシュ”!」

「“クエイク・ライズ”!」

「“シャドウ・リバース”!」


七つの属性が一斉に爆発し、全方位からヘカテーを包囲する。

地面が崩れ、月が震え、空が悲鳴を上げる。


だが――


「ふふ、七つ全部、見せてもらったわ。」


ヘカテーの瞳が怪しく光る。

「なら――吸収させてもらう。」


三つの月が輝き、七つの魔法が吸い込まれてゆく。

ヘカテーの髪が白く染まり、背後に“偽りの星空”が生まれた。


「――《ルナ・ミメシス》。

 あなたの魔法、わたくしのもの。」


次の瞬間、七属性が逆に放たれた。

セリアの魔法が、セリア自身を襲う。


「っ……私の魔法を……コピーした!?」


ヘカテーの声が夜に響く。

「理解したものは、支配できるの。

 あなたが“想像”を信じるように、私は“月の理”を信じる。」


「理に支配されると思ってるのね。」


セリアの瞳が赤く光った。

「だったら、その“理”ごと、飲み込むわ。」


杖を横に払う。

魔法陣が裏返り、闇が広がる。


「――“マジック・アブソーブ”!」


七つの属性が渦を巻き、逆流してヘカテーに突き返された。

衝撃。空間が弾け、黒と白の光が交錯する。

天と地の境界が歪み、両者が光の中心でぶつかり合う。


ヘカテーが叫ぶ。

「面白いッ! やっぱりあなた、わたくしの理想よ!」


セリアが低く応じる。

「理想? いいえ――私は、あなたの“限界”よ。」


二人が再び詠唱に入る。

声が重なり、魔法陣が無限に増殖する。


創夜が汗をぬぐいながら呟く。

「おい……世界、耐えてるかこれ。」


リンが真顔で頷く。

「ある意味……バベルの塔がいちばんの被害者ネ。」


ミーナが震えながらも叫ぶ。

「が、がんばれセリア! 勝ったらスイーツ奢るからぁ!」


ミリィが冷静に見据える。

「二人とも、次の一撃が本当の“限界突破”よ……!」


七色の光。

三色の月。


理と理、想像と支配。


二人の魔導士が、世界の根幹を賭けて詠唱を続ける。

そして――夜が弾けた。


「――《ルナ・ジェネシス》!!」

「――《エレメンタル・アルティマ》!!」


月と七色が激突。

光が、音が、時が、すべて消えた。


ただ、沈黙。

そして――爆発。


空が裂け、塔が揺れ、神々すら言葉を失う。


セリアとヘカテーは、煙の中で睨み合っていた。

どちらもまだ倒れていない。

息が荒く、衣は焦げ、魔力は限界。


けれど、瞳だけはまだ燃えている。


夜の静寂に、セリアの声が響いた。

「……まだ、終わらせないわ。」


ヘカテーが微笑む。

「もちろんよ、セリア。

 ここからが本当の、“理の戦い”――。」


空気が震えた。

世界が二つに割れたかのような、純魔力の波動。


セリアとヘカテーの間に、光と闇が交錯していた。

ヘカテーの杖からは青白い月光が、セリアの掌からは七色の魔紋が広がる。


「やはり、あなた……ただの人間じゃないわね」

ヘカテーの声が、夜の風のように滑る。

「この“魔力の流れ”……星をも焼く可能性を秘めてる」


セリアが唇を歪めた。

「褒め言葉として受け取っておくわ。けど、私はあなたを“解析対象”としてしか見てないの」


その瞬間、魔力陣が互いに弾けた。


「――“灼熱奔流フレア・ストーム!!”」

紅蓮の渦が天を焼く。

だがヘカテーは指を鳴らす。


「“虚空吸収ヴォイド・アブソーブ”」


炎が、彼女の前で消えた。

まるで存在そのものを呑み込むかのように。


セリアの瞳が細まる。

「なるほど……属性反転ね。なら――これはどうかしら?」


両手を広げ、七つの魔法陣が浮かぶ。

「炎、水、風、地、雷、光、闇――七重連撃・原初連鎖陣ヘプタ・リンク!」


七属性の奔流が一斉に放たれ、光の矢となってヘカテーを包み込む。

月光と炎がぶつかり合い、空が砕けた。


創夜が腕をかざして叫ぶ。

「セリア、やべぇぞ! あれ、次元が裂けてる!」


ミーナが飛び上がる。

「ぎゃーーっ! 空が歪んでるの!? やばい、やばい、やばいぃぃ!」


しかしヘカテーは笑っていた。

「“夜月の鏡界ルナ・ミラー”」


月光が無数の鏡面を生み出し、セリアの魔法を反射。

七色の閃光が跳ね返り、セリアの周囲を襲う。


「――ッ!」

セリアは即座に詠唱を切り替える。

「“絶対零度アブソリュート・ゼロ”!!」


氷が爆ぜ、すべての光線を凍結させる。

凍りついた空間が粉々に砕け散り、セリアの頬に氷片が舞う。


ヘカテーが杖を振る。

「美しい……けれど、まだ月の底までは届かない」


「言ってくれるわね」

セリアの髪がふわりと舞う。

ドレスの裾が焦げ、白い肌が月光に照らされた。


創夜が息を呑む。

「……セリア、マジでやばいぞ。あれ以上やると、身体が――」


だがセリアは笑った。

「創夜、心配しないで。私、限界って言葉……嫌いなのよ」


その瞬間、彼女の背後に七つの月が浮かび上がった。

ヘカテーの瞳が大きく見開かれる。


「なに……その術式は!?」


「――“星界崩壊スター・バースト”」


七つの魔法陣が同時に輝き、空が白く染まる。

炎が月を焼き、氷が空を凍らせ、雷が時間を裂いた。

ヘカテーが防御の結界を展開するも、押し込まれる。


「馬鹿な……この魔力量……制御できるはずが……!」


セリアの声が響く。

「できるのよ。私が、“完全制御者マギア・オーガナイザー”だから。」


轟音と閃光。

二人の魔法がぶつかり合い、地平線ごと世界が反転した。


創夜たちは思わず後退する。

「……っ、すげぇ……もう神と魔女の戦いじゃなく、創造主同士の殴り合いだ!」


ミリィが目を細めて未来視を発動する。

「……二人とも、まだ終わってない。セリア……次、来るわ!」


ヘカテーが叫ぶ。

「“三日月の大審判トライ・ルナ・ジャッジメント!!”」


三本の光柱がセリアを貫かんと迫る。

しかし、セリアの指先が月光をすくい上げた。


「美しい月ね。でも、私のほうが輝くわ。」


そして、囁くように呪文を唱える。

「“超越極限連鎖陣アルティメット・ヘプタ・リンク・バースト”!」


七つの属性が融合し、純白の魔力となる。

大地が浮き、空が裂け、海の幻影が噴き上がる。


ヘカテーの月光が呑まれ、世界が一瞬、静止した。


爆音。

ヘカテーの結界が砕け散る。

光が消え、砂塵が渦を巻く。


セリアがゆっくりと姿を現す。

衣は裂け、肩や背中が露わになっている。

汗が肌を伝い、彼女の瞳はなお燃えていた。


静寂の中、彼女は指先で髪を払う。

唇がかすかに笑みを描く。


「……ねぇ、月の女神さん。」

月光を背に、セリアは片目を細めて囁いた。


「“光”と“闇”は、私の舞台照明なの。――覚えておきなさい、これが“本物の魔女”よ。」


爆音のあと、世界が静まり返った。

光の余韻が消えると、そこに立っていたのは――ただひとり、セリア。


彼女の体を包むドレスはほとんど原型を留めていない。

肩も脚も露わに、焦げ跡と裂け目が月光に輝いていた。


だが、その姿は敗北のそれではない。

むしろ、圧倒的な「勝者のオーラ」に包まれていた。


ヘカテーは崩れ落ち、杖を支えに膝をつく。

口元にはまだ微笑みが浮かんでいる。


「……信じられない。私の“月の結界”を破るなんて……」


セリアがゆっくりと歩み寄る。

彼女の瞳は静かに燃えていた。


「あなたの“鏡界”……最初に観察してたの。

 反射角と波動の干渉、全部、記憶してたから」


ヘカテーが息をのむ。

「まさか……最初の戦闘の時から……!?」


セリアは軽く頷いた。

「ええ。あなたの魔力は“月光”――周期と波長で動いてる。

 なら、その周期の“欠ける瞬間”を突けば……崩壊は避けられない」


指先をぱちんと鳴らす。

淡い青の魔法陣が浮かび、月光が散る。


「“再現・月蝕リ・エクリプス”」


ヘカテーの結界が、まるで欠けた月のように音を立てて崩れた。

魔力が暴走し、女神の身体が光に包まれる。


「……降参だわ」

ヘカテーが静かに呟く。

「ここまでの“完全制御”……あなたが真の魔導を知る者ね」


セリアが微笑む。

「あなたも……強かったわ。こんなに“楽しく”戦えたの、初めてよ」


ヘカテーが微笑み返す。

「同じ魔に生きる者として、誇りに思うわ……人の魔女、セリア」

そして、光の粒となって退く。


沈黙。


仲間たちは誰も言葉を発せなかった。

やがて創夜がゆっくりと息を吐く。


「……マジで、やばいな。

 あんな戦い……見たことねぇ」


ミーナが目をぐるぐるさせる。

「いつものセリアじゃなかったわ。いつも手を抜いていたのね。」


ミリィが頷きながら呟く。

「あれが“本気のセリア”なのね……」


エジスが一歩前に出て、苦笑する。

「けど、セリア……服、ボロボロだよ」


セリアが少し頬を染め、肩を抱く。


エジスが微笑む声が聞こえてきた。

「まかせて。――“神盾修復ディヴァイン・リストア”」


光の盾の粒子がセリアの身体を包み、

裂けた布が縫い合わされるように元の姿へ戻っていく。

金糸のドレスが再び整い、彼女の姿は静謐な輝きを取り戻した。


セリアがエジスに軽くウィンクを送る。

「ありがとう、エジス。あなたの修復魔法、なかなか繊細ね」


エジスは少し照れながら目を逸らした。

「そりゃ……“師匠”直伝だからね」


創夜が笑う。

「まったく……神相手に“楽しかった”なんて言えるの、お前くらいだ」


セリアは軽く髪をかき上げ、

月光に照らされた横顔で微笑む。


「だって――相手が神様じゃなきゃ、退屈でしょ?」


その笑顔は、美しく、そして少しだけ危うかった。

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