ep.25 バベルの塔 十階 スフィンクス
転移陣が沈黙を破り、創夜たちは次の階層へと落ちた。
そこは――静寂に包まれた高い石の台地。空は淡い金色に染まり、周囲には奇妙な岩柱が立ち並ぶ。
「……ここ、雰囲気が妙アル」
リンが辺りを見回す。
沼地の混沌を抜けた後だけに、静けさが逆に異様に感じられた。
前方の広場に、一体の巨大なスフィンクスが座していた。
黄金色の毛並み、巨大な翼、そして人の顔――その眼差しは鋭く、どこか知性と威厳を感じさせる。
「……ここが、10階か」
創夜が剣を鞘に納める。
転移陣が光を放ち、創夜たちは次の階層に降り立った。
そこは、白い砂と青い空が広がる異空間――空と砂の境界すら曖昧な広大な平原だった。
しかし、静寂を破る声が響く。
「挑戦者よ――貴様らの知恵、そして心を試そう」
空中に浮かぶ巨大なスフィンクスが姿を現した。
黄金の毛並み、透き通る翡翠の瞳。その威容は威圧的で、存在するだけで空間を震わせる。
「私の問いに答えよ。正しき者のみが先へ進める」
スフィンクスは静かに語った。
スフィンクスが低く唸る声で告げた。
「五つの光、六つの影、七つの声を持つ者。
ひとつでも欠ければ、闇に飲まれる。
これは何か?」
セリアが眉をひそめ、声を上げる。
「五つの光……仲間たちの魔力や個性? 六つの影は……私たちを支える存在、見えない力? 七つの声は……私たちの意思や意志の声かしら」
創夜が剣を握り、頷く。
「そうだ、俺たち全員の力が揃わなきゃ突破できない。仲間との絆……だ」
リンも拳を握りしめる。
「仲間が揃っているから、どんな試練でも越えられるアル!」
ミリィとミーナもそれぞれ小さく頷き、うなずき合った。
「……正解だ」
スフィンクスの瞳がさらに輝きを増した。
「止まらぬ流れ、変わらぬ石、触れぬ風。
進みたい者よ、何を持ちて進む?」
創夜が少し考え、口を開く。
「止まらぬ流れは変えられない。変わらぬ石はどうしようもない。触れぬ風も同じだ。
だから――俺たちは信念と仲間との絆を持って進む」
セリアが微笑む。
「私たちの意思ね。そう、自由の意志が試されているのよ」
リンが元気よく声を上げる。
「アル! 俺たちの心も持って進むアル!」
ミリィも未来を視た瞳で頷く。
「どんなに先が見えなくても、みんなと一緒なら」
「その通りだ」
スフィンクスが羽を広げ、空間に光の橋を架けた。
「正しき答えを見せた者よ。自由とは、己と仲間を信じることなり」
光の橋が次の階層へと続く。
仲間たちは互いを見つめ、無言で小さく頷き合った。
試練を乗り越えた者だけが知る、静かで確かな信頼。
転移陣の光が再び周囲を包み込み、創夜たちは11階――新たな試練へと進むのだった。




